第134話「別れの朝。そして不穏な予感」
プロムの翌日。
午前中には、エリオット殿下達は学園を出発された。公務があるから王都に戻らねばならないからだ。
「ジェル! 一緒に王都に戻ろうよー!」
「すみません。私は魔法の鍛錬に励みたいので」
お見送りで、姉御と王子様の二人の甘々なやり取りを、俺は友人らと呆れてたのは言うまでもなく……。
卒業生は一斉に引き上げるわけではない。
迎えの馬車の都合もある。三月二十日迄に出て行けばいい。
荷物は二十五日迄に引き上げる。でないと、新一年生に引き渡す部屋の準備が出来ないからだ。
普段は空っぽの外園の外来用馬車置き場には、迎えの馬車がいっぱい停まっている。
昼前にやって来た馬車もあれば、朝一で出立する為、前日夕方から乗り入れてる馬車もある。
朝から宿舎や食堂では、別れを惜しむ学生らの姿が見られた。
プロム疲れもあって、飯時以外部屋から出ず、俺はぼーっとしていた。
廊下はバタバタしている。
夕食時。
パトリシア嬢、ブルジェナ嬢、ヴォルフと俺の四人で飯を食べていた。
「ジェル姉来ないな」
「夕方、お手紙貰ったから会長さんに会いに外園へ行くって宿舎を出て行ったきりですね」と、ピンクちゃん。
「会長と……。おかしいな。あの双子先輩、今日、王都に戻る予定って聞いたんやが」
「「えっ!」」
昨夜のプロム。
三年生、二年生、一年生の順に退場だった。
プロム運営関係者である会長は、最後まで指令台の所にいた。で、ご挨拶をしに俺は行ったのだ。
「明日は早朝、お姉様と実家に帰るの」
セレスタ会長は、プロムで疲れているのに自分も王都に戻るのは大変だと嘆いていた。学園から王都まで、馬車で八時間近くかかるからだ。
「ホンマに会長なんか?」
嫌な予感がするなと四人とも思ってたのか、皆険しい表情になる。
「カルヴィン様……」
俺に話かけてきたのはキャロリン。
「どないした?」
「ジェルトリュード様から伝言です。気分が優れないので食事は摂らないそうです」
「そうか……」
「廊下走られて、真っ青なお顔でした。鉢合わせた私にしがみつかれて。その後、慌ててお部屋に戻られました」
「大丈夫でしょうか?」
ピンクちゃんとおひぃさんが、心配そうに顔を見合わせた。
「それでは私はこれで」
キャロリンは、似非白雪姫達の所に戻って行った。
ガラガラガラ
「卒業生の男子がぶっ倒れてたらしいぞ」
慌てるように食堂に雪崩込んできた二年生の先輩数人が、食事中の友人らに話した。
「何処で?」
「コロシアムの裏手!」
「変な薬でもやったか?」
「今、先生方がバタバタしてる。一人や二人じゃなくて、医務室のベッドが足りないってディアナ先生頭抱えてた」
卒業記念にクスリキメるってアホちゃうか。
「ぶっ倒れた中に、断罪学生がいたらしいぜ」
「やっぱり怪しい薬だな!」
二年生らは他人事の様にゲタゲタ笑っていた。
まだ学園にいる三年生らは少し違ったが。
飯食い終わって、三人と別れた。
給品部に行く建前で実験棟に向かった。実験棟の一階には、医務室がある。ベッドは四つのはずだから、ぶっ倒れたのは四人以上という事だ。
「薬物じゃないわよ、これ!」
建物入ったらディアナ先生の声が響いていた。
一階ホールに、毛布に包まれた男達。計六名。
どっかで見たことあるなと思ったら、二月の庭園で俺らに絡んできたろくでなし共だった。
全員真っ青な顔をしている。何人かは白目を剥いたり、口角から涎を垂らしていたり、口から泡を吹いている。そして、髪の毛が白っぽい。
どう見ても、いけないおクスリをキメたどアホの末路だ。
が、銀色の棒状魔具で肩をポンポンしながらディアナ先生は否定した。
「瘴気ですか?」
看護婦さん的な役回りの医務室の補助職員さんが、薬物以外の可能性を告げる。
「瘴気じゃない。いつもの肝試しならもっと酷いし、瘴気臭するから」
教職員宿舎の渡り廊下から、誰か来る。
メガネ先生と学長だ。
「学生の様子は?」
「命に別状はないです。が、……」
「薬物でなければ、瘴気か、呪いの類か?」
「薬物反応なし。瘴気臭なし。呪いでもないんです。ただ、魔痕はあるのに、登録ある学生のものではなさそうで……」
「外部犯? んっ?」
メガネ先生に気付かれた。
「ちーす」
「非常事態だ。学生は出て行ってくれ!」
「あ、さーせん。給品部に用事が……」
「ノート? インク? 明日にしてくれないか? ここ閉鎖するから」
「なら、撤退します」
ザマアしたかったが、先生に言われたらな。
先生らがまだ何かしら話している。
「体温が異常に低い。可能性として……」
外に出て実験棟の扉を閉めた。
それ以降は解らない。