第34話 その3「姉御と俺とうそっけのピエロ」
豪農さんがいる村が見えてきたあたりで、バスの歌のバスを馬車にした適当替え歌をヘビロテして俺は小躍りしてた。
お付きのねえさんが「その歌は何処で覚えられたのですか?」と不思議そうに聞いてくる。
「夢の中で、ピエロさんが教えてくれた」
勿論、ウソだ。
元ネタは、幼児向け教育番組で流れてた歌だ。幼稚園でも習ったし。
通ってた幼稚園の特性というか、割りとお受験する子が多く、うちの三姉弟もそっち側。
毎晩寝る前は必ず絵本や童話の読み聞かせ。生きてた頃、字が小さくて重くて太い本が本棚に数冊あった。何冊かは、従兄弟が小さい時にあげたが。ついでに姉二人いたから女子向け絵本や玩具は身の回りに普通にあったので、姫物童話はちゃんと知ってる。男兄弟しかいないと、女子向け物語を全く知らん奴いたりするらしいが。
なんやかんやで、俺はメジャーな話からマイナーな話までかなり知っている。
こっちの世界にも、シンデレラや白雪姫姫みたいなお姫様が出てくるお話は普通にある。ただ、日本昔ばなし的なのはない。
暇な時や寝る前等、二人きりだとこういう子供向けコンテンツを「夢の中で、ピエロさんから聞いた話」としてジェル姉に話してた。
色々楽しんでくれるけど、時々彼女は切なそうに言う。
「私にもピエロさんが来てくれないかな」
ごめんな、ジェル姉。ピエロさんなる人はいないから。
狭い馬車の中。バカな歌を歌ったりはしゃいだりしてるうちに、青い空はオレンジ色に染まりだす。
豪農さん宅に着いたのは夕方頃だった。




