第18話「本編、たぶん始まる」
朝。
俺らが出遅れたからだろうが、食堂でピンクちゃんを見かけなかった。
案内してやろうと思ったのにと当てが外れた感いっぱいで、いつもの大きい講義室へ。
黒板を背に、向かって左の島の真ん中より後ろの方の真ん中の島側の通路横の席にジェル姉。そして後ろに取り巻きの三人娘が、我が姉上に話しかけている。
俺はこの三人娘の事を受け付けていなかった。あいつらは、ゲーム中盤にジェルトリュードを裏切るからだ。
悪役令嬢と一緒になって主人公とかに嫌みを言ったりしておいて、断罪式の時には保身に走りやがった。
まぁ、やらかしたジェルトリュードの自業自得ではあるが。
真ん中の黒髪ふわもこセミロングがくせ者なんだよなー。
姉御達の観察も兼ねて、俺は真ん中島の中央よりちょい下の席に着いた。
一限目のベルが鳴る。
メガネ先生と一緒に、教材入れの白い手提げ持ったピンクちゃんが入ってきた。
やっぱりざわつく学生達。女子は興味津々に、男子は浮足立つ。
教卓の前に立つ二人。
マイクみたいな魔具持ってメガネ先生。
「おはようございまーす。転入生紹介しまーす」
「はっ、はじめまして。パトリシア・アンジールと申します。よろしくお願いします」
ぎこちなく挨拶するピンクちゃん。
「彼女、光属性です。魔法実技は特別カリキュラムになりますが、他は皆さんと同じです。当たり前ですけれど、仲良くして下さいね」
メガネ先生が、わざわざ小学生に言い含めるように言ったのには訳がある。
「光」属性保持者は、基本的に平民だ。
噂によると、同じ年に生まれた平民の赤ちゃん百人から一人の割合で出現するとか。アカデミーが統計取った結果なんだろうけど。
「光」属性者は、女神アレスを信仰する教会の司祭や巫女等の神職に就くことが多い。属性や身分関係なく神職に就く人はいるが。
メガネ先生は魔具を外して、ピンクちゃんに「席は」と指示する。
俺の隣が空いていたが、昨日今日の知り合いで、しかも男の俺が誘うのはなんか違うなと躊躇した。
キョロキョロしていたピンクちゃんの視線が上の方を捉える。彼女の顔がちょっと明るくなった。
視線の先を追いかけて振り返ると、うちの姉御がニコニコ手招きしてる。
パトリシア嬢は嬉しそうに階段通路を駆け上がる。
ジェル姉が一つ隣にずれて座り、ピンクちゃんが空いた席に着いた。
俺の島前方に座ってる黒髪ロングの眼鏡女学生が、二人の様子に唖然としてた。ここから見ていてなんか面白い感じだった。が、キューピーちゃんじゃあるまいし、何をそんなに驚いてるのか知らん。まぁいいか。
それより気になったのが、二人の後ろに座ってた三人娘よ。
黒髪ふわもこが、唇への字にして苦々しくパトリシア嬢を見下ろしていた。
頼む。やらかしてくれるなよー。