第62話「瘴気の墓場の骨骨ロック」前編
少し北側の場所を選んで歩く。これも墓石の間を確認しながら。
「おーい!」と、誰かが俺らを呼ぶ。
手を振ってたのは、三年の女先輩。近くに、顔見知り一年の三人がいた。あと彼らについてくる犬一匹がワンワン吠えた。
犬には魔石の付いた首輪がされている。偵察用に放った一匹だ。
「ヴォルフ!」「ヴォルフ様ーっ!」
東に移動しながら、お互い合流する。
「何かあった?」
「魔物化した鼠が一匹。彼が倒しました」
同級生の火属性剣士が、ガッツポーズした。
「こっちは何もなしよ」
「その方が良いですよ。急に飛び出してくるから、足が竦みそうになりました」
ヴォルフの説明だと、キャロリンの土人形を盾にして、ヴォルフの"風の檻"で鼠確保。三年の水先輩の"氷結の矢"で凍らせて、"炎の剣"で一刀両断。
初陣にしては上出来な方。
学園の模擬戦は、"泥の傀儡"を魔物化動物に見立てて行う。
つまらんわけではないが、もの足らない。
鼠とか小動物なら実践してみたい。
開けた場所が見えてきた。
地図にあった丸い広場。直径十メートルくらい。植込みに囲まれている。小さな公園程度の大きさだ。南北に細い道、東西に土人形が通れる程度の道に接続されていた。
「ここで休憩ですか?」と、俺がランカ先輩に尋ねる。
「墓場よ、ここ。座るとこないでしょ。地べたや墓石座るわけにもいかないし」
「座りたいですか?」と、ヴォルフ。
「"緩衝の風"なら、少しの間座れますよ」
ブルジェナ嬢が、両手で五十センチくらいの風の塊を作り出した。そして、地面に置いて風の塊の上に跨がる。
「ほら、座れるでしょ」
「十分くらいしか持ちませんが」
「座りたい!」と、ランカ先輩が手を挙げた。
俺とキャロリンは、土人形しゃがませて、土の膝の上に跨がった。
「風」属性者二人がこさえた空気の塊に座るメンバー。
六つのリアル空気椅子。うち四つはおひぃさん作だ。
隣の二年の水先輩が、俺の土人形の水分使って"水錬成"を展開し、手酌でワンコに水を少し与えていた。
頭を撫でられワンコ嬉しそう。
五分ちょい座ってただけだが、長居しても意味がないので、広場を撤退することに。
風の二人が指パッチンで空気イス解除してる時だ。
「この辺りって、モグラいるんですね」と、火剣士君が言い出した。
「モ、モグラ……?」
「オレの田舎、割りと畑にモグラがいて。オレ見慣れてるんですよ。ここにもモグラ穴がちょいちょいあったし。あそこの隅にも」
広場の端っこに、小さいけれど妙な盛り上がりがあった。
「生き物って、鼠とか以外に地下のモグラも対象ですよね……」
俺、嫌な予感がして、ランカ先輩に尋ねた。
「地下室とかじゃないけど、可能性はゼロじゃないわね」
数日、瘴気に侵食された場所だ。
汚水が染み込んだ土地のように、土地の表層だけでなく、深い場所も瘴気に毒されてる可能性は高い。
魔物化したモグラが出てくるか……。
大人しかった犬が、歯茎を見せてグルグルと唸りだした。
靴底を伝って、地面の蠢きが足の裏をゆっくりと掻き毟る。
二つの土人形の一部の土を直径二メートル強の円状にバラ撒いた。
土人形の水分は、聖職者が浄めた水だ。簡易の結界になる。これで直接下からはこれないはずだ。
変色した土の上。キャロリンの土人形を東に、俺のは西側にして皆を挟むように配置する。
俺と二年水先輩、キャロリンと三年水先輩。南北に、一年剣士とヴォルフ、三年ランカ先輩とブルジェナ嬢。
眼前二メートル先。俺らを取り囲む様に複数の土が盛り上がり、白いモノが現れた。
無数の骸骨の手。そして頭蓋骨。
穴から這い上がる髑髏達。
首まで出たあたりで、「いけーっ!」とランカ先輩叫ぶ。
「「"泥の弾丸"」"機関銃"」「「"氷結の矢"」」
「"炎の矢"」「"火炎の刃"」「「"竜巻"」」
前に伸ばした土人形の右腕の指から発射される土の弾。骸骨の額に当たる。直後、よく凍る"氷結の矢"がぶち当たり、土に埋まったまま固まった。
俺は"泥の弾丸"の連射技で、一気に骨の頭をクリーンヒット。キャロリンは、一発一発丁寧に、骨の額に泥弾を当てていく。
南北の火風組。
"炎の矢"と剣から繰り出された"火の刃"は"竜巻"と合わさり、白い骨達は真っ赤になって躍り狂う。
「今のうちに、出口へ!」
ランカ先輩が叫ぶ。
キャロリンの土人形を先頭に、二人の水先輩、ブルジェナ嬢、ヴォルフ、ランカ先輩、火剣士、俺の順で、東西へ繋がる道に向かう。
三年の水先輩カチコチ冷凍骸骨の上を飛び越え、ブルジェナ嬢も飛び越えようとした時だ。
氷漬け骸骨の氷結の封が綻んだ。
「うわっ!?」
驚きたじろぐおひぃさん。
「気にせず飛び越えなさい!」
キレるランカ先輩。
「でっ、でも……」
困惑する後輩に苛立ち、先輩は舌打ちする。
「"炎の矢"」続き「"火炎の刃"」。
「火」属性術者の技が、骸骨を直撃。
「進めませんやん……」
しまったという顔する火炎使い達。
「「"水錬成"」」
ばしゃーっ!
カルシウムはそれなりによく燃え、急激な温度変化にピシピシ音を立ててバラバラになった。
「早く!」
「ごめん、エミー!」
三年水先輩の援護で、骸骨ハードルは片付いた。
砕けた骨をヴォルフが飛び越える。
続いて飛び越えようとしたランカ先輩の足に何かが纏わりついた。
「ひゃーっ!?」
すっとんきょうな声をあげ、ずしゃっと前のめりに地面に直撃したランカ先輩。
地面から生える骨の手。
火剣士が、剣に炎を纏わせ骨を切る。
「先輩!」「先輩! 大丈夫ですか!?」
俺ら声に反応しない。剣士君が抱き起こして仰向けにしたら、彼女は気絶していた。
「あかん!」
「とにかく運ばないと」
同級生の剣士は、先輩を抱き抱えヴォルフより先に通路に出た。
「キャロリン! 人形に先輩運ばせて先に行け!」
「わかりました」
地の同輩学生の土人形は背負うみたいなお姫様抱っこスタイルでランカ先輩を抱え、水女子先輩と火剣士とで逃げた。ついでに犬も。
「おひぃさん何してんの? はよ、行かな!」
広場の出口前で立ち尽くしてるブルジェナ嬢に、俺は怒鳴った。
「ヴォルフ様っ!」
俺の斜め右前にいるヴォルフの足に、無数の骨の腕が絡み付いていた。
自分の剣で骨の腕を砕こうとしているが、埒が明かない。
「畜生!」
ヴォルフの周りに、人形の土をバラ蒔かせた。
俺も剣を抜いて、骨どもに切付ける。
硬い!
カルシウム硬い!