第32話 その1「新しい出会い」
俺が六歳になった頃。
俺達姉弟は、領地内にあるとある村の豪農の家に泊まることになった。
というか、お泊まり出来るようにしてもらった。
俺が生前の記憶を思い出してから、姉であるジェルトリュードを真っ当な女にするにはどうすればええか、ずっと考えて生活していた。
課題は、二つ。
母親からの虐待に近い折檻を回避する事。
もう一つは、学園生活に支障出ないように他者に配慮出来る様になる事。
どういう理由か解らんが、俺は母親から叱られて多少叩かれる事はあっても、ジェルトリュードみたいに激しい折檻を加えられる事は全くなかった。
母親は切れると狂った様に娘のジェルトリュードを殴り続ける。
うちのおかんが勉強さぼった姉1を激しく殴り続けているのを俺は端から見てた。が、あれは鼻血が出たら我に返って止めていたので、姉1の鼻血が出れば一分で終わる。小学生だから遊びたいのは分かるが、ちゃんと勉強のノルマをこなせとしか。俺は良い子なので、ちゃんと塾の宿題とかしてたぞ。
母親が無茶な折檻を加えようとする度に、俺は頑張って止めてた。ジェル姉が八歳の時、俺が知る限り一番酷い折檻してた母親にぶちギレて、カルヴィンが母親を押し倒して馬乗りになって殴りかかったあたりから、あの人の長女への折檻はかなり大人しくなったので、よかったのかなーと思ってる。それでも、ジェル姉の髪の毛掴んでひっぱたくくらいはしてたんだが。
折檻話は置いといて、人間関係をどうするか?
俺ら姉弟と遊んでくれる人間がいないわけではなかった。本邸では使用人のお子さんが遊んでくれることもあったし、王都の別邸でも、使用人のお子さんや同じ年頃の貴族階級の子息令息と遊んでたし。
でも、お接待扱いなんだな。使用人のお子さんらは俺らより年上で気を使ってたし、誕生会に来る連中も、親の立場の関係でやっぱり気を使う。チェインバー家のヴォルフなんて、元々大人しめの奴だったから気を使うとかなかった。が、あいつの妹ちゃんだけは例外で、特定の気に入らないことがあると、ジェル姉に突っかかってきた。あの娘だけは、厄介だから例外中の例外。
他は年上の人らだと、ボードゲームにしろトランプにしろ、わざと負けてくる。
違うんだよ、俺らは本気で遊びたかったんや。
で、俺が五歳の秋。収穫祭が終わった農村の豪農の所に親父と俺とお付きの何人かで泊まりに行った。
豪農さんとは、日本昔ばなし的にいえば、庄屋さん的ポジションの人。
豪農さんとこには、中学生と小学校高学年くらいの息子と娘がいた。
親父が村を視察中、俺は豪農さん宅でお留守番。豪農家兄妹に接待されて庭先に出た時、遠くに子供達の姿が見えた。その時は幼稚園児くらいから小学校高学年くらいの奴十人弱。
俺が「おーい!」と手を振ると、小さい子供らが「おーい! おーい!」と手を振り返してきた。
子供らの中で年長であろう背の高い女の子が「だめだよ」と言って子供達を呼ぶ。そして、こちらに軽く会釈して、子供達とどこかに行ってしまった。
「あいつらは?」
「小作人の子供達です」
「あんたらと仲良かったりする?」
「何年か前なら割りと遊んでた子もいますね。今は挨拶する程度で」と長男くん。
「あいつらと遊べないかな?」
兄妹は顔を見合わせてしょっぱい感じだった。
「カルヴィン様とお友達になれる程、素行はよろしくないですよ」
「農家の子だからやんちゃ上等! 男はええねん。女子と遊びたい!」
「はぁっ?!」