第35話 その4「おやつでつながる友情もある」
付き人のねえさんは、エリーヌ十九歳。御者兼護衛のにいさんはピエール十八歳。
姉弟で年子だ。どっちも明るめ茶色の髪の毛。目はぱっちりしていて、性格も真面目で根明。
姉のエリーヌは、無属性魔法の生物手懐け系虫特化型。主に害虫駆除とか、益虫操りが得意。ただ、魔力値はあんまり高くない。
弟のピエールは、無属性魔法の治癒系。治癒と言っても、切り傷とか捻挫レベルしか治せず、主なのは体力回復。馬車の馬は直ぐくたびれて動けなくなるので、体力回復出来る御者は重宝される。おまけに、そこそこ剣も振るえる人。この人も魔力値は高くない。
魔力値はほどほどの頼りになる従者二人に付き添われ、俺らの夏休みが始まった。
村の子供達の何人かは、毎日大体決まった時間に、特定の場所で遊んでいた。
そこは、村から少し外れた小さい丘の上。大きな木が村の家々を見下ろすように立ている。その木の下に敷物を敷いて、豪農さんとこの長女さん合わせて四人で待つ。
しばらくすると、数人の子供達がやってきた。幼稚園くらいの子から小学校低学年くらいの女子。身なりは、俺たちと比べるとやはりみすぼらしい。服は薄汚れ、継ぎ当ててきれいに縫い合わせている子もいれば、シャツの袖の辺りが破れたまんまの子もいる。
困惑する子供達の中、「だれ?」と一番小さい子が口を開いた。
「こんにちは。私は、ジェルトリュード・クライン。領主の娘よ」と偉そばった感じでジェル姉。
「こっちは」
「弟のカルヴィンです。どうも」
俺は軽い感じで挨拶した。
「今、うちに泊まりに来ている領主様のお子さんなのよ。皆と遊びたいらしいから仲良くしてあげて」と、豪農長女さん。
「仲良くしていただければ、美味しいおやつついてきます」
俺の言葉に続いて、付き人のエリーヌが、バスケットからクッキー缶を取り出し子供達に見せた。
「うわー」目を輝かせる子供達。
「でも、知らない人から食べ物を貰ってはいけませんって」一番年長の子が言った。
「あたしの事は知ってるでしょ? だから、大丈夫よ」
「なら、貰っちゃう?」と顔を見合わせてる。
「その代わり、仲良くしてくれよ。俺らは君らと楽しく遊びたいだけや!」
「「わかった」」
エリーヌが、子供達を並ばせる。そして、子供達の背後に回ると、彼女は彼女達の頭
を軽く叩いていった。
しばらくすると、何人かの子供達の頭から白い粉の様な物がぽろぽろぽろぽろと落ちていき何処かに消えた。
シラミだ。
テレビで、どっかの小学校でシラミが流行しているニュースを見ていた時。おかんが「幼稚園の頃、シラミ涌いてさー、大変だったのよねー。公園で、色んな幼稚園の子供としゃがんで泥遊びとかしてたから、髪の毛伝いに伝染しちゃってね。近隣の幼稚園みんなシラミ感染してたらしくて」
戦後すぐとかの話ではなく、昭和も後半の後半くらいの話らしい。
対策しとかんと、ジェル姉のきれいなお髪が大変なことになるからな。