第24話「お弁当狂騒曲」その3
剣術大会本戦当日。朝一で飯食って、カフェテリアに集合。
十時開催だから九時半までにサンドイッチを完成させねばならない。
前日の夕方から、ブルジェナ嬢をリーダーに、パトリシア嬢と俺ら三人で食パンを焼いておいた。
今朝は、メイドのエマと姉のジェルトリュードが参加する。
ジェル姉はともかく、エマっちの参戦は戦力になる。
ジャケットとスカーフ外して、腕まくり。そしてエプロン装着。
俺ら三人のはシンプルなエプロンだが、ジェル姉のは、薄ピンクの胸の部分がハート型したフリフリエプロンだった。
届いたやつ見たら一枚だけ可愛らしいというか仲間外れなデザインで困惑した。が、ジェル姉は「私がこれ使います!」と、宣言。
悪くないけどさ、それエロ漫画で素肌に着けるようなやつなんだけど、俺の妄想力がいくないのか……な?
こっちの世界には、パンツのゴムはある。でも、ゴム手袋はない。つまりそういうこと。で、石鹸で手を洗いアルコール消毒も念入りに。
パンに塗るマヨネーズは……、エマが用意してくれていた。瓶に入った物をこれ見よがしに。
良かった。マヨネーズって、幼稚園児の時に、お受験対策の一環でこさえたことある。これが曲者で卵一つとサラダ油一カップくらいしかないのに、混ぜたらボール一杯出来てしまう。チューブ入りと違い日持ちせんから、使い切るのに無茶苦茶難儀した思い出が。
女子達がパンを切ったり、ハムやチーズ、キュウリを薄切りにしてる間に、俺はパンの耳をおろし金で細かくしてパン粉を作る。
パン粉を油多めのフライパンで炒める。
「これは何に使うのですか?」
「トンカツの衣」
「先に火を通す?」
ピンクちゃんが不思議そうにしている。
「揚げないでオーブンで焼くよ」
いい感じで焦げたパン粉をバットに敷いた。
薄切りの豚肉六枚を、食堂の厨房から借りてきた肉叩きハンマーでボンボン叩く。
俺の手は汚れてるから、ブルジェナ嬢とパトリシア嬢に塩コショウしてもらう。
薄力粉のバット、たまご液のバット、パン粉バット。で、油塗ってある網乗せた天板。
順序良く豚肉に絡ませて網の上に並べて、温めておいたオーブンにイン!
これにて、第一段階終了!
俺は額の汗を手首で拭った。
「手慣れてますね」と、パトリシア嬢。
「そりゃ、三回目……。なっ、なんでもない。なんか油使わない揚げ物の作り方をなんとなく知ってたから実践したくてさ」
「へー。貴族の方でお料理出来るって珍しいなと」
ブルジェナ嬢も変に感心していた。
「その人変わってるから気にしないで!」 と、にこやか姉御の持っている薄切りパンには、マヨネーズがこんもりの盛られていた。
「何しとんじゃ!」
「えーっ! バターをたっぷり塗ったら美味しいから、マヨネーズも同じかなと思って」
「挟んだら、漏れてしまうわ! エマっち! 取り上げて!」
エマっちが、不満げなジェル姉からパンを受け取り、塗りすぎのマヨネーズをきれいにこそぎ取る。
そうだよ、この姉御、パンやホットケーキに硬めのバターをたっぷり乗せて食べるの大好きなんだよな。だからって同じノリでマヨネーズをバターみたく塗るなよ……。
母親似のお胸は、バターで培われたか、乳だけに。
俺の姉なる人らは、けったいなのばっかりかよ。
トンカツで思い出した。
あれは俺が小学生の時だ。過熱水蒸気式オーブンの購入を機に、高校生の姉1が、割りと料理やお菓子を作り出した。姉1は女子ぽい格好をあんまりしないが、料理は出来る人。姉2は姉1よりもずっとフェミニンな格好するのに、料理はとことんやらない。お菓子はこさえるのだが。
ある日のこと。姉1と俺で、薄切り豚肉ととろけるチーズで、巻きカツを作っていた。
「がんばれー、がんばれーおねーえちゃん。がんばれー、がんばれーおとーおと!」
中学生の姉2が、棒に三角の紙切れが付いた謎の旗を両手に持って踊り始める。
「「手伝えよ!」」
俺らが怒鳴る。
「えー、私食べる人! あなた達作る人!」
一時的に踊りを止め、旗で自分と俺らを指す。そしてまた「がんばれー! がんばれー! おねーえちゃん。がんばれー、がんばれー、おとーおと」
「知らんがな……」
「ちゅり姉、とことん料理はしないね」
「うん、せえへんな……」
高校の時の冬休みにあった家庭科の宿題『クリスマスディナーを作る』も、殆ど姉1にやらせた姉2。
「えーだってー、私ニンジンと玉ねぎ切ったしー。下手に手を出して食べられなくなったら困るでしょ! だから、お姉ちゃん、よろ!」
菜箸持って鍋の前に立ち、さも自分がやりました的な写真を俺に撮らせた姉2。
ちゃっかりしてやがる。
それ考えたら、可愛いよ、ジェル姉、可愛いよ……。
次回、第25話「風雲、剣術コロシアム」その1。
よろしくお願いします。