第39話 その8「土人形の特訓」
子供らが遊んでない時間。俺らはピエールをお供に、畑エリアにいた。
豪農さん許可のもと、まだ何も植えていない空いてる畑の土を使い、"地"の魔法特訓をする為だ。
ジェル姉は、魔力値が高いのか大きい土人形を作るのが得意。
俺も"泥の傀儡"は使えるが出現させる土人形のサイズは精々一メートルくらい。
お互い出現させた土の人形を向かい合わせて、はっけよいのこった!
実際は、「ファイト スタート」なんだが。
ニメートル越えた大きい土人形は、ジェルトリュードのだ。
俺のは三十センチ程の小さい人形。
「全く、あんたの人形は相変わらず小さいのね」
不敵に笑うジェル姉。
でもな、大きければええってわけじゃないんだよ。
ジェル姉の土人形が、俺の土人形を捕まえようとする。
しかし、スルリと逃げて足の下を抜ける。
「待ちなさいよ! 捕まえるから!」
ちょこちよこ逃げ回る俺の土人形。
ジェル姉の土人形を翻弄する。
そろそろええか。
俺の土人形が畑の端から助走をつけて、巨体に向かって飛び上がる。右腕を伸ばし拳を掲げる。
「貫け――っ! は――――っ!」
小さい土人形が、大きい土人形を貫く。
「あ――っ!?」
俺の人形は、地面に着地。そして土人形の大きい躯体に飛び付いた。胸に空いた穴に着地。
「"泥の傀儡"!」
俺は、でかぶつの土人形と俺の小さい人形が融合する。
「行けっ!」
俺の言葉にでかぶつの拳がジェルトリュードに襲いかかる。
「きゃっ!?」
咄嗟にピエールが、ジェル姉に覆い被さる。
拳は彼らの手前に落ちた。
「んーな危ないことするわけないやろ!」
顔を覆っていた手をどけてるジェル姉。
「ひっ、ひどいわよ!」半分涙声で叫ぶ。
「ごめん、ごめん」
"泥の傀儡"を解除。土のでかぶつはきれいとまではいかないが、崩れて溶ける様に地面に散らばった。
ピエールがジェル姉のスカートの土埃を叩いて本来の持ち場に戻った。
「ジェル姉のは、柔こいんよ。でかぶつは素人相手にゃ虚仮威しになるけど、ガチもんの術師相手だと効かないぞ」
「大きい方が格好いいでしょ」
「じゃ、もっかい出してみ?」
俺とジェル姉は、再び同じ土人形を出現させる。
「ピエール。ジェル姉の土人形を切ってくれ」
「かしこまりました」
ピエールは腰の剣を素早く抜く。でかぶつの肩から腰の辺りにかけて袈裟懸けに切った。
グシャっと切られた半身が、地面に落ちてくしゃりと崩れた。
「あーっ」
自分の分身の末路に、小さい悲鳴をあげる。
「次、俺のな」
「はい」
俺は自身の土人形をジャンプさせた。
すかさずピエールが剣を振るう。
ガッ
人形の首に刃が入るも三センチもしない深さで、剣に突き刺さったままぷらんとぶら下がっている。
「もう少し強度欲しいな」
「そうですね。以前は首半分くらいまで刺さりましたから」
「あんた達、こっそり特訓してたのね」
「こっそりというか、自分の術がどの程度強いかの確認しないとな。ジェル姉はそれで満足してたみたいだけど」
「別に満足なんかしてないわ!」
乗ってきて良かった。
俺は術を解く。剣に刺さった土人形がパラパラ崩れて畑の土に返った。
子供の俺には、サイズの小さい成果物しか出せない。ジェル姉は大人の術師が作り出すサイズの物は余裕で出せる。が、強度が足らず柔らかい。
"泥の檻"も、俺が作ると小さすぎで犬くらいしか入らない。ジェル姉が作ると柔らか過ぎて、強く殴れば簡単に突破されてしまう。
そこで編み出したのが、合体技。
姉弟二人で手を繋いで魔力を共有し、同時に術を展開させると、大人の術師の物よりずっと強度のある物が出来た。
これを個別に出来るようにならないと、後の学園生活やっていけないだろう。学園に入れるってことは魔力値だけでなく、魔法のセンスも凄い奴ばかりだろうから。
この話の下書きを書いてたちょっと後くらいに、鳥山先生の訃報があって、しばらくして読み返したら涙出てきて辛かった。それだけです……。