44「風と土とで剣修行」
剣術大会の少し前から男子学生達は浮足だっていた。とは言え、全員ではない。
いつも以上に自主練に励む士官学校組の魔法剣士達。
決勝には行けなくても、それなりに結果を残したい貴族階級出身の男子学生達。
それらを冷ややかに見つめ、特に何もしない男子学生ら。俺らの学年ならオタク三銃士とか平民出身学生……。
そんなこんなで、内園の屋内練習場と、外園の運動場のほとんどが士官学校組に占拠されていた。練習は出来るのだが、隅っこで剣を振り回させてもらう状態。そもそも士官学校組って全学年で四十人くらいしかいないのに、なんで二箇所も占有されてんだよ。解せんのだが……。
で、一般学生は臨時で解放された外園の魔法練習場で剣を振り回している。
かく言う俺とWも、放課後は魔法練習場で剣の練習である。
一年生の終わり頃から、魔法剣の練習をしていたので違和感はない。
魔法剣の練習をする場合は、俺がWの剣を受ける時は、“土の防壁”や“泥の傀儡”を展開す。で、Wが俺の剣を受ける時は“風の防壁”を展開する。
偶に、ジェル姉にお願いして、“泥の傀儡”を展開してもらう事もある。但し、同学年の女子の中ならそこそこ剣術が出来る姉御だが、棒を握らせた“泥の傀儡”だと動きがイマイチなのが玉に瑕だが……。
剣を振るって一時間弱。
さすがに肉体的にも疲れてくる。
「今日はこの辺にしとくか」「そうですね」
生理体操でもないが、軽く柔軟した後は、直接宿舎に戻らず園路を反時計回りに二人で歩く。
芝生で、剣を振るってる学生がちらほら。一人の奴もいれば、二人のもいる。
外園の塀の内側の森にも剣を振るってるのが木々の間から見える。秘密の特訓か……。
「魔法剣を習い出してから、魔法のコントロールが上手になったんですよ」
「マジで?」
「ええ。剣に魔力を付加する感覚が上手くいくようになってから、攻撃魔法系の制御がし易くなりました」
「そりゃ良かった」
「先輩方には感謝です。いずれ改めてお礼をしようかと思っているんですけど」
「ええんちゃう。あの人ら頼られると嬉しい系だったから。お礼ついでに可愛い女の子紹介してあげたら」
「それは……」と、Wは苦笑した。
乙女ゲームのエレラバで、Wは役立たずと言うのがお姉らの評価だ。バトルにおいて、防御と回復要員でMPが切れたらお払い箱という。なんてひどい!
でも、この世界にいてWを身近で知る俺としては、ゲームの仕様上そうなっていたとしか思えない。理由はわからんが……。
先輩らが卒業する直前まで、俺は魔法剣に苦心していた。が、俺より早くWの方がコツを掴んでいた。風の先輩にも筋が良いと褒められていたし。俺は熊ゴリラ先輩に発破をかけられている始末。まぁ、今はそこそこ扱えているが……。
ここに入学する前。親父と母親がワインを飲みながら話していた時だ。
母親がチェインバー家の話題を親父殿としていた。
「あそこは名家と言われながらも、ずっと伯爵じゃありませんか? 何が名家なのかと……」
「お前は分かってないな。あの一族が本気になったら、“風の刃”で牛一頭くらい一瞬で真っ二つにするよ。俺、昔見たから……。それに、王命があれば自領民すら八つ裂きにする。お前も知ってるだろ」
母親は黙ってワインを飲んだ。
八つ裂きの件は、今のチェインバー伯爵の話ではなく、歴史の教科書に出てくるお話なのだが……。
母親は、Wのおばちゃんことチェインバー伯爵夫人になんか引け目がある……と俺は睨んでいる。
俺ら姉弟の誕生日会には、親父殿の知り合いである貴族や騎士、商家の子女が来ていた。大体付き添いは母親なんだが。
それで、子供らは子供らで遊び、母親らは母親同士で集まる。
何処の時代でもママ友会みたいなのはあるわけで。
すると、明るくて人懐っこくよく喋るWのおばちゃんが話の中心になる。
うちが主催なのに。
母親はそんなにベラベラと喋る人ではない。
俺からしたら、あまり接点のない相手がベラベラと色んな事を話してくれるなら、情報収集し易くてありがたい。
が、これが女同士なら話が違ってくる……多分。
会話のフラッグの奪い合い。これが女同士の会話の基本だ。
あの人らが口にする話題と言えば、旦那の悪口(但し惚気を含みます)、子供の出来の悪さとさり気ない自慢、姑の悪口(これは本当の悪口です)が大半だった。
母親は貴族出身だか、全く裕福ではない下級貴族。何せ、結婚するまでよその貴族のお宅で働いていたらしいし。Wのおばちゃんは平民だが、裕福な良家のお嬢様。自分でお金を稼いだ事がない人。
そういうところで色々あったんじゃないかと……。
ゲームにそういう設定があったのかは、今となっては分からないが。
前回の答えは、「はとこ同士」。
祖父と祖母が、姉弟。
祖母の代で降嫁したので平民です。
本編に直接関係ないので詳しくは触れません。