第53話「先輩男子学生達のしょうもない事情」
朝。飯を食いに食堂へ向かう途中。男子寮の廊下で、俺は三匹の大きい熊に捕まった。
「クライン卿、話がある」
人語を話す熊。ではなく、黄色のスカーフ留めの上級生達。
「はぁ?」と、俺はビビりながら、彼らを見上げる。
一番高い奴で、百八十越え。低い奴でも百七十後半だ。
「ご用件は……?」
後輩女子への取り成しか?
「話は長くなる。放課後、小教室を借りておくからそこに来てもらえないだろうか……」
「さわりだけでも」
「うーん。学生会絡みかな」
「学生会? ……。分かりました」
怯える程でもないが、やはり怖い。
「そうか。では、貴殿を待っている」
一番でかい先輩に、俺は両肩パシパシ叩かれた。
三人はご機嫌で去っていく。
俺は響く両肩を撫でながら、熊の様な先輩を見送った。
放課後。
一階にある大教室と反対側にある小教室。
教室というか、十人も学生が入れないが、黒板と机と椅子はある。座学の補講とか、小さい会議なんかに使う教室だ。
先輩らが怖いので、俺は事前に頼んでヴォルフにこっそりと教室の外で待機してもらっていた。
「こんちは」と、小教室に入る。
打ち合わせてする用に、ぐるりと並べられた机。
二人の先輩は向かいあって椅子に座り、机に肘乗せて腕組みしている。
リーダー格の先輩は、窓際に立って外を見ていた。刑事ドラマのボスかよ⋯⋯。
「おお、来てくれたか!」
リーダー先輩が叫んだ。
「学生会と言われても、俺はメンバーじゃないですよ」
「会長が、学生用の催し物を企画しているだろ。貴殿はそのメンバーに選ばれたそうじゃないか」
「はい」
「これは、我々男子学生の将来に関わる問題なんだ」
「はっ?」
「まあ、座ってくれたまえ」
促されて、俺はドア近くの席に座った。
リーダー先輩、立ったままバンと両手で机を叩く。
「クライン卿。どうか会長に女子と絡める企画を出してもらえないだろうか?」
「……? はぁ? いっ意味が分かりませんが?」
「士官学校は女子が少ない。あそこは全学年の一割も女子がいない。騎士家系の女が皆女性騎士を目指すわけではないからだ。その点学園は、一学年の半分が女子だ。しかし、魔法剣士として学園に編入したというのに、女子とちっとも絡めない!」
「剣術とか体力強化系と裁縫は、男女別授業ですが、座学と魔法実践は男女混合ですよね」
「座学と魔法授業も女子は女子で固まっている。我々は相手にされていない」
「はぁ……。学年末のプロムは」と、言いかけたところで、「それが一番問題なんだ!」と、リーダー先輩がまたバンっと机を叩く。
「プロムのルールを知っているかね?」
「左手首にミサンガ数本通して、踊った相手と交換する。交換したのは自分の右手首に。自分のミサンガが無くなったら誰とも踊れない。一年は三本。二年以上は五本」
「そうだ。今年も去年も、我輩のは一本も無くならなかった」
泣きそうな勢いて悔しそうにしてる。
「オレは、一本減りました」と、俺の左手にいる先輩が自慢気に言う。リーダー先輩が彼の頭をヘッドロックして、拳でこめかみ辺りをグリグリした。
「自分から誘ったんすか?」
俺は両手を頭に置いて、椅子にもたれる。
「誘ったとも! しかし『疲れてますから』『先約あるので』で、けんもほろろなのだよ! かと言って、本当に先約あるわけでもなく壁の花のくせに! こっちは皆壁ススキだ!」
壁ススキって、何やねん……。
「騎士ってモテないわけじゃないでしょ」
「モテるのは、ほんの一部。プロムで人気があるのは、顔の良い貴族階級の方と、エリオット殿下の従者達くらいだ」と、俺の右手にいる先輩が呟く様に言った。
「昨年度は、王子様達が全部女子を持っていってしまわれた」
「王子様と家来の“五剣”の奴らには、見た目じゃ勝てないっすからね」
いや、あの人ら当時一年だから三本しかないやろ。被らない条件でも三掛ける六で十八人や。全学年の女子一割ちょっとしか相手してへんやんけ。
同じ士官学校でも、二年間だけの特別クラスだったエリオット殿下の護衛学生との確執って相当なんやな。
「士官学校組で、ミサンガ全部無くなったのは、後輩のアレクシス・レオポルドくらいだ。相手は皆、上級学年のお姉様だったが」
あー、レオ先輩。ピンクちゃんの攻略対象者になるだけあって、適度にモテんのな……。
「先輩。貴方、剣術大会本戦出場者でしょ。何でモテないんすか? 本戦まで進めた強者が、モテないっておかしないですか?」
予選二回戦敗退の俺からしたら不思議でならない。
「ふっ。殿下の家来を下したら、女子からブーイングの嵐だった。そしてアレックスにやられたから……」
物凄く悔しがってる。
「俺からしたら、本戦出場者なだけでめっちゃ格好いいと思いますよ」
「そう言ってくれるか、クライン卿」
目を輝かせるリーダー先輩。
「そもそも女子に避けられてる理由が、士官学校組にあるからじゃないんすか?」
俺はジト目で先輩を見つめる。
「うーん。身に覚えがないなー」
白々しい。水練の後。士官学校組中心に、女子が着替えの為に展開してい"土の防壁"を解除して、覗きしようとしてたくせに。
「湖のあれ。女子への嫌がらせしてたの、先輩らのお仲間ですよね。そんなんしてるから嫌われるんじゃないんすか?」
「あれは娯らっ訓練の一環だ! いついかなる時、どんな敵に狙われるやもしれない婦女子達に安全な訓練を施してるだけだ」
今、娯楽って言いかけたよな、あんた!
「ほぅ。その結果、今年はボコボコにやられたと……」
「毎年の訓練が実を結んだ。良い事じゃないか」
お前ら昭和の学生かよ。平成生まれのコンプラガチガチ世代の俺からしたら、露骨なセクハラする奴の気が知れん。
「なんでもええから、合法的に女子とお近づきになりたいと……」
三人の先輩、ウンウンと頷く。
俺は嘆息吐いて体を前に起こした。
「あんまり期待しないで下さい。女子と絡めても、ちょっとですよ」
と、俺は席を立った。
「締め切りがあるので、お先に失礼します」と、部屋を出た。
外で待機してくれてたヴォルフと一緒に宿舎に戻る。
「プロムの話とかしてましたけど、なんだったですか?」
「プロムで女子と踊れないから、新規イベントでは、女子と絡める催し物にしろだってさ」
物凄い顔でヴォルフ呆れる。だよな……。
「で、その新規のイベント、もう思い付いてるのではないですか?」
「お前も王子様と同じようにワクテカしてくるね」
「子供の頃から、皆が楽しい遊びを考えるが、貴方は得意だったじゃないですか?」
別に考えてるわけではない。知ってる遊びをみんなでやってただけ。
「女子と絡めるね……」
実はリレー以外にも、一つゲームを思い付いていた。
リレー要素があり、女子と絡める。そして、俺はそのゲームを、絵本や漫画では見た事があったが、パン食い競争並にリアルでは見た事も参加した事はなかった。
下書きの段階では、熊ゴリラ先輩達の名前の設定が出来てませんでした。
ブルーノ【地】(リーダー先輩)
ウルサス【風】
デニス【無】(ミサンガ一つ消費した人)
です。
苗字は、まあいいや。