第1話「誕生日の出来事」
「こんなんおかしいやんけ――っ!」
叫ぶ弟カルヴィン。
今日四月二日は、姉ジェルトリュードの六歳の誕生日。しかし、誕生会は開かれず、いつもの夕食。
二日前の三月三十一日は、弟の五歳の誕生日。
今も滞在している王都の別邸にて、知り合いの貴族や取引関係の家族を呼び、それなりに盛大な誕生会が催された。
「今日、お姉ちゃんの誕生日やぞ! なんかお祝いしたってもえぇやろ!」
母「貴方は跡取り。姉のジェルトリュードは、いずれお嫁に出ていくのです。貴方と扱いは違って当然なの!」
弟「なら、来年から誕生会なんか開いてくれるな!」
母「貴族としての体面があるのですよ!」
弟「お姉ちゃんと同じ扱いにしてくれないなら、誕生会なんか開いても俺出ないからな!」
母「ジェルトリュード! 貴女、カルヴィンに何を吹き込んだの!」
と、テーブルを拳で叩いて怒鳴り付ける。
縮こまるジェルトリュード。
父「まぁまぁ、落ち着きなさい。カルヴィン。お前はどうしたいのだね?」
弟「お姉ちゃんと同じ日に誕生会をしたい。四月一日なんかどうかな? 俺にとっては一日遅く、お姉ちゃんにとっては一日早い誕生会。お姉ちゃんの友達も呼んで。そしたらきっと二倍楽しいぜ!」
母「まぁ!? 誕生日にお祝いをしないなんて」
父「面白いこと考えたな。では、誕生日当日は、どうするのかね?」
弟「自分の誕生日は、昼と晩とおやつは、リクエストしたのを出して欲しい。お姉ちゃんの誕生日も同じようにして」
母、不愉快そうに呆れる。
父、顎髭を撫でながら、面白がった。
姉ジェルトリュードは、嬉しそうに少し笑っていた。
それ以降、姉弟の誕生日会は四月一日に行うことになる。
この日は、姉弟二人にとってと特別な記念日になった。
俺からしたら、誕生日に誕生会とかあり得ない話。
幼稚園の頃は、同じ月の友達らとカラオケ屋で親ら主催の合同誕生会したけど、それは俺の誕生日当日ではなかったし、比較的近くに住んでる母方のお祖父と俺は同じ誕生日なので誕生日前後の土日に仕出し頼んで、親戚呼んで我が家で誕生会してたから。
おかんにしろおとんにしろ、姉1姉2にしろ、誕生日当日は、安いケーキだけ買ってきて食べる。稀に、気まぐれに姉二人がスポンジケーキ焼いて、安いフルーツ缶詰使ったショートケーキを作る事もあったが。
誕生日前後の休日に、家族五人で外に飯を食いに出る。ずっとそんな感じだった。
姉1が高校生になってからは、姉2と一緒になって虚ろ目でニタニタしながら「おめでとう。おめでとう」と手を叩いてた。「いやー! 歳なんてとりたくなーい!」と、頭かきむしりながら「ちくしょー! ケーキが美味しいぜー!」とやるのが、三姉弟の儀式というか、恒例行事というか。
言わなくてもわかるだろ?
俺は、いわゆる転生者。
それを思い出したのは、五歳の誕生会が終わった日の夜。
この世界が、俺の姉1と姉2がはまっていた乙女ゲームの世界であり、俺はゲーム登場キャラ、しかもゲームプレイヤーにとって攻略対象キャラの一人であること。
そして、闇落ちしてラスボス化する悪役令嬢が、我が姉のジェルトリュード。
この姉のせいで、俺は三回死亡フラグが立っており、十中八九死ぬ運命にあるのだ。