第45話「夏の個人特訓」
学生があまりいないので、屋外の魔法演習場で特訓してた。
体操服に魔法防御用の黒い外套。夏には暑い見た目だが、そんなに暑くはない。
「火」属性三年女子のランカ先輩の為に"土の防壁"を展開するジェルトリュード姉様。
先輩が杖を振り、"炎の矢"を連発する。
ブスブスブスブスブスッ
"炎の矢"は"土の防壁"に突き刺さる様にぶつかり、蒸気を上げならが消えていく。
「水含んでるから消えやすいわね」
「でも、熱で乾いた所から穴が空きそうです。水分の粘度に頼り過ぎると、より強い火力だったら一発で穴あいちゃいます」
「あたしは水分に負けない火力。ジェル様は、水分に頼らない"土の防壁"が課題ね」
「水分無かったら土ではなく砂塵が素材になります。砂だと砂と砂を繋げる為に魔力が余計に必要になるんですよ」
二人であーだこーだ話してる間。俺は、水の入ったバケツ二つ用意して、三十センチに満たない小さい"泥の傀儡"を展開してた。
俺の"泥の傀儡"はプスプスと音を立て、白い水蒸気を上げる。
が、しばらくすると白い蒸気は消えていった。
「ちくしょー!」
俺は、バケツの水を"泥の傀儡"にぶっかけた。
土塊は水流に崩れ、いびつな形の小さな石ころが現れた。
俺は、いびつな石ころを拾いあげる。
まだこのサイズかよ。
お互い干渉せず、各々の魔法の修練は続く。
キンコーン キンコーン
昼を伝える鐘がなる。
「今日は、ここまでにしようか」
「ありがとうございました」
「あざーす」
先輩は先に内園に帰っていった。
ジェル姉は"泥の傀儡"の応用で、俺は道具を使い土の小山を均す。
一通り終わったので、俺らも撤退。
寮に向かう途中。
「姉御。これ粉砕してくれる?」
俺はジェル姉に、訓練所で拾った石ころを渡した。
「相変わらず軽い。前より大きくなった?」
「全然……」
姉御が、"岩石破砕"をかけると、彼女の掌の中の石ころはぼろぼろの砂と小石に変わる。道の角に砂と小石を捨て、手をぱんぱん払った。
「魔力消費が激しい割に、結果が出ないなら止めたら?」
「魔法って、心的イメージの再現だから、理論上可能なんだよ。先生にも確認済み。諦めたくない」
「熱心ね」
半ば呆れていた様だが、それでもジェル姉は俺を応援してくれている感じもあった。
ジェル姉と違って、魔力値が普通より多い程度の俺には、魔力消費量が激しい魔法の特訓は体力まで削られて、腹が減る。
寮に到着。
「シャワー?」
「そこまで汚れてないし、いいや。手を洗ったら、着替えて食堂ね」
「あいよ!」
俺らは一階で別れた。
食堂にて。
今日のランチは、ベーコンとプチトマトのパスタに、レタスの溶き卵スープ。
がらがらの食堂は閑散としている。
特訓相手の先輩は、同じ学年の友人らと食事を終えて、食堂を出ていった。
ジェル姉と向かいあってぽつん。
「人、いないわねー」
「おらんなー」
こんなに寂しいなら王都の別邸に帰省すれば良かったか……。
パスタをフォークに巻き付けて一口。
「ちーす。お隣よろしいですか?」
聞き覚えのある声。室内の清掃作業用のエプロンを着けたエイミー・キャンベルがトレーを持って話かけてくる。
「よろしくってよ」と、ジェル姉が椅子を引いた。
「何時、戻ってた?」
「あたしは昨夜ですね。結局、帰省なしですか?」
「そやねん。特訓とボランティアの日々でした」
「お務めご苦労様です。まぁ、ボランティアっても、本当に厄介な所の手伝いじゃないから楽ですよね」
「えっ、それなりに大変だったけど」
エイミー嬢はちょっと辺りを軽く見渡すと「声響くので」と前置きし、小声で続けた。前のめりでそばだてる俺ら。
「ここの学生、皆さんセレブですよ。私みたいに下級貴族の苦学生なんかもいますけど。貧民窟のガチもん孤児院なんて行かせるわけないじゃないですか。施設の子供は、ワケアリのお子様が殆どのはずですよ。現に、魔法とか使えるお子さん割りといたでしょ」
「そう言えば、魔法封じのベルトみたいなのをしてた子供がいた」
ジェル姉は思い出した様に呟いた。
「国は、魔力保持者を管理したいんです。なんの後ろ楯もない平民に魔力が下手に広がれば、治安も含めて厄介な事になりますから」
フォークにくるくる巻き付けたパスタを一口。エイミー嬢が意味ありげに笑った。
「もしかして」の続きは無音で「隠し子?」と俺は口を動かす。
「そういう子供もいるって事です」
うちの親父殿は大丈夫やろか……。
囲ってる女、舞台女優らしいけど……。
「なんかさぁ。家畜やペットの血統管理みたいだな」
「あたしら含め、そうやって繋がってきたんですよ。千年近く前から」
ランカ先輩は、かぁくんが転生した後、姉弟の誕生会に来てくれてた幼馴染みたいな関係の人です。
中学生相当の年齢の時、士官学校に行って、学園編入組。