第40話 その9「帰りたくない夏休み」
村での生活は、それなりに充実していた。
ジェル姉は、女子らと楽しくおままごとしたりお花摘んだり。俺は、ワルガキ三人組と木登りしたり、ザリガニ捕まえたり。
捕まえたザリガニは泥を吐かせて、翌日豪農さん家の庭先で塩茹でにしてもらって、村の子供らと食べた。ザリガニは幼稚園とか小学校で水槽にいたから知ってたけど、釣った事はなかった。釣り方は、学習絵本的なので知ってたんだが。個人的には、ザリガニ釣りが楽しくて、おまけに塩茹でで食えるのがめっちゃ楽しかった。
村の小川で遊んだのも楽しかった。男子も女子も素っ裸になって小さな橋から飛び降りてドボーン。低学年くらいの子ばっかりだったから、まぁええかと思ってたら、後々問題になったので、男子はパンツ、女子はシミーズとパンツは着なさいとなった……。
そんな楽しい毎日も矢のよう過ぎて、本邸に帰る前日。
夜。
「帰りたくないなぁ」
蚊が鳴くよう声でジェル姉が呟いた。
「楽しいかった?」
「うん。とっても。それに、お母さまに打たれないから……」
だよな……。母親が側にいないだけで、ジェルトリュードは毎日イキイキしてた。
こいつほんまにゲームの中の悪役令嬢なんですかってくらい、凄く良い顔をしてた。
「でも、帰らないと皆心配するし、メリハリあるから楽しいんやで」
「そうよね。また来年も来られたらいいな」
「また親父に交渉したるよ。明日、早いしもう寝よう」
「寝付くまで、あんたのお話聞かせてよ」
「面白い系。怖い系。お姫様系。どれ?」
「お姫様系」
「なら『ウリ子姫』だな」
「それ、怖い系じゃない!」
「じゃ『おや指姫』か『鉢かづき姫』」
「『おやゆび姫』最後は王子様と幸せになるから!」
「『おやゆび姫』ね。はいはい」