第21話「お弁当狂想曲」その1
五月下旬に差し掛かったのある日の夕方。
「しもたー!」
自室のベットでゴロゴロしていた俺は、慌てて飛び起き、教務課受付に向かった。
途中、学生寮一階で我が姉ジェルトリュードに会う。
「どうしたの? 慌てて」
「今日の夕方五時で、剣術大会のお弁当申し込み締め切り!」
ジェル姉も忘れていたらしく、二人で実験棟に駆け込んだ。
午後四時五十五分。
「クライン様、既に申し込みされてます。お付きの方がお手続きされたようですね」
受付のお姉さんの言葉に二人安堵。
「エマっち、ナイス!」
胸撫で下ろして、実験棟の入口で駆け込んできたパトリシア嬢とブルジェナ嬢とすれ違う。
「お弁当?」と俺。
「はい!」「間に合うかな?」
「がんばれー!」と見送るも、後ろから「そんなー!」「なんとかなりませんか!?」と悲痛な女学生の叫び。
「ダメだったみたいね……」
姉御と二人、教務課受付に引き返した。
「無理なものは無理です」
「二分ですよー」とブルジェナ嬢。
時間厳守が厳しすぎ。
「なんとかなりませんか?」と俺加勢。
「キャンセルの方と替わっていただくかですね」
ちょっと考えて、「食堂のキッチン借りられませんかね?」ダメ元。
受付のお姉さん、俺をじっと見つめてから「あまり言いたくはありませんが」と前置きしてから、「稀にですけれど、カフェテリアのキッチンを貸切にして、お弁当を作られる学生はいます。但し、別料金が発生しますが」
「ここで受付ですか?」
「まずカフェテリアと交渉して下さい。食材は、行商のマリオン商会に注文すれば大丈夫です」
「わかりました」
まだ困惑してるパトリシア嬢とブルジェナ嬢。
「君ら、パティシエ志望と元パン屋さんだよな? サンドイッチ、パンから作れる?」
「大丈夫です! でも……」
「食材はともかく、カフェテリアのレンタル代が……」
不安げなブルジェナ嬢とパトリシア嬢。
「んーなもん、俺が出すって!」
「いいじゃない! カルヴィンがそう言ってるんだから、作りましょうよ、お弁当!」
「まず、カフェテリア借りられるか確認してから、弁当はキャンセルだな」
四人で弁当プランを相談しようとしていると、「すみませーん」「剣術大会のお弁当申し込みですが」と駆け込んできたのは女学生二人。カフェテリアの白いエプロン姿の同級生だった。
一人は、金髪というより亜麻色の癖毛のあるミディアムヘア。目は細めで白い肌にはうっすらそばかすがある。顔立ちは、鼻筋通っていて、割りとはっきりと物言いそうな感じ。
もう一人は、前者の娘といつもつるんでる黒髪ストレートロングの眼鏡ちゃん。
「もう締め切ったって!」と、俺。
「締め切りました」
受付の姉さん、無慈悲。
「うっそー!」「そんなー」
同輩女学生二人の絶望が響く。
「君らカフェテリアのバイトの子だよね。責任者紹介してくれる? 上手くいったら、俺らの弁当譲るから。いいよね、姉上?」
「かまわなくてよ」
俺ら姉弟の申し出に、亜麻色姐ちゃんの顔がぱっと明るくなる。
「よかった、リリー! お昼なんとかなりそうよ」
「えっ、ええ……」
黒髪眼鏡ちゃん、なんか怯えてる。
「えっと、君らの名前は?」
「あたしはエイミー・キャンベル。この子はリリアナ・リールミット。今からカフェに戻りますから、責任者の方紹介します」
エイミー嬢の紹介で、俺らはさっくりとカフェテリアのキッチンを借りることが出来た。