第57話「波乱万丈、借りもの競争」前編
リレーは二年が一位だった。
そりゃ、百メートル十秒切るような化け物が複数人いたらそうなるがな……。
一年と三年はデッドヒートの上、僅差で一年が二位。
その後、三年の一部で悲喜交々があったが、俺には関係ない話。
そして、リレー終了して三十分後に行われる借りもの競争。
北側走者の男子学生と、借り者エリアに女子学生。
南側走者の女子学生と、借り者エリアに男子学生。
リレーと同じルールに、借りもの競争用のルールを足しただけだ。
走者走る。指令書エリアで職員四人がの人らが、ロープのついた棒を持って待機。ロープには、三十本の指示書を挟んだ洗濯ばさみが麻紐が括られ垂れ下がっている。
垂れた指示書を一つ取る。
指示書には、魔法属性、髪色、人間関係(例えば、友人や婚約者、恋人等)、この学園に絶対いそうな特徴や属性が書かれている。基本的に同じ色チームの人を連れて行くが、異なるチームの人を連れて行くと十点減点される。
物によっては、その走者と指示書内容が合致しない場合、第二候補の属性の学生を連れて行くことになる。
「1婚約者」とあっても、婚約者がいない走者なら、「2恋人、又はお気に入りの人」となる。
1ならば得点は三十点。2ならば二十点。
最終ゴールの順位にも得点付与。
一位五十点、二位三十点、三位十点。
指示書の得点合計と、ゴール順位の得点の合算で勝敗が決まる。
参加賞は、カフェテリアのお好きなドリンク一杯。指示書で連れていかれた人含む。
優勝チームに、十回分のお好きなドリンク引換券に、女子はケーキセットが付く。
譲渡は自由。十月中に使用すること。
これくらいは学生会で出せるそうだ。
最初の走者は南側の女子。
「借りもの競争開始します。三、二、一、スタート」
スタートフラッグが振られ、三チームの女子学生が走る。
「キャロリ~ン頑張れ~!」と、同じチームの彼女の後ろ姿を見送った後、用を足しに内園に入った。
北側の門から出てきたら、なんかおかしい。
女子が走ってない。
女子はいる。
女子学生が、男子学生に担がれてた。
「はっ!?」
俺は慌てて、会長の所に走る。
「何で、男子が女子を抱えてんすか!?」
「私もわからない。そもそも、"女子を抱えてはいけない"ってルールはないし……」
「はっ?!」
「"一緒に連れてくる"とあったけど、どう連れてくるとかはなかったでしょ。魔法使わない以外で」
「最初の女子は、普通に指示書の男子を連れて一緒に走ってきたわよ。次の男子走者でおかしくなったみたいで……。女の子が一人怪我して動けなくなったから、抱えてきたとか。そこから、女子を抱えてくるように。女の子って足遅いから……」
会長も困り顔だ。
男子走者の殆どが士官学校組だ。体力に自信のある奴ばかり。そりゃ、女子抱えて走った方が速いだろう。しかし……。
「あのー、一番最初に女子を抱えてきた学生って誰ですか?」
「話によると、私と同じ学年のデリック君」
ポチーっ! また、お前かーっ!!
ガキの時からそうだ。だるまさんが転んだ で、チビッ子と姉御を抱えて逃げた。
ルール作成で抜かった! 俺の馬鹿ーっ!
今さら後悔しても仕方はない。
そんなこんなしてる間に、姉御の取り巻き似非シンデレラが、同じチームの男子に抱えられてやってきた。抱えられたまま、次の走者にたすき渡して、会長の元にやってくる。
「風属性の人です」
指示書を見せる似非シンデレラ。
「うん、知ってる……。同級生だから……」
会長は、走者一覧表の彼女の欄に丸をつけた。
「あのさー、お姫様抱っこ……どうよ?」
「ど、どうと言われましても……。嬉恥ずかしって感じですかね……」
苦笑いする我が同級生に、「そっ、そうか……」としか俺は答えられなかった。
「ごめんなさい、遅れて!」と、やってきたのは、我が姉ジェルトリュードと旧友ヴォルフ。
息を切らして二人は普通に走ってきて、次の走者にたすきをかけた。
会長のとこに行き、指示書を見せる。
「十歳までに知り合った幼なじみです」
「自己申告になるけど、大丈夫よ」
「すみません。ジェル様を抱き抱えて連れてくるの無理でした」
「当たり前やっ! お前らが普通で正しいんだよ!」
「でも、追い付けなかったし……」
残念そうな幼なじみを、俺を抱きしめ背中を軽く叩いた。