第47話「湖の水練と水着ショー」
現代日本においては、水着の素材ってポリエステルなんだが、こっちの世界にはんーなもんない。
でっ、こっちの世界の水着って素材何?と思ってたら、ウールやら絹等。これらで編んだ生地に、水属性の魔法を施した糸で縫ってるらしい。
三年くらい前。水着の存在に気が付いて色々調べた。
こっちの水着、ダサい!
男子は、膝までか太もも半ば位の長さのハーフパンツみたい奴。野郎はまだいい。
女子は、上はTシャツ、下はステテコにスカートついた様なやつ。で柄は縞々。
お前ら大正時代の海水浴場の写真かって感じ。
あまりにイケてないデザインのしかないから、御用聞きのデザイナー達に、「こんな水着どや!」と、数種類提案した。俺、あんまり絵上手くないけど。
ドン引きするかと思いきや、「素晴らしい!」と感嘆して、何種類かは世に放った。
上級貴族や富豪の夏のバカンスに着ているというのは小耳に挟んだ。父親が、通販カタログ見せながら母親に勧めていたが、母親は「恥ずかしいから嫌です!」と、キッパリ断ってた。
いや、現代日本では普通のデザインなんすけど。
学園の北に湖がある。
ここで、毎年、水練という名のリクリエーションが行われる。故に有志で、先生も来ない。女子が乗る幌馬車の御者さんしてくれる学園の職員がいるくらい。かなりの数女子学生が御者するようだが⋯⋯。
そう、女子は馬車。野郎は徒歩で湖へ。
学園北門から一時間ちょっと。
湖の西側には森がある。森は、二年と三年合同の野営訓練場所でもある。
一時間歩いて水泳って、トライアストロンならやっべやんけと思うが、これも体力強化訓練の一環だからな。
泳ぎが得意でないヴォルフと一緒に歩いてたら、いつの間にか近くにいたエリオット殿下が話しかけてきた。それも小声で。
「彼女、どんなのを着るのかな?」
「……水着ですか? さぁ……。まぁ楽しみにしとけばいいんじゃないですか?」
しれっと俺は答える。
デリックとお付きの学生らが、呆れた感じで王子様を見る。
ヴォルフも苦笑いしてた。
おぼっちゃん、おひぃさんもおもろい格好してるから楽しみにしとけよ。
湖に着く。真ん中辺りに木が繁った小さい島が浮かんでいる。
湖の岸辺に謎の土塀が何かをぐるりと大きく囲っている。塀を越えた辺りに松の木の頭が見えた。近くにボートがあるのでボート小屋を囲ってるのだろう。
"土の防壁"の応用だ。
塀の向こうで、女子の声が聞こえる。女子が着替えているのだ。
土塀から少し離れた場所にある湖畔の松林で、男子らは適当に着替える。
士官学校組は皆さんええ身体してはりますわ……。いや、俺も学園来る前からそこそこ鍛えてたよ。でも……。畜生、やっぱり悔しい。浴場でも見てるんだが、屋外の太陽の下で見るにつけほんと妬ましい……。
予め決めていた何人かは、交代で荷物番。
俺らは運良く外れてた。
さっさと着替え終わった奴らから、土壁に近い所に向かう。既に"土の防壁"は解除されており、女子は準備体操をしていた。
長い髪の女子は皆、泳ぐのに邪魔にならないよう固めの三つ編みをしている。
松林とボート小屋の間。浜辺みたいな砂地にて。
ヴォルフと一緒に軽くストレッチしていると、いつものポニーテールをお下げポニテにした姉御が「カルヴィン」と、俺を呼ぶ。
ホルターネックの黒のシースルー 。ちゃんと大事な部分はきっちり隠れてはいる。ただ、胸元、脇腹、背中はばっくり空いている。
シースルーから見える肌が、大人っぽい体型のジェルトリュードをよりセクシーに見せている。
「やっぱり、これ大胆過ぎるんだけど……。他の人のもっと肌隠れてるのに」
「だから、パーカーとセットでしょ。肌焼けたくないなら、それ着とけば」
俺は、姉御が片手に持っている白いラッシュガードを指差した。
「ヴォルフ様、どう思います?」
「どっ、どうでしょう?」と、ヴォルフは困り顔だった。
「ヴォルフ様、カルヴィン様!」
ブルジェナ嬢の声。
ブルジェナ嬢を追ってパトリシア嬢。二人とも髪の毛を結っている。
昭和の女子生徒が着ていた由緒正しいスクール水着(紺色)を着ていた。片手に白いラッシュガード持って。勿論、提供は俺。行商さんに頼んで採寸業者呼んでもらった。巨乳、貧乳問わず似合うのが、スク水の良さよ!
「あのー、これー、最近の流行って聞いたんですけど、どなたも着てらっしゃらなくて……」
パトリシア嬢は困惑している。が、着といて言うか?
「でも、最近上級貴族とかのバカンスで着てるやつだから」
俺は事実を交えて誤魔化すも、他の女子学生は、大正時代の水着みたいなの着てるのが大半だ。ジェル姉の取り巻き似非姫達も然り。
上級生のお姉様らで、割りと俺が知ってる現代的なデザインの水着をお召しの方もいるが、あの人らファッショリーダー的ポジションなんやろう。
「どうですか、あたしの水着?」と、不安げなブルジェナ嬢。
「うーん。可愛いと思うよ」
「ヴォルフ様が言うなら……」
あー、うらやま、違う。微笑ましいな……あいつら。
「あら、殿下!」
ジェル姉が、王子様に手を振った。
「やぁ、ジェル!」と、殿下が駆けてきた。追いかけてくるお供二人。ポチと水系の人。
「素敵な水着だね。ただ、ちょっと露出具合が気になるかな……」
チラチラとジェル姉の胸元等見ながら、ドキマギしてる王子様。
「やっぱり、そう思われます? バカンスでならまだしも、水練でこれはちょっと」
ちょっとムッとした顔で俺を睨む。
俺は視線を反らした。
「恥ずかしいから、これ着ときますね」と、白いラッシュガード用のパーカーを羽織り、ボタンをきっちり止めた。
「あっ!」と、王子様の残念な叫び。
「えっ? ダメですか?」
「うーん。ダメじゃないけど……ダメかなー」
パーカーはちょっと長め。臀部がギリギリ隠れる長さだ。ただ、前屈みになると、見える。
「お前、どう思う?」と、俺はデリックに小声で訊ねた。
「どう? と聞かれましても」
デリックは、同僚のお供学生に目配せしたが、彼も困り顔だった。
「あたしも上に羽織ります」
「足がすーすーしちゃって、落ち着かないです」
ピンクちゃんもおひぃさんも上に着てしまう。
あー! 貴重なスク水が!
俺は、パーカーのボタンを止める女子二人に、悲しみに暮れるのであった。
ちっ、残念!