71「黒い虎もザリガニも海老」
夏休み。
最終授業と共に帰っていった奴もいれば、水練までしばらくいる奴とか色々。
湖での水練実施日の数日前。
男子学生の一部が「エビだ、エビだ」と騒いでいた。
職員宿舎の裏手で、大量のエビが桶に浸かっていると言う。
室内訓練場でWと体術訓練をした後、宿舎に戻る途中で覗きに行った。
建物裏口のポーチに置かれたタワー状の桶。二枚木の板を蓋代わりに被された大中小の桶が三段に積み重なってる。最上段の小さい桶には、蓋と蓋の間に茶筒より一回り大きな“水錬成”の小さな魔具が付けられていた。
一番上の蓋をちょっとだけずらす。
「ザリガニですね」「ザリガニだな」
水の中には、エビではなく赤黒いザリガニがいっぱい蠢いていた。
三段共に大量のザリガニがいる。
「エビだと思ってたのに……」
海エビを想像していたので、肩を落とす。
「ザリガニもエビですよ」
「うーん小さいから食いでがないし、剥くのが面倒くさい」
「採れた場所で味が……」
「だよなー」
Wとブツクサ言っていると、「いじらないで下さい」と、職員のおっちゃんに叱られる。
「あっ、さーせん」
「水練の前の日くらいに、出すそうですよ。学生さん、良かったですな」
「このザリガニはどこから?」
「近くの村からのお裾分けです」
「全員分ありますかね?」
「エビが苦手な人もいるでしょうから、有志だけですね」
ザリガニは採れた場所で泥臭さが異なる。水に浸けて泥抜きをしているのだ。
バシャ
鹿威しの水流すみたいな魔具の口から水が溢れる。一番上の桶に注がれ、溢れた水が下の段へと順番に流れて落ち、ポーチから伝って地面に吸い込まれる。
この程度の水量なら、空気中や地面の水を、純粋な水として錬成出来る様だ。定期的に水を作り出しているのだろう。
「貴重なタンパク源や」「当たりならいいですね」
宿舎に戻って、「エビだけど、ザリガニだぞ」と知り合いの学生達に教えてやった。
職員のおっちゃんが言った通り、水練前日の昼食に茹でザリガニが出た。
朝食の時から希望アンケートが出ていたので、勿論俺は大きく丸をつけた。
ランチタイム。
メインは、縦切りナスとズッキーニを和えたマカロニ。
そして、俺達六人の前にはボールに盛られた二十匹の茹でザリガニ。
ピンクちゃん、姉御、おひぃさん。対面には、俺、クーちゃん、W。
相変わらず、クラリッサは兄貴にべったりである。
両側には、ゲームの攻略対象者とプチ逆ハーレム状態だ。主人公ならいざ知らず……。
夏休みで学生の数が少なくなった。
一年生は半数くらいとっとと帰省。
「ザリガニなんて久しぶりよねー」と、ジェル姉はご機嫌だ。
「あたし、海のエビは食べた事あるんですけど、川のエビは初めてです」
「私は時々食べてましたよ」
フィンガーボールとナプキンが配られて、甲殻類特有の匂いを漂わせながら、ザリガニをバラす。
ちょっとクセがあるが、噛み応えはやっぱりエビだ。味もエビだが、多少の泥臭さはある。
真ん中のクラリッサは、自分の前のエビエビボールを複雑な顔で見つめる。
「嫌いか?」
「あまり好きでは……」
「好き嫌いは良くないよ、クラリッサ」
クーちゃんは、俯き気味にスティック状のズッキーニを咥えた。
「嫌なら食わんでええよ。エビとかの甲殻類って、アレルギー出る場合あるから。美味しそうに思えないなら無理せんかて」
「形が苦手なんです。ハサミで挟まれたら痛そうですし、足も多くてくちゃくちゃしていて」
「造形からあかんのか。ごめんな、生理的受付んのに付き合わせて」
「いえ、お友達が帰ってしまわれたので、カル兄さま達がお食事にお付き合いいただけて感謝しかありませんわ」
俺を上目遣いに見てにっこり。なんやかや言うても、クーちゃんは可愛い。んー、しゃーない。許す!
周りそこそこ静か。
エビとかカニとか食べる時って、やっぱりモグモグならぬ黙々になるらしい。
「豪農さんの村が懐かしいわね」
「おやつが塩ゆでザリガニだったな」
「みんな、どうしてるかな〜」
ザリガニの頭と胴体をブチッと捻り、ジェル姉懐かしそうに呟いた。
これにて先行掲載終了です。
お読みいただきありがとうございました。
現在、約18万文字百話分の下書き終わってます。
が、まだ二学期始まってません!
予定だと25万文字予定なのに、まだゴール見えないよー!
筆折ったと思われるの嫌だから、先行掲載いたしました。
頑張って書いてますのでよろしくお願いします。
これが掲載される頃には二学期半分終わってるかなー。(遠い目……)
2025/4/10 石平直之