第13話「揃いだす主要メンバー。でも、ピンクちゃんだけ見つからない」
学生食堂。
六人掛け白いのテーブルが二つ。八つ並んでいる。島は三つ。
授業のない土日や長期休暇以外、各学年の場所が決まっている。
料理を提供するカウンターを背に、右の島が三年生。左の島が二年生。真ん中が一年生。
時々、指定の島は変わる。
俺はなんとも思わなかったが、自分でカウンターに料理を取りに行くスタイルは、すでに学園に来て数日経つのにジェル姉には慣れないらしい。
今まで給仕してもらって当たり前のお嬢様だから仕方ないんだが。
「私も分も取ってきてよー」「絶対イヤでございます」「ケチ!」
こういうアホな姉弟のやり取りを学園着いてから毎日繰り広げてた。
飯は、給食みたいにみんな一緒。献立は毎食変わるが。量の調整はしてくれる。
昼と夜は、パンと、肉か魚の煮込み料理と、ポテサラかトマトやキュウリのサラダみたいなもの。キャベツは煮込まれてるか、ザワークラフトみたいな物しか出ない。レタス等の葉物野菜は、洗浄が大変だから滅多になまのは出ないらしい。
朝は、パンと、ハムかベーコンかソーセージ、スクランブルエッグかゆで卵、スープ、ちょっとした野菜。
パンはお代わり可能なので、特に腹は減らないが。
二年の島寄りのテーブル、通路側の席で姉御と対面で飯を食っていると、
「隣よろしいですか?」と、トレーを持ったヴォルフが訊ねてきた。
同じテーブルは四席空いている。俺らの隣に誰も来なかったし。
「あたしもよろしいですか?」と、緑の髪の女子学生が聞いてきた。
「いいわよ」と、ジェル姉が椅子を引いた。
「ありがとうございます」
可愛らしい声の緑頭。
「ヴォルフ様、彼女とはどういうご関係?」
席付いてそうそう聞くか、姉上。だけど、ナイスや! 俺も知りたい。
「彼女、俺と同じ風属性なんですよ。入学前くらいに迷子になってたので案内してあげて。それでちょっと話すようになっただけです」
新緑みたいな髪の色。おでこが出たスカーレット・オハラみたいな髪型。小柄で小動物的雰囲気を持つ彼女の名前はブルジェナ・サンチ。
実家はパン屋だったが、数年前に両親が亡くなった後は、五歳違いの兄弟と一緒に、海運業を営んでいる大伯父の所に引き取られたそうな。弟は大伯父の所にいるが、兄はアカデミーにいるとのこと。
斜め対面とは言え、俺はこの女に見覚えがあった。
ゲーム内で、時々主人公に話しかけてくる同級生の女。
恐らくこいつが「おひぃさん」だ。
女子なので攻略対象キャラでないが、それなりにストーリーに関わってきていたはず。というより、最終決戦にいてた。
あれ? でも、俺が見た時、こいつ火の魔法使ってたような……。
それに、姉2はこいつのこと最初「デコちゃん」と呼んでた気がする。でもある時から「おひぃさん」になった。
「デコちゃん」なら理解出来る。この女、おでこ目立つから。俺なら「ワカメちゃん」とか「昆布ちゃん」とか付ける。
「おひぃさん」
おひいさんには、お嬢さんとかええとこのお嬢様の意味がある。
パン屋の娘でも、親戚が海運業してるならそれなりにお金持ち。だから、お嬢様的な意味合いなのか?
ジェル姉は海を見たことがないので、ブルジェナ嬢の話が面白いらしい。ご機嫌に笑っている。
この食堂にいるのは、我が姉ジェルトリュード、ブルジェナ嬢、そして俺含めて攻略対象者が五名。
なのに、プレイヤーキャラである主人公「ピンクちゃん」は見当たらなかった。