第49話「湖畔にて、着替える者の攻防戦」
二時間近くいるし、もう皆撤退しようとなった。
女子らは、ボート小屋の近くに集まる。
「覗くなよ!」と、叫ぶと先輩が"土の防壁"を展開した。湖に着いた時と同じ光景が現れる。
「覗かないでよ!」と、女学生の誰かが怒鳴った。知らん声だから、これも上級生だろう。
下を最初に着替え終え、頭にフェイスタオル、肩にバスタオルを引っ掻ける。
皆さん、似たような感じ。
とっとと着替え終わった先輩ら数名が、女子達が着替えてるボート小屋の方に、ニヤニヤしながら走っていった。
「何してるんですか、あの人ら?」
近くに居たエリオット殿下に俺は尋ねる。
「あぁ、女子に嫌がらせしに行ってるんだよ。男の着替えは速いけど、女子の着替えは時間が掛かるから」
「のっ、覗き? 土の壁に穴でも空けるつもりですか?」
「そんな生易しいのじゃないよ。見てたらわかる」
タオルで髪の毛をわしゃわしゃしながら呆れた口調で王子様は、土壁の方を見つめた。
一人の学生が土壁に手を当てる。しばらくしないうちに、"土の防壁"は解かれ上部から崩れ始めた。
「やったー!」と、壁の前で大喜びのアホ学生達。
こちら側にいる何かしら事情を分かってそうな先輩学生らは、ニヤニヤ見守っている。
王子様は澄まして見ていたが、デリックは難しい顔をしていた。
はしゃいでいた先輩達の動きが変わった。
瓦解する土の壁の向こう側に、別の"土の防壁"が張られていた。
意に介さない土の壁に先輩らは困惑しているようで、さっき"土の防壁"を解除した学生が新たな土の壁を触りながら、別の学生らと何か話していた。
「お前らー、いい加減にしろ!」と、女子の怒声。
"土の防壁"が解かれ、着替え終わった女子達が腕組みしたり、腰に手を当てたりして、 男子学生らを睨んでるようだった。
「ジェル様、やってしまってっ!」
「かしこまりましたわ、お姉さまっ!」
姉御の声だ。
「"泥の傀儡"」
三ヵ所の土が盛り上がる。男子学生らより縦にも横にも大きな土人形が現れた。
「「「行けー!」」」
三体の土人形は、男子学生らを追いかける。
「ひえっ!」
一人が捕まり、土人形に軽々両腕で持ち上げられると湖にぽいーんと投げ込まれる。
バッチャーン
岸辺から距離はあるけど、泳げる程度だ。
二人が松林の俺らの方に逃げてくる。
「君達、逃げてくる彼らを邪魔してくれる。 僕らは関係ないってこと女子に示さないと」
「こちらに越させないようにですね」と、ニヤニヤの俺。
「かしこまりました」と、俺の側にいたヴォルフ。
「"泥の傀儡"」
「"風の防壁"」
松林の数メートル手前。俺の展開した土人形の後ろに、高さ百八十センチ位、厚さ三十センチ程、長さ数メートルの風の壁が現れる。
なんとかざんまい的なポーズで構える俺の土人形。我が姉御の土人形と比べると大きくはないが、後ろから追いかけてくるそれと似た感じなので、先輩らはUターンして逃げていく。
俺の土人形も加勢して、先輩らを追い回す。
松林側のどこからか風の壁を飛び越して打ち込まれた"火球弾"が打ち込まれ、先輩らと俺の人形の間に着弾。
ちゅどーん
先輩らは軽く吹っ飛び、俺の土人形は形状を崩してしまった。
俺は"泥の傀儡"を解除する。"風の防壁"も解かれた。
前につんのめる先輩二人を取っ捕まえる土人形達。
「離せ、離せ!」と足掻く大の男を頭に抱えあげ、岸辺近くまで走っていく。
そして、ボート小屋の沖の当たりに、ぽーい。
ぼっちゃーん ぼっちゃーん ぼっちゃーん
似たような場所に投げ込まれる。
先に投げ込まれてた先輩は、"風の弾"ぶつけられて上がれなくされてた。
「毎年毎年飽きもせず、何してくれてんのよ!」
「いい加減にして下さいね!」
「"炎の矢"!」
バシバシバシバシ人参みたいな炎の塊が、湖にいる先輩らに投げつけられる。
当てるつもりは無い様だが。
「熱い! 熱い!」「オレらが悪かった!」「許して!」「赦して!」
口々に懺悔するも、炎の人参はバシバシ湖に投げ込まれた。
「そんなに熱いなら、冷やして差し上げますわ!」
銀髪お下げの女子学生。
"氷の矢"を展開し、大根みたいな氷の塊がバシバシバシバシ湖に投げ込まれた。
「寒いー!」「冷たいー!」と叫ぶおバカさん達。
「馬鹿ほっといて、みんな帰ろー!」と、先輩女子が言うと、女子学生は皆馬車に乗り込んでいった。
しばらく氷の塊ぶちこんでた銀髪先輩も、そのうち最後の馬車に乗って、火炎先輩らと帰っていった。
覗きに協力はしなかった馬鹿学生らの仲間が、彼らの荷物も持って、岸に上がってきたおバカさん達の所に駆けていった、
「さて、僕らも撤退するかー」と、王子様。
皆、あーだこーだ言いながら、湖を後にした。
「毎年、女子の着替えの妨害してんすか?」
「妨害というか、女子の着替え途中に"土の防壁"解除して、キャーキャー言わせて喜んでるんだよ。裸は見れないけど、下着くらいは見られるからさ」
「はっ、はぁ……」と、ひきつるヴォルフ。
「今年は、壁二重にしたり、土人形で応戦したりと頑張ったね。土人形三体は、やっぱりジェルだよね」
「複数体展開は得意ですよ、うちの姉上は」
「僕のジェルは凄いね」と、王子様はご機嫌だ。
「さて、ご相伴に預かれなかったから、こちらは関係ありませんしたし、女子からの逆襲が無いことを祈ろう」
「逆襲って何ですか?」
ヴォルフは不安そうにエリオット殿下に問う。
「うーん。去年は、収穫作業の時に、バッタとコオロギみたいなのに襲撃されたよ」
何か思い出したのか、顔を引き攣らせてデリックが身震いした。
「無」属性の「蟲操作」系魔法か……。
俺、虫好きじゃないから考えただけで恐ろしい……。
夏だから「水着回っ!」と、意気込んで書いてましたが、ポロリもなかったし、大して水着が映えてないし、そもそも絵もない字面だけで水着回なんて意味があったのだろうか……。
視点を増やす為に語り手を変える予定はないので、女子風呂シーンもないし……。
んー後悔は、スイカ割りさせなかった事かな……。
いや、書いてて楽しかったけどさ……。