第29話「揃う、攻略対象者!」後編
「素晴らしい! 大変見事だ! カツレツをパンで挟むとは!」
俺の横でレオ先輩が目を輝かせてサンドイッチにかじりつく。
この人の攻略方法は、餌付けだったりするのだろうか……。
「お口に合って良かったですわ」と、ジェル姉。
お前一つしかこさえてないやろと言うのも野暮なので黙ってた。
「この豆は?」
不思議そうにさや付き枝豆を手に取ってしげしげ眺めるレオ先輩。
「青い大豆ですの。塩茹ですると美味しいですのよ。うちの領地だとそれなりに食べますわ。まぁ、カルヴィンがやりだしたことですけど」
「へー」
枝豆を口に入れたレオ先輩に、メイドのエマが折って作った紙コップの殻入れを渡した。
「この辺大豆作ってる農家さんがあったから、エマっちに貰いに行ってもらったかいがあったぜ」
塩気の足らないサンドイッチの味変には、塩茹で枝豆が丁度良かった。タンパク質摂取大事大事。
「はー、ビアに合うなー。きっと!」
隣のパトリシア嬢に耳打ちする俺。
「飲酒って何歳からだっけ?」
「うちの村だと、準成人になった十五歳くらいで薄いお酒なら……。今日みたいなイベント除いて、学園内での飲酒は禁止ですよね」
俺、酒苦手やからどうでもええわ。
酒というかビールのトラウマ思い出す。
あれは幼稚園児の頃。
お祖父と俺の誕生会の会食を家でしてた。
両親がお祖父達親戚を送っていくため、三姉弟はお留守番。
リビングに残された食器やらビールやジュースの空き瓶等を、お姉らは片付けていた。幼児さんの俺は一人で遊んでた。
「ねえねえ、かぁくん!」と、姉1が俺を呼ぶ。
「喉渇いたでしょ? ジュースあげるね!」
姉2からオレンジジュースの入ったコップを受け取る。
何も考えずゴクゴクゴク。
半分くらい飲んで俺は叫んだ。
「これ、お酒はいってる!」
「ぎゃははははははは! あほだー!」
「ひっかかったー! ひっかかったー!」
「半分も飲むか? ぎゃははははは!」
腹抱えて笑う姉1姉2。
瓶の底に残ってるビールをかき集めて、炭酸オレンジと混ぜて、俺に飲ませやがった!
よくよく見たら、オレンジ色だがなんか茶色い。
口いっぱいに広がった苦いオレンジ味に、幼児の俺は悔しいやら切ないやら。
おかんら帰ってきた時、速攻チクッたったわ!
あん時ばかりは、鼻血出るまでおかんにどつき回されろ!と思った。結局、どやされただけやったが。
そんな大昔の事を思い出してムカついてる間に、サンドイッチはきれいに消え失せた。
「はーっ、食った食った。この恩は必ず返す」
レオ先輩は手を合わせた。
うん、お礼はええから卒業するまでピンクちゃんと係わらんといて。
そんな事は絶対口には出来ないけど。
「これで満足に戦えるな」
エリオット殿下がニヤリと笑う。
「勿論。決勝で会おう、デリック」
「ああ」
「決勝まで残れる自信があるんですね」と、ヴォルフ。
「「当たり前だ!」」
二人同時。凄い自信だ。
ふと空を見上げると、午前中遥か西にあったネズミ色の雲が、かなりこちらに近づいてきていた。灰色の雲の裾野は黒い雲。
遠くから幽かにゴロゴロゴロゴロと雷の音が響く。
「無事終わればいいですね」
ピンクちゃんが不安そうに呟いた。
次回、第30話「風雲 剣術コロシアム」その3
よろしくお願いします。