第133話「プロムの終わり」
パトリシア嬢は花摘みに行った。
また一人。
指令台近くにいる姉御の元へ。
「踊れた?」
「いえ……。パトリシア嬢はミサンガ全消費してたし……。誰も誘ってくれないし……」
「誘ってくれない……? えっ? あんた馬鹿なの?」
「馬鹿って何?」
「あんた自分の立場考えた事ある? あんたは、公爵家の跡取り。で、エリオット殿下の婚約者の弟。良家の令嬢が、あんたを誘うなんてはしたないまねするわけないでしょ」
「えっ、でも、先輩らは、エリオット殿下や家来の人らを誘ってたやん」
「あれは、三年生の先輩だからよ。この学園だから許される上下関係」
「うっそー! なら、俺から誘わないと誰とも踊れない」
「当たり前じゃない!」
「ランカ先輩とか会長さん姉妹は!?」
「多分、全消費してんじゃない?」
「そんなー」
「接点なさ過ぎる人誘わないでよ。変な縁出来ると私も困るから」
「へい……」
出入口が騒がしくなった。
女子達が数名集まっている。
「良かった。来たんだね」
何かしら労いの言葉をかけている。
エリオット殿下がセレスタ会長と話をしている。
会長が魔具を持って指令台に上がる。
演奏が終わった。
「楽団の皆様、しばらく次の曲の演奏を止めていただけないでしょうか」
楽団の代表とやりとりして「ありがとうございます」と丁寧に応えた。
殿下達が出入口の方に行かれた。
「何があった?」
「断罪式の被害者の三年生の人と、殿下が踊るんですって。色々な噂、払拭してあげるというか、封殺する為というか」
「そうなんや。でも、もう王子様のミサンガ無いやろ」
「特例だって。殿下は優しいから」
ジェル姉は自慢げに笑った。いや、どちらかと言うと誇らしげだ。
準備が整ったようだ。
黒地にペイズリー柄のドレスを着た長い黒髪がモコモコの女性と殿下が、舞踏エリアの真ん中へんに陣取った。
演奏が始まる。
スポットライトなんてありゃせんのに、王子様達を照らす存在しない灯りが見えた。
まるで、ドラマの一シーンを観るようだ。
女子の皆さん、躍起になって王子様と踊りたいと思うよな。
三分間だけ、プリンセスに成れるんだから……。
姉御とのダンスは煌びやかだった。
今の二人は、天がふんわり包み込み天使が踊っている様だ。
語彙力ないからこんな風にしか言えないけれど。
魔法の様な三分間が終わった。
誰が拍手を始めた。それに釣られて拍手の波が現れる。
三年生の人がエリオット殿下にミサンガを渡した。
ミサンガの交換を終えると、舞踏エリアの人達は退場する。
「次、最後の曲です。三年生の方はこれが最後になります。二分ほどお時間さしあげますから、どうぞ、お相手を見つけて下さい」
もう最後か……。
面倒臭いからドリンクコーナーに行った。
キャロリンはまた一人。同じ場所にいる。
軽食コーナーは、くたびれてひっくり返ったタマゴサンドとクッキーの破片が残ってるだけ。
ドリンク類はまだある。近くの壁際で、士官学校組が、ガツガツと喰ってるからコイツらのせいか!
「レオくん、ありがとうね」
「アレックス、ありがとう」
お姉様方に囲まれて、サンドイッチ食ってたのはレオ先輩。
良かった、ピンクちゃんとの接点はなかった。きっとフラグは立ってない!
俺もだけど……。
ドリンクグラス二つ持って、あいつの所に行く。
壁の花……。
「どよ?」
俺はキャロリンにグラスを一つ差し出した。
「えっ?! あっ、ありがとうございます」
目玉丸くしてたけど、ちゃんとグラス受け取ってくれた。
「誰とも踊らんの?」
「私はアナベル様の付き人のようなものですから……」
似非白雪姫のアナベルは侯爵家の娘。キャロリンは男爵家の娘。色々あんのな。
舞踏エリアに駆け込みで人が入ってくる。今年はこれで最後のダンス。
三年生はこれが最後のチャンス。
音楽が始まった。
「誰にも誘われず?」
「ええ……」
低い声でぶっきらぼう答えるキャロリン。
「ならさ、踊った事にして、ミサンガ交換しよ!」
「えっ、だめじゃないんですか?」
「知らね! なんか言われたら『来年の予約』って事に。パトリシア嬢にも約束してるから平気」
「でも、私なんかが……」
「お前は、地属性じゃ姉上の次の実力者。姉御もお前に一目置いてる。変なんと踊ったらあかんって姉御に釘刺された」
俺は左腕のミサンガを一つ、キャロリンに差し出す。
彼女は静かに受取り、緑とオレンジのミサンガをくれた。
「これで、二つ! ありがとうな」
「……こちらこそ、ありがとうございます」
レオ君が割りと上手にお嬢さん達と踊れるのは、士官学校入学前から年上の姉達に仕込まれたから……。だと、思ってます。
あと5話です。
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