第56話「リレー大会」
リレー大会決行日の数日前から、円路の補修が行われていた。
業者のおっちゃん、学園の庭師系職員、そしてガタイの良い体操服着たうちの学生達。
大きな丸太を打ち付けるようにして、地面を固めていた。
実行委員として当日の予行を学生会メンバーと現地確認してる時だ。
「あの~、なんで学生が土木工事を?」と俺。
「あれかい? 魔法剣士組の体力増強訓練の一環だよ」
「学園側もわかってるから、大丈夫!」
にこやかな黒髪と銀髪のお姉様達。
「俺らは?」
「一般学生はいいの」
「暇な兵隊の仕事は、道路舗装と昔から決まっている」
それ、なんて古代ローマ……。
リレー大会当日。
空は晴天。大会は午後から。午前中は室内授業系。昼飯食って、午後一時半から。
実行委員メンバーは、早めに飯食って、準備である。
午前中に配られた二種類の鉢巻き。
新しいのは、女子学生が一生懸命縫った物だ。うん、俺も手伝ったんだけど。
姉御より、裁縫得意だったんよ、俺。
「二枚のノルマはきついのよ」と、ジェル姉が泣くから、ジェル姉の部屋で一枚だけ縫うの手伝った。
前世は家庭科の経験あるし、こっちでも、学園入学前に刺繍がプロ並に上手い母親に教わったからな。
下手に俺の方が上手いので、ジェル姉は母親から酷く当たられてたが。「俺は姉上より器用なだけや!」と。変に俺の方が良くできると、姉御があかんみたく見えるらしく、母親がキレるから厄介だった。
男子学生らが、自分らが受け取った鉢巻きは誰が縫った物かを話していたが、わからんやろ。縫い方が上手い下手はわかっても。
一旦、全学年北側のコロシアムの近くにある運動場として使われてる広場に集合。
会長からの軽い挨拶が行われた。
「今後行われるイベントの雛型になると思います。至らない事はあると思いますが、皆様ご協力お願いします。女神アレスのご加護があらんことを!」
その後、各学生に指定されていた四ヶ所に散った。
控えの走者は内側に待機。走行終了者は外側に移動。但し、二回走る走者は内側に再度待機。
魔具の拡声器の声。
「只今より、テンペストリレー開始いたします。三、二、一、スタート」
スタートフラッグは、眼鏡先生がやってくれるてはず。
俺は南側第三エリアの一番目として待機。
二年の走者はひょろっとした人だった。が、三年のは背が高くごつい。士官学校組かよ……。
青い鉢巻きの女子。二年が先頭。数メートル後ろを赤の鉢巻きの一年女子が一生懸命駆けてくる。
バトンゾーンで上手い事連携が取れた。二年との距離が縮まる。
たすき被って走る俺。
二年はたすき引っ掛けるのに手こずっていた。その隙に俺は抜いた。
事前に対策してたんだよ。
まず、一年全員の時間を計って、走る順番決めた。速い遅め速い遅めで並べてある。男女で二度走る奴は、最初の方に配置。
全員いっぺんに練習出来ないから、各自トレーニング。
最初の打ち合わせで、黒髪眼鏡ちゃんが、たすきの受け渡し練習をしておいた方が良いとおずおずと提案してきた。そりゃ絶対いる練習ってことで五~十人ずつくらいで暇な時に練習してた。
まだ序盤も序盤だ、最初の結果が後々響く。二年と距離引き剥がすつもりで走ってたんだが、なんか後ろからプレッシャーが!
「ウガっ!」
えげつない圧迫を感じて、俺ら走る。
やっぱり士官学校組怖いーっ!
必死こいて走ってるうちに、次の走者、ピンクちゃんが見えた。
「カルヴィン様ーっ!」
バトンゾーンで駆け出すパトリシア嬢。
俺は彼女の身体にたすきを引っ掛けた。
一生懸命走る彼女の後ろ姿を見送って、一旦邪魔になるから内側に撤退。
「あんた、遅いわよ!」と、三年の女子が叫んでた。
いや、絶対速かったって。暴走機関車かなんかですか!? 怖ーよ!
内園の建物があるから、反対側がどうなってるかわからない。
内園の東門から北側に移動する。
北側。次の競技の借りもの競争の為に用意してある長机。備え付けの椅子に座ってる走者を見ている銀髪会長の所に俺は駆け寄る。
「どうですか?」
「問題なくてよ」
「そうですか。てっきり士官学校組の人らが、ランニングフィストをかますのかと……」
「ふふふふっ。流石にそれはないわよ。あの人達、勝負事に関しては一応ルールは守ってくれるから」
「ははっ、そうですか」
取っ組み合いのなんかがあるかと思ったが、進路妨害した、前の走者取っ捕まえたり、してなさそうで安心はした。
声援と怒声が響き渡る中。
リレーの走者は、次々とたすきを繋いでいく。
南側に戻る為に、外側からぼちぼち歩きながらリレーの光景を見ていた。
滑って転びかけ直ぐ様体勢整えて、再び駆け出していく走者。
そうしてるうちに、うちの姉ジェルトリュードがたすきを受け取り走ってきた。現在一年は三位。
前方の二人の先輩らは身体が華奢だ。それなりに走っているが、姉御が距離を詰めてきた。
「がんばれー、がんばれー、おねーぇちゃん!」
姉御の後ろ姿に俺は叫んだ。
俺の声は、別の声援にかき消されて聞こえていないかもしれないけれど。