第61話「瘴気の墓場」後編
馬車から降りた時から、空気が淀んでいた。
空は薄暗い。墓場入口から百メートルくらい離れた場所から墓地を見上げる。
積乱雲でもかかってるのかも思える程、真っ黒だった。
「チーム毎に集まってくれ」
ごつい体型した副学長のドスの効いた声に、学生らは集合する。
「今から連絡手段の魔具の耳飾りを配る。好きな方の耳に着けてくれ」
職員の人らが用意した薄く大きな木箱が二つ。中には紫に近い紺色のビロードクッションに並べられている銀の縁取りのある一センチくらいの丸い紫色の魔石。薄くドーム状になっておりつるりとしている。リングぽい物でなく、ぱちんと挟むタイプの物だ。
「どちらでも良い。片耳に着けてくれ」
俺は左に耳飾りを着けた。バネがきついのか耳たぶが少し痛い。そういえば、おかんがこんな感じの真珠ぽいイヤリングを、学校の式典とかに来る時はしてたなと思いつつ。
しばらくすると左耳の辺りで、ラジオの電波がガチャガチャする様な音が聞こえて来た。
「皆さん、聞こえてますか?」
声の主は、オタク三銃士の鼻眼鏡だった。
「聞こえてます!」「大丈夫です」
「反応してます。大丈夫です。先生方どうぞ」
「風属性由来の魔具ではありません。しかし、指先から魔力を込めれば、こちらに声が届きます。何かあったら知らせて下さい。但し、墓地の中は既に瘴気の迷宮になってます。その為、声は届き難くなっています。注意して下さい」
地魔法の先生の説明に不安になった。
馬車から少し離れた空地に地魔法の選抜五人が集められる。それと、銀髪会長に、首の長い銀の壺を持った神職の若い女性。
「セレスタ君、ジェルトリュード君。やってくれ」
「はい。"水錬成"!」
空中ニメートル位の高さに、ゆらゆらと揺らめきながら大きくなる水の塊。
五十センチくらいサイズになってバシャッと落ちた。
びちゃびちゃの地面に、神職女性が壺のコルク栓を抜いて水を回しかける。
水が地面に染みていった所は色が変わった。
「"泥の傀儡"」
ジェル姉が「地」魔法を展開した。地面が魔力スパークでチリチリ光る。
にょきにょきとこんもり現れる五つ土の塊。やがて、大きくなりニメートルを越す大きな人型と化した。
「譲渡します。更新して下さい」
五体の土人形。
地魔法使用者は、土人形の胸の辺りに手を触れて、魔力を注ぎ自分の土傀儡とした。
俺は姉御の魔法に慣れてるから、触らなくても目当ての土人形に指パッチン!
「墓地の水土風は、瘴気に汚染されている。よって通常より魔法効果が弱まる。これらは聖水で浄化した土で製造した土人形だ。攻撃にも防御にも役立つはずだ。上手に使いたまえ」
俺らが土人形用意してる間に、「無」属性の生物操作系の人らが、犬、猫、烏をに魔石の付いた皮ベルトを首に着けて、数匹ずつ墓地入口に放った。
わざわざ墓地入口から入れたのは、そこからしか入れない状態だからだ。鳥なら上空から飛ばしても良さそうだか、恐らく入れないのだろう。
「各チーム、指定されたルートを辿って戻ってきてくれ。異常を見つけたら報告を。くれぐれも瘴気の種を見つけても触れないように」
一班の俺らは、一番南側ルートを進む。
墓地に足を踏み入れてから、頭がおかしい。軽い立ち眩みしてるみたいにふわふわする。皆、一旦自分の両頬ペチンと叩いて正気に戻そうとした。
俺らでこんな感じに、異常を空気で感じている。魔力を持たない一般人ならもっと頭おかしく感じるだろう。
西へ西へ。俺らは進む。
墓石に引っ掛かりそうになる土人形は、時々足とか細くして歩かせた。
「ブルジェナ嬢、あんた今魔力値いくつ?」
「魔力値ですか? この前測ったら六百超えてました」
「ええなー。うちの姉御並みやん。俺なんて二百八十いくかなーってところやのに。女子は魔力値増えやすいんか?」
「いくら何でも高過ぎない? 私、二百九十超えたの最近よ」と、ランカ先輩が割って入ってきた。
「あっ、貴女、どこの名家のご出身?!」
先輩に詰め寄られきょどる同級生。
「えっ……。あのー、平民で実家はパン屋さんしてました……」
「はっ!? 嘘よ! 実は、貴族の隠し子じゃないの!?」
「もう、ええやなんですか。神様の贈り物は平等ではないし、大いなる能力には大いなる責任と義務が生じるんですよ」
適当な事言って、俺は二人の間に割って入った。
「あっ、カラス!」と、二年の先輩。
バサバサっと一羽の烏が近くの墓石に停まった。
烏は首輪をしている。
偵察用に操作された生き物の一匹だ。操ってるのは、一年のエイミー嬢。
俺は烏に手を振ると、それは首を左右に傾げた後、バサバサと飛び去っていった。
妙な気まずさもあって、俺はおひぃさんの側にいて、先輩から距離を取らせた。
墓石と墓石の間等、人が倒れていないか、瘴気にあてられ魔物化した動物がいない確認しながら西へ西へ。
多少丘っぽくなってるので、微妙なアップダウンがある。
魔物化してる鼠一匹見つからず、西の墓地の果てに来てしまった。
ランカ先輩が、耳飾りに指を触れる。
「こちら一班三年ランカ・ローニャンです。西の隅まで来ました。四人揃っています。特に何もありません。これからUターンして戻ります」
俺らも音声拾う為に、耳飾りに指を触れる。
ガガガガっ。
周波数を拾いきれてないラジオみたいな音がする。
「りょ……した。安……確認し……戻……え」
「了解しました」
音声が切れた。
「音悪いっすね」
「これ、マシになったわよ。前は、通常がさっきのより悪かったから」
「改良された?」
「新興の業者に変わったんでしょ。一年の黒髪眼鏡の男子が、先生方と魔具の相談してたから」
あー、オタク三銃士の鼻眼鏡か。「無」属性なの知ってたけど、実家魔具業者だったんや。