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第64話「樹洞の泥玉」

 ゲーム本編において、主人公以外が魔法値強化の鍛練なりをしているシーンを俺は見なかった。

 主人公がある程度強くなると、主要キャラも勝手に上がっていってたようだが、これはゲーム上のお話。

 RPGのテレビゲームみたいに「スライムとか、ひたすら倒していたらレベルが上がりました。レベルMAXです! てへっ!」みたいな世界ではないのだ。

 前世以上にリアルな努力が必要な世界なんだわ。

 他のキャラと違いラストバトル迄あまり主人公に絡まないカルヴィン・クラインだが、そこそこフラグが立ってくると、彼女に自分の話をする。

「いつもお一人のようですが、何処にいて何をされてるのですか?」

「あまり言いたくないけど、君にならこっそり教えてあげる。学園の樹木の中には穴が空いてるのがあって、そこに泥玉を隠して、魔法の訓練してるんだよ……」

 確か、こんな会話してた。

 いつも独りでこんな所にいてるから、カルヴィンは陰キャ扱いなんだろう。

 実際、学園内、特に外園の塀の周辺に森みたいに生えている樹木の中には、ウロがある。近くを歩いてたら「あっ、いける!」と思って見上げた木が何本かあった。

 枝振りもよく、俺一人なら余裕で座れる辺りに二十センチ弱の穴が空いていた。

 特に鳥さんの巣でもないので、一つのうろに泥玉こさえて、あちこちにニ~三個ずつ程度入れてある。

 そんなウロのある木の上で、俺は泥玉相手に、自身の魔法のレベルアップを謀っていた。

 泥玉。所謂、泥だんごだ。小学生男子をしていたら、人生一度は意味もなく泥だんごをこさえてしまう時期がある。テカテカピカピカの泥だんごは、男児のロマンよ!

 それを、うちのおかんは壊しやがった。

 あれは小五の終わり頃。家の縁側に四角いお菓子の缶かんに泥だんごを入れて保管してた。おかんが見つけよった。

「あんた、もうすぐ六年生なのよ! 中学受験なの!」

 一方的に怒鳴りつけるおかん。

「こんなもの! こんなもの!」

 泥だんごは、玄関先の花壇付近に敷き詰められている防犯砂利の上に叩きつけられる。

 くしゃり くしゃり くしゃり

 ぱっくり割れた泥玉は複数の土の塊に別れた。

「こんなんしてる暇があったら、勉強しなさい!」

 まだ再生の可能性のあった土塊は、女の足で踏みつけられて、グリグリと敷き詰められた茶色の石に押し付けられて、砂に近いただの土になった。

「あーあ。馬鹿みたいっ!」

 おかんは、その辺に泥で薄汚れた缶カンをほり投げると手を払って、家に戻っていった。

 惨めな泥ダンゴの残骸を見つめて呆然と立ち尽く俺。

「どうした?」

 外から帰ってきた姉1に頭を撫でられた。

「お母さんに……泥ダンゴ捨てられた……」

「えっ!? あのテカテカの? ウソっ! 信じられない!」

 姉の眉間にシワが立つ。

「取り合えずお家に入りな。身体冷えるよ」

 俺は姉に促され玄関ドアを開けた。

 その後、俺の泥ダンゴをめぐって姉1とおかんは言い合いをしていた。

「子供の時間の内に、ちゃんと子供をさせてあげないとダメだ!」と、姉の主張。

 勿論、おかんは聞く耳を持つはずもなく、「勉強以外必要ない」と怒鳴り散らす。

「なら、もうファミレスでキッズドリンクバーとか頼まず、大人料金払えよ!」

「それとは関係ない!」

 姉2が帰ってくるまで大喧嘩してたな。

 あの日、姉1の大学受験の合格発表があった日でもあったような。

 確か、合格してたはず……。

 ほんと、今思い出しても腹が立つ……。


 水分を失いつつある泥玉は、硬度は増すが衝撃を与えれば崩れてしまう。

 これを"泥の傀儡"で小さな土人形に変える。

 水分の少ない土を人型にして魔力だけで形状維持したまま動かすのは、なかなかしんどい。

 ゲーム中、カルヴィンがやってたのはそういう鍛練なんだろう。

 小さな土玉を変形させて手足と頭を生やす。ずんぐりむっくりな体型を人っぽく変えていく。

 玉を構成する全ての砂や粘土の粒一つ一つに俺の魔力を絡め繋げるイメージだ。

 学園の魔力探知に引っ掛かるのかとヒヤヒヤしていたが、二メートルを越える高さの場所で、少量の魔力消費なら引っ掛かり難いらしい。

 今のところ、職員から何も言ってこないので、魔力値強化の申請なしに、目下魔力値増強に邁進中である。

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