第58話「波乱万丈 借りもの競争」後編
南側のケイリー前会長の所に向かう。
黒髪先輩も頭抱えてた。
「すまない。私のミスだ。士官学校組の特性を君に伝えていないばっかりに……」
「いえ。ルールを詰め切らなかった俺のミスですよ。それに怪我した女子がいるとは言え、ルール曲解したポチが悪いです!」
「ポチ……とは?」
「王子様の家来のデリックです」
「あー、あの黒い彼か……。何故にポチ?」
「ご主人様に従う忠犬の名前は、ポチかハチ公です」
「はっ、はぁ……」
前会長を困惑させてしまったが、過ぎたことはどうしようもない。
んっ?
後ろから気迫!
自ずと後ろを振り返る。
「うりゃーっ!」
大男が蒙スピードで走ってくる。
誰も連れてない。
置いてきたのか!?
いや、違う!
レオ先輩の後ろに誰かしがみついてる!?
「うわぁぁぁぁっ」
聞いたことある女子の声。
「ピンクちゃんっ!?」
パトリシア嬢をしがみつかせたまま、バトンゾーンに突入すると、たすきを走者の頭にかけて、そのままこちらにやってきた。
「ピンクっぽい髪の人です、会長殿!」
軽く屈んで、ピンクちゃんの腕を解き、彼女を地面に下ろした。
「前会長だ! アレクシス君、もう少し女性への接し方考えた方が良いのでは?」
黒髪先輩、用紙に丸つけて、上目遣いにレオ先輩を軽く睨む。
「いやー。勝負事ですから。協力ありがとう」
にこやかにレオ先輩、ふらふらしているピンクちゃんの頭をくしゃくしゃ撫でて、待機エリアに行ってしまった。
「こっ、怖かったー! カルヴィン様っ!」
がばーっと、俺、ピンクちゃんに抱きつかれた。
えっ!?
こっ、これはフラグか!?
だっ、抱き締めてええもんか!?
お手々わしゃわしゃさせ、俺は自問自答する。
そして、結果。
俺にすがりつく彼女の頭を軽く撫でた。
あの人、ゲームのヒロインの攻略対象キャラだ。うっかりお姫様抱っこしてこられる事考えたら……。あの無茶苦茶な方法で良かったのかもしれない。
ピンクちゃんの良い香りがする。
「すまないが、邪魔になるので、そろそろ退いてくれないか?」
こちらを見ないで、黒髪先輩は冷たく言い放つ。
「さっ、さーせん」
俺は彼女を連れて、コースの外側に出た。