5 「友情と愛状の狭間」
舌の根も乾かぬ間にKはWとずっと一緒。庭園にいた兄に無理矢理学園を案内させ、彼の女友達から引き離す。そして兄貴の腕に自分の腕を絡ませてびったり張り付いていた。
夕食の時も、兄と一緒。普通対面に座るのに、横にびたーっと。
誰かが自分達の前に座ろうもんなら、ギロりと睨みつける。
懲りてない……。
休日は学年関係なく自由に座っても良いルールがある。が、それをしていないのは新三年生に王子様のエリオット殿下がいらっしゃるからだ。同じ学年ならまだしも、他学年の女子らに纏わりつかれても困る。だから、長期休暇で殿下がいらっしゃらないなら学年フリーとなっている。
よって、新二年生の島に新一年生がいても問題はない。のだが……。
夕食後のカフェテリア。
カフェスタッフのエプロン着けたエイミー嬢と黒髪眼鏡ちゃんがいる。
夜なので屋内。他の学生に極力聞かれない為、すみっこのテーブルを選んだ。
俺ら姉弟は、同輩女子二人を呼んでお茶会というか対策会議……。
お呼びしたのは、ピンクちゃんことP嬢とおひぃさん事B嬢。
夜なのでカフェインレスのルイボスティーをポットで頼む。他はクッキー三人前。
エイミー嬢が注文の品を持ってきて配膳してくれた。
「W様の妹さんのお話ですか?」
「そうなの……」
「あいつの妹、過度なブラコンだから……」
「ブラコン?」
「ブラザーコンプレックスの略や」
「お兄ちゃん大好きっ子なの……」
「あぁ、なるほど」
エイミーちゃんはお盆持ってカウンターに戻って行った。
「そういうわけで、クーちゃんは過度なブラコンなので他の女子学生にも注意喚起しといて」
「わかりました」
「わるい子じゃないんだけどね……」
姉御はしみじみ呟いた。
ピンクちゃんが身を乗り出す。釣られて俺らも。
「ところで」と、口許に右手を添えて小声。そして「だったんですか?」と、自分の左肩をつついた。
「ビンゴだった……」
俺の言葉におひぃさんとピンクちゃんは顔を見合わせた。
ついでに言うと、B嬢が“火”の紋章持ちなのは全学年に知られている。が、P嬢が“光”の紋章持ちである事を姉のGは知らない。そして、うちの姉御が“闇”の紋章持ちである事を紋章持ちの二人は知らない。
「でも、仲間がいて良かったって」
おひぃさんは胸を撫で下ろす。
「だけどさ、あの子と仲良く出来るか? 昼のあれやで、前みたいにイチャイチャ出来なくなるぞ」
「イチャイチャだなんてそんな!」
顔赤くして弁解しようとするが、あれは静かなイチャイチャです!
「あの方の妹さんです。時間を掛けて分かって頂こうと思ってます。W様とはずっとお友達です。そしてあの方はあたしの事好きと言って下さいました。どんな事があっても卒業するまで、あたしがW様の事を好きでいるのは変わりません」
B嬢は微笑んでいた。全てを悟り慈しむ菩薩様の様に輝いた柔らかな笑みで。
あまりの眩しさに、俺ら三人とも軽く仰け反ってしまった。
「わっ、私、こんな微笑みで殿下を『愛してる』って言う自信はないわ……」
意味不明な敗北宣言をするジェル姉様。
「大丈夫です! ジェル様の好きはジェル様の好きです。他の方の好きと同じでなくても」
よくわからんフォローを入れるピンクちゃん。
取り敢えず、クラリッサが暴走しそうになったら俺らクライン姉弟が止める。
何故って、あの兄貴はダメだ!
人が良過ぎて、現実を見ていない!