第25話「風雲、剣術コロシアム」その1
ブルジェナ嬢とパトリシア嬢が、パンの耳を切り落とし、四種類のサンドイッチをキレイに縦に真っ二つにする。
「もう時間が」と、ジェル姉。
時計は九時二十分。
俺はトングでサンドイッチを四種類一切れずつ白い皿に乗せた。
「エマっち。これ、エマっちの分」
「えっ?」
「チームサンドイッチの重要戦力じゃん! エマっちの分無いなんてあり得ないだろ」
「実家じゃないから、受け取ってね」
「……。はい。ありがとうございます」
メイドのエマは、相変わらずの無表情。
「じゃ、お片付けと、お昼のサーバーよろしく!」
「よろしくお願いします」「お願いします」と、パトリシア嬢とブルジェナ嬢。
俺達は慌てて着替えて、カフェテリアを後にした。
剣術大会会場のコロシアム。
ヴォルフが予約していたボックス席。
この学園は、ある一定基準までは平等だが、別のレベルになると金が物を言うようになる。
一般学生の殆どが、屋外の普通のベンチ席だ。
見晴らしの良いボックスシート。ちゃんと日除けの屋根がある。
来賓のお偉いさんや、お金持ってる貴族と金持ち平民学生等がいる。
我が家もレンタルするか迷っていた。
サンドイッチ大作戦決定後。
ブルジェナ嬢が親指回してモジモジしながら「あのー、カルヴィン様。ヴォルフ様をお誘いしてよろしいでしょうか?」
俺は平静を装い、内心はにんまり。
「オッケーオッケー! 材料十分あるし。なんなら、あんたの代わりに俺がヴォルフを誘ってやろうか?」
「あっ、ありがとうございます」
小動物的マスコット感が可愛い女よ。ええぞ、おひぃさん。そのまま攻略対象者のヴォルフを引き付けといて。
で、おぼっちゃんことヴォルフを誘う。ブルジェナ嬢もいると言ったら、ボックスシートに招待してくれた。
なんかわからんが、あの二人ええ感じやんか。俺は心の中でガッツポーズ。
学園関係者、貴賓がいる場所を反対側から眺めつつ。
男二人。ボックスシートで観戦してるってことは、予選落ちですよ。
男子学生は全員参加。女子学生は有志。
本格的に剣術やってる女子もいるが、男子学生に勝てない。というか、本職みたいな奴らがゴロゴロいるので勝ち進めない。
俺もそうよ。
学園イベントで剣術大会があるのを知ってたから、記憶戻った後直ぐ俺は剣術稽古してたんだ。それなりに良い講師付けてもらって。一緒にジェル姉も練習やってたし。
ここで先取りしたスキルを使って無双なんてことは、全くなし。
強んだよ! 本職共は!
士官学校組とか、実家が騎士の家系とか、ガチもんの人と戦えませんよ。
そもそも剣術大会って、魔法禁止。
剣術のみでの勝負。参加者は、試合中魔法封じの首輪させられる。
首輪は、黒い皮ベルトに魔法封じの魔石が一つ埋め込まれている。
予選会場もコロシアムの試合場も、魔法使ったら一発で判るシステムになっている。ズル出来ないらしい。
参加学生百二十人あまり。本戦出場枠は、十六人。
「あんたも、本戦まで勝ち進んで欲しかったなー」
横目でからかうジェルトリュード。
「カルヴィン様は頑張りましたよ。ニ回戦まで進まれたんです。僕なんて一回戦敗退ですよ。敗者復活戦もダメでしたから」
ヴォルフ君、ありがとう。
「なんだか雲行き怪しいですね」と、パトリシア嬢。
遥か遠くの西の空。灰色の雲がもくもくしている。上の空は青いのに。
「天候次第では、中止もあるそうですよ」と、ヴォルフは西の空見上げた。
「再戦なし?」
「ないそうです。天候も天の采配とのことで」
パッパララー パパラパパパラパッパララー
ドーン
ラッパのリズムと銅鑼の音。
「只今より剣術大会を開始いたします」
学生会会長の第一声。黒髪美人の三年生。
青い戦闘服を着た十六人の剣士達の入場。
戦闘服は、上下とも通常の制服に色味が似ているが、フランス革命後のナポレオン時代の軍服をもっとスマートに格好良くした感じのデザインだ。予選会の時に俺らも着てた。素材は制服より物理的魔法的防御上頑丈だ。内部の肩パット部分に、金属ではないが硬めの衝撃吸収する何かが入っている。
着心地は、制服とあまり変わらない。たまにこれ着て実践訓練する授業がある。
距離を取って並ぶ剣士達。
身長皆バラバラだが、一番低い人で百七十五センチ。一番高い人で百九十センチ越えている。
皆、色んなタイプのイケメンや……。一部ごついだけの人らもおるけど。
女学生共が、うるせーうるせー。
一番背の高いオールバックの茶髪がね、ちょっとね……。
長い黒髪の女会長が手を挙げる。
「天の下、集いし戦士達よ! 騎士道精神に則り、己が全てを掛け全身全霊で勝利を目指せ!」
一息すって一拍置く。
「女神アレスの御加護が、皆に等しく有らんことを!」
会長の力強い宣言がコロシアムに響く。
ファンファーレと銅鑼の音。
観衆の歓声。
剣士達は、学長らに一礼し、反対側の俺らがいる方にも一礼する。そして、選手二人を残して闘技場から消えた。