第137話「ウソっけの誕生日」
カフェテリア。
春休み。おやつ時で、帰省していない学生がぼちぼちいてお茶している。まだ、新入生は一人も来ていない。
「「「お誕生日おめでとうございまーす!」」」
「ありがとう!」「あざーす」
二つある丸テーブルの一つには、白に近い薄黄色のロールケーキ。厚めにクリームが塗ってある。
今日は、四月一日。
俺らクライン姉弟が、お互いの誕生日を祝う日だ。
本来、この学園では、他の学生に誕生日祝いの品を贈ったり、誕生日に誕生会を開いてはいけない。
許されているのは、給品部のマリオン商会で扱っている便箋でお手紙を送る事だけ。
それも、受取り拒否した学生には送れない。
受取り拒否してる学生は想像に難くないだろう……。
宿舎の受付はまだしも、受け取った人はさばききれないからだとか……。
俺? 一通も着てませんけど、何か?
では、何故、俺達が誕生会をしてるかというと……、建前上、ケーキの試食会だから。
パトリシア嬢とブルジェナ嬢が、カフェテリアのキッチンで、俺達の為にケーキを焼いてくれた。キッチンのレンタル代はヴォルフが出したそうな。
ケーキにロウソクはない。上記理由。
「お皿お持ちしました」
黒髪眼鏡ちゃんが、取り皿セットとナイフを運んできた。
各人に並べると、入れ違いでエイミー嬢がお茶を持ってきて並べていく。
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」
「姉弟さんで一緒にケーキ切ります?」
「結婚式のケーキ入刀かよ。きめーわ、それ」
「じゃ、あたしが切り分けますね」
「六等分でお願いします」
ピンクちゃんがエミちゃんのお手伝い。
ケーキ切り分けてもらってる間に、俺は制服のポケットから手乗りサイズの紺色の箱を取り出す。
「というわけで、はい。プレゼント」
「えっ、何?」
ジェル姉が受け取った箱を開ける。
中には銀色の蝶モチーフのブローチ。小さな真珠と小さな魔石が羽の模様みたいに付いて居る。
「外出用のお守り。二年生になったら外出出来るから。魔力強化用」
「きれい」「可愛い」
「何処で買われたんです?」
「白デ……。ドゥエインの実家宝石商だから、マリオン商会経由で」
同級生のよしみで、恩を売っとこうかと。
「なら、私も」
ジェル姉もポケットから何かを取り出す。
青みのある白いハンカチ。
「おっ、ありがとう。これは」
ハンカチの隅に、銀色の糸でC・Cと刺繍が施してあった。
「私、下手だから、二文字しか縫えなかった」
「何言ってるの。丁寧な仕上がりやん。めっちゃ嬉しい」
「母には及ばないから……」
「あれはプロ級。天賦の才能がない限り無理」
ケーキが配り終えられた。
姉弟でそれぞれ貰った物をポケットにしまう。他人からの贈り物は何かしら言われそうだが、家族だから。
「余ったのはどうします? 五等分しますか?」
女子三人、顔を見合せた。
「よろしければ」
「一切れしかありませんが、お二人でどうぞ」
「参加した体で、もらっちゃって」
エイミー嬢は驚いていた。
「良いんですか? なら遠慮なく! リリー! ケーキお裾分け。半分こしよー」
ロールケーキの乗ってた皿を回収して、いそいそとエミちゃんはキッチンに戻っていった。
「じゃ、いただきまーす」
白い生地。中は白いクリームとピンク色したイチゴジャム。外と中のクリームは、生クリームではなかった。
「生クリームは扱えなくて」
「ジェル様はバターがお好きだから、バタークリームにしてみました」
「うーん。凄く美味しい」
頬に手をあててジェル姉は幸せそうだ。
「懐かしいですね。王都のクライク邸にお邪魔して、みんなでケーキ食べたり、お庭で遊んだりしたの」
「そうよね。私が十二歳になったくらいで、地味なお食事会になっちゃったから」
「お三方は、いつからお友達なんですか?」と、ピンクちゃん。
「僕が、四歳の時? 母に連れられて、カルヴィン様の誕生日会に行ったのが初めてだと思う」
「多分そう。ヴォルフだけが、私に誕生日プレゼントくれたの」
「あれは、母が持たせてくれた物で、僕の意思ではないですよ」
「えっ? 合同の誕生会じゃなかったんですか?」と、驚くおひぃさん。
「合同の誕生会するようになったのは、私が七歳でカルヴィンが六歳の時から。それまでは長男だからってカルヴィンの誕生会だけよ。カルヴィンが、『かわいそうだろ! お姉ちゃんと一緒の誕生会してよ』って、泣き叫んでくれて」
そういや、そんな事あったな。
「あの頃は幼くて、弟とはあんまり仲良くなかったから……。凄く嬉しかったな」
懐かしそうにジェルトリュードはお茶をすすった。
「それで、四月一日なんですね」と、ピンクちゃんはうんうんと頷いた。
昨日が俺の誕生日。
そして、明日が我が姉ジェルトリュードの本当の誕生日だ。
「でも誕生日……。大変なんだよね?」
急にジェル姉の顔色が曇る。
「ええ……」
「痛いです……」
「一年のオドを出すんだからそうなるのね……」
パトリシア嬢もブルジェナ嬢も、どよんとうつむきがちになる。
この学園に入学する時。女子は、魔石の粉末入りの薬を飲まされる。
約一年間。女の子の日を停止させる為に。
魔力の必要な薬の為、魔力が溢れるこの学園とアカデミーでしか充分な効力が発揮されない。
王都みたいな魔力持ち住民が多い都市でも、半年も効かないらしい。
期間は、誕生日から次の誕生日迄。
誕生日になると入学から一年経たなくても、女の子の日が来る。
だから、女子にとって誕生日から数日は厄介らしい。
つまり、女の子の日が来ないので、ここの女子は妊娠しにくいらしく。それ故に……。
「明日から数日、食堂とか行けないから……」
「何かあったらフロントに伝えるか、エマさんにお願いしますから大丈夫ですよ」
ずしーんと重い空気が、女子三人の頭上に見えた……。
男二人は、ちょっと気まずい。
女子さん、お疲れ様です。
約四カ月半のお付き合いありがとうございます。
次回、前半戦の最終回です。
よろしくお願いします。