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第135話「姉の告白と六花の花びら」

 宿舎のフロント。

 部屋の鍵を待っていたら、メイドのエマに呼ばれた。

「お待ちしておりました。ジェルトリュード様が、カルヴィン様にお会いしたいそうです」

「りょ! 姉上は?」

「顔色は宜しくありません。怯えてる様にも見えました」

 鉄面皮だけど、不安げなのが見えた。

 鍵を受取り、エマっちに連れられ姉御の部屋に行く。

「お嬢様、カルヴィン様がいらっしゃいました」

「ジェル姉、大丈夫か?」

 コート掛けに制服のジャケットが掛かっていた。

 台の上には、四角いお盆の上に洗面器と使い終えたフェイスタオルがグチャグチャに置いてある。

 姉のベッド。天蓋の薄いカーテンの向こうに体操座りしたジェルトリュードの姿がある。

 何も言わないので、俺はベッドに近付いた。

「どないした? 開けるで」

 カーテンを上げた。

 姉御は膝を抱え真っ青な顔をしている。髪の毛もちょっと乱れていた。

「医務室行くか? あっ、今ディアナ先生忙しい。治癒系魔法使える奴呼んで」

「エマ、お茶が飲みたいの。三十分くらい部屋を出て!」

「かしこまりました」

 エマはそのまま部屋を出た。

 人払いして姉弟の二人。

「あぁぁぁぁぁぁ」

 頭を抱え苦しそうにうめき出す。そして涙目の顔を上げた。

「どうした?」

 俺はベッドの端に座り、姉の肩に手を置いた。

「襲われた……」絞り出す様に彼女は訴える。

「もしかして、手紙か……」

 静かに頷いて「先輩からの手紙が部屋のドアの下にあって『お話があるから一人で来て』って。でも嘘だった。誰かわからないけど、脅して嘘の手紙を私に届けさせたんだって……」

「なんか、されたんか! ど畜生!」

「されたけど、されてない。むしろ何かしたのは私の方かも……」

「はっ?」

「卒業するはずの先輩、一人は卒業出来なかったけど、何人かに囲まれて。私、逃げようとした。けど、腕掴まれて、魔封じの魔石を首に充てがわれて……。“泥の傀儡”使えなかった。街や建物に使う強力な魔具みたいで、地属性の人なら魔法使えなく出来るって」

「婦女暴行は、一族の関係者の入学十年禁止とかやぞ。それなのに」

「『自分達はこの学園で得るもの得たから卒業資格なんて半分どうでもいい。でも、あんたは、色々バレたら立場危ういよな。なら大人しく言う事聞けよ』って。ニヤニヤ笑ってた」

「襲われた!?」

「木に押し付けられて、顔を舐められて、怖くて。悲鳴あげようとしても声も出なくて。そしたら、胸が痛い様な熱い様な気もして。足下がザワザワするなと思ったら、大量の黒いバタバタするのが何処からか現れて、あたり一面真っ黒に。みんなパニックになって。その隙に逃げたの……」

 ジェル姉がガタガタ震えだす。

「子供の頃。二度目に行ったお城の新年会で、廊下であんたと隠れんぼみたいな事してた時、知らない大人に手首を掴まれて攫われそうになった事があって」

「そんな話知らんぞ!」

 唐突な証言に大声で叫びそうになった。

「言えなかったのよ。言えば、お母様に殴られる。それに、私やクライン家に悪い噂がついて回る」

「その時も何かされたか?」

 首を横に振る。

「あんたが逃げ方を教えてくれてたから。でも、屈んで走ろうとしたらこけちゃって。慌てて亀さんの姿勢で耐えた……」

 前世。小学校低学年の時。姉2が日曜日に行く教会学校のクリスマス会に二人で行った。

 靴屋の話と救世主誕生のお芝居を観た後、交換プレゼントの前に、冬休みの防犯の話があった。

 変な大人と関らない。捕まった場合の逃げ方。それでも捕まった場合の対処法として、子供に悪さする奴は、自分の巣に獲物を持ち帰り、そこで子供に悪さをする。だから、近く大人がいないなら、亀さんのポーズで地面に貼り付く様にして叫べ。こんな内容だった。

 犯罪対策全てに当てはまるかわからない。

 俺はその記憶を元にジェル姉に子供の護身術として教えたのだ。亀さんのポーズで彼女は笑っていたが……。 

「あの時は、すぐにあんたとお付きの人が私を呼んでくれて。『ここよ!』と叫んだら、舌打ちして逃げていった。今回は亀さんのポーズはだめだから、でも隙を見て逃げられた。あの人達は、バタバタするのに邪魔されて騒いでた……」

 震えを堪え姉が俺を見る。

「どうしよう! あの人達に脅されるかもしれない!」

 俺に抱きついて、うわーっと泣き出した。

「殿下にも迷惑がかかる……。婚約破棄されるかもしれない……」

「バタバタしたモノは、黒い蝶じゃなかったか?」

「……。解らない。鳥かもしれないし、蝶々だったかも。あっ、もしかして、“虫操作”の人が助けてくれたのかな……」

「お前を襲おうとしたクズ共は、コロシアム裏手で倒れてたそうだ。俺が見た時には医務室前で泡吹いて倒れてたぞ」

 俺は彼女の耳元で低く呟いた。そして、両肩に手を置いた。

「ちょっと俺の言う通りにしてくれへんか」

「何?」

「まず、ブラウスのボタン三番目くらいまで外して、胸元見せてくれる?」

「ちょっと、何よ! 顔を舐められただけだから」

「そうじゃない。確認したい事がある。とにかくブラウス開けて、胸元出せ」

「いくら弟でも」

 ぶつくさ言いながらブラウスのボタンを外す。

「外したわよ」

「なら、指三本に魔力を込めて、みぞうちから上に撫で上げてくれるか」

 怪訝そうな顔で、俺の指示通り右手で胸撫で上げた。

 ジェルトリュードの豊かな胸の谷間に、下部が太く短い菱形が黒い銀色に光っていた。

 パトリシア・アンジールの胸元にあった同じ形。

 女神アレスの太陽の一枚。

 “元素精霊の淑女”の印だった。

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