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ep69後「秋の収穫研修。マンドレイクはやかましい」

新作書けました。本体です……。

でも、後半戦じゃありません。

前半戦で書かなかったお話がありました。あえて飛ばしたんです。

早く本筋進めたかったから。

今回、後半戦を書くにあたり、書き飛ばしたエピソードを書き足しました。

時系列的には第67話と第68話の間のお話です。

矛盾はしてないと思います。

そういう理由で〜っ、

ちょっとだけ、時間を巻き戻します。

『気高い薔薇の育て方!魔法学園一年生編』

第69話後「マンドレイクの農園」第70話前。

どーぞ。

 学園の南東に広がる農園は、水練を行う湖と学園からの移動時間を考えると学び舎からはちょっと距離があった。体操服に軍靴でひたすら歩く学生達。目的地までの道すがら、半分の距離を歩いたら女子達はお迎えの幌馬車に乗って順次行ってしまった。ずるい、と思ったが、まあ仕方ない。男子は地道に歩くしかない。


 当日は晴れていたが、雲がうまい具合に太陽を隠してくれていたおかげで、暑さも日差しもそれほど厳しくなかった。今日は一年生と二年生が、農作物の収穫のお手伝い。そして一年生はマンドレイク採取の研修を行う事になっていた。


 マンドレイク。

 前世のファンタジー作品でもよく出てくる薬草だ。ご多分に漏れずこの世界でも存在する。やはり、魔法系の薬草として。


 研修先の農園は、本当にだだっ広い。刈り取られて更地になった畑もあれば、緑が地面に這いつくばるように茂る畑や、木々が繁る果樹園もある。その遥か東の先には村らしき建物群が見えた。


 そんな広大な畑の中に、ぽつんと白い壁に囲まれた一角がる。東側の村寄りに建つその壁は、周囲の木々よりも高く、どこか不思議な雰囲気を放っている。


「あれが、マンドレイク畑だそうですよ」


 近くにいたヴォルフが、その白い壁を指さした。うちの学園みたいに結界が張られているらしく、壁を登って中に入ることは出来ないらしい。北と南に出入り口があり、今日は南口が開放されている。


 マンドレイクは抜く時に、奇声を上げて叫び出す。その叫び声を聞いてしまうと人体に悪い影響がある。

 面白い事に、この世界でのマンドレイクは日光が嫌いで、月光が大好き。しかし日光に当たらないと育たないという、なんとも天邪鬼な性質をしている。

 基本的に土の中で育つというから、根菜類なのか……。以前見たマンドレイクは、根っこが薄い茶色でずんぐりとしたゴボウの様な形。葉に近い部分には、出目金みたいな丸い目と、閉じた口のような皺がある。乾燥したものしか見たことがなかったから、今回生きている姿は初めてだ。


「チェインバー領だと、マンドレイク作ってるんだっけ?」

「はい。でも、少量ですけど。森の奥で作るので、中々大きくならないそうですし、密猟なんかもされてしまって」

 うちの領地でも昔は作ろうとしたらしいが、断念したと聞いた。

 マンドレイクは魔法系薬草の中でも高価だ。金を育てている様なものと言う人もいる。商品作物として、魅力的なんだけど……。まあ、マンドレイク以外にも魔法系薬草はあるので、そういうのは育てている。ただし、子供の頃夏にお世話になった豪農さんの村ではこさえてない。

 上物マンドレイクなんてそうそう採れないし、育った場所で育てるには土の入れ直しとか手間暇かけねばならないとか。育てたら土地の栄養吸い尽くす朝鮮人参かよ……。

 この農園では、何故マンドレイクが大量にすくすく育つのか、俺にはさっぱり分からない。きっと何か、秘密の飼育方法があるんだろうと漠然と思った。



 今日の俺達の予定は、午前中に麦の種まき研修後、マンドレイク園見学。午後にマンドレイクの採取研修だ。二年生男子は午前も午後も収穫作業の手伝いをする。


 先に農園に着いていた女子たちは、一年生は麦の種まきについて農夫さんから説明を受けていた。二年生の女子は、学生らの昼飯の準備をしている。一年生の説明が終わったら、彼女たちも二年生女子のお手伝いに回る。


 二百人近い学生がいるから、飯の準備も大変らしく、南の町からも応援が来ているとか。食える場所も限られているので、二年生が先に食事を済ませ、一年生はその後になる。


 女子がマンドレイク園から出てくる頃、一年生の男子は麦畑の見学。麦の生態と麦の種蒔きを見るだけだった。興味のないやつや、既に知っているやつは退屈そうにしていた。

 貴族の学生が農民の生活や農作物の生態に全く興味がないというのは、当然と言えば当然なんだけれど、前世の日本の高校生だった俺からすると、なんとも奇妙な感覚だった。遠足なんかで農業体験とかあったし。まるで前世で読んだ女性随筆家の手記の牛車から見た田植えしてる農民なんぞ貴族の御令嬢からしたら、『何してんの? きんもー!』みたいな世界そのものなのだろうか。

 たださ、大昔の豪族や騎士様でも自領の畑耕してたりして農作業従事してたらしい。そういった古い家系の奴と、ここ百年で金と魔力持ちの血を得てお貴族様になった奴には意識的な差がある。


 麦畑の説明が終わり、マンドレイク園に移動する。園を囲む白い壁に近づくと、その高さと堅牢さがよくわかる。開け放された黒く分厚い木製の扉の先。壁の内側に近い所には樹木が森のように鬱蒼と生えていて、その奥に畑や小屋が見えた。

 東側に小さな家。世話や見張りの人用。西側にはまともな窓のない木製の小屋。そして農機具などが置かれているらしい納屋が見えた。

 園のど真ん中は、規則正しく縦三横三、九つに区切られた畑になっていた。おそらく、時期をずらして収穫するための区画なのだ。畑の一つ一つには着脱できる日除けがかけられている。今日は雲があるとは言え空は晴れている。マンドレイクが日光を嫌う性質を考えれば、これは当然の対策だろう。

 ここに植えられているマンドレイクは、一部を除いて、細身で長めな濃い緑色の葉っぱが地面に張り付く感じで広がっていた。

 マンドレイクの生態と育成の大変さを担当の方から解説された。

 西側の小屋に案内される。全体が土間の倉庫のよう。壁際に五段ある段々の棚がいっぱいあった。棚の上に置かれた素焼き鉢植えにはマンドレイクの葉っぱが生えていた。

 根菜類と言えば、ニンジン、大根、ゴボウである。ゴボウは知らんがらニンジンと大根の葉っぱはわかる。ニンジンは色が薄くて茎と葉っぱは細い。大根は、茎が少し太めで葉っぱはギザギザしてる。細かく刻んでおひたしにすると美味い。

 マンドレイクの葉っぱは、上記根菜類の形状とは異なっていた。どちらかと言えばタンポポの葉っぱみたいに少し細長く平べったい。葉っぱはギザギザというより波々している。

 鉢植えのサイズは直径十五センチくらい。高さもそれくらいか。ちょうど人さし指と小指を軽く広げたくらいの長さ。

 一人一つずつ、外に運ぶ。

 鉢植えは素焼きの陶器なのと、マンドレイクを刺激しない様にゆっくりと。

 マンドレイク園の外には二台リヤカーが置いてあった。台の上には既に女子の分が置かれていた。今日はまだ直射日光が当たらない。でなかったら、日陰を作って移動せねばならないのだそうな。

 次々と置かれていくマンドレイクの鉢植え。俺は二個目の鉢を取りに行く。

 リヤカーの荷台にむしろを上から被せて午後の研修準備はおわった。


 *


 マンドレイク園から南西に小さな小屋がある。

 昼食休憩用の小屋は、農家さん用なのか学園生用なのか、調理場や手洗いなどがあり、住む事は出来ないが休憩には十分な造りだった。

 殆どの学生は、むしろが敷かれたお外で昼食を取る。一年生は比較的小屋の近く。

 先に昼食を取っている二年生は小屋から離れた木陰の辺りのに集まっている。


 今日の昼食は、昨日収穫されたニンジンなどの根菜類とベーコンの入ったスープに、固めのパン。普段の学園で食っている昼飯よりは質素だ。

 二年生は二度目だし、エリオット殿下も普通に召し上がっているせいか、文句を言っている者はあまりいない。腹が減っていたから普通に美味かった。


 俺が一部の“地”属性と“風”属性の男子らと一緒に飯を食ってた時だ。

「甘藷も楽しみなんですけど、ポポも楽しみなんですよ」

 ピンクちゃんがはしゃいでいるのが聞こえた。ポポというのは、木になる果物のことだ。

「子供の頃、お城にお呼ばれした時、おやつで食べたわよー。殿下と一緒にねー」と、ジェル姉がふふんと自慢気に話していた。

 エリオット殿下の婚約者の友人達数名が、羨ましげにしていた。

 ポポは日持ちしない為、滅多に市場に出回らない知る人ぞ知る幻の果物だ。味はマンゴーとバナナを足して薄くした感じだとか。同じ名前の果物を前世のテレビで見た事がある。が、本体も同じかはわからん。お城で食べたと自慢した姉御に毒されて「俺も食べたい」と、親父におねだりしてみたが、手に入らんかった。出入り業者の商家に頼んだそうだが、流通網が無くてあかんかったそうな。学園の出入り業者であるマリオン商会に頼めばいけるのだろうか……。

 しかしまぁなんですな。ここの農園で作っているとは言え、そんな珍しい果物を午後の農作業後に出してくれるとは、なんて太っ腹なご褒美なんだ。ただ、昼飯をちゃんと腹に収めないと、おやつにポポが食えない。だからみんな黙々とパンをスープに浸して平らげていた。


次回7/30 18:30up予定。

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