第132話「勤労学生と壁際の戦い」
どっと疲れて腹も減る。
パトリシア嬢と二人でドリンクコーナーに向かった。
「殿下達、動いてる気配ないけど、どないなってんのかな」
「執事の人達が、お運びしてるみたいです」
デリックみたいな御学友兼護衛の学生以外に、日常の事を取り仕切る召使みたいのや、別部隊の護衛みたいのが数人いてたな。
飲み物の入ったグラスを乗せた銀のお盆を持った黒髪眼鏡ちゃんとすれ違う。
「あれじゃないんや」
「リリさんは、学長のお運びさんしてるんだと思います」
やっぱり壁際に佇んでるキャロリン。
「いつもの二人はどこや?」
「今、踊ってますよ」と、ピンクちゃんが舞踏エリアを指差した。
「えっ?」
俺の知ってる白雪姫っぽい黄色いスカートのドレスの似非白雪姫と、俺が知ってるシンデレラっぽい水色のドレスの似非シンデレラが、舞踏エリアの端ので踊っていた。
相手は、上級生。体格からして士官学校組か。似非シンデレラの相手はちょっとゴツい。似非白雪姫の相手は亜麻色天パでヒョロッとした背の高いお兄ちゃんやった。
「リレー大会や太陽祭で接点があるとお誘いしやすいとか」
「そうか……。借りもの競争で接点があればそうなるか……」
よりにもよって女子を抱き抱えてゴールするなんて考えつかんわ……。
軽食コーナーは、エイミー嬢以外の黒ワンピに白エプロンの人が二人増えていた。食堂のおばちゃん達だ。
「もう八時だから、あたし誘ってもいいですよ!」
エミちゃんの言葉に、壁際でガツガツと軽食を喰っていたごつい上級生男子らがピタッと動きを止めた。
「うお――!」「じゃ、オレと!」「俺が先だ!」
殴り合わん勢いで牽制しあう。
「わかったわかった。あたしとジャンケンで勝ったらね。最初はグー」
唐突に右の拳を挙げるエイミー嬢。
釣られ挙げる拳、拳、拳。んー、何個や?
「ジャンケンぽん!」
チョキ。勝ったのは、グー。丁度、三人。
「よし、あんたら決まりね」
「うおー!」「チクショー」
よく調教されましたな、エイミー姐さん。
「第一弾誰?」
ここでも揉めてます。
「アホでござるな……」
「アグレッシブだね」
「……」
赤青黄色で正装のオタク三銃士は、壁際で軽食食ってた。いっぱい皿に食べ物乗せてムシャムシャ食ってる白デブ。
こいつら宣言通り壁ススキコースか……。
「あっ、デザート増えてる」
ピンクちゃんが目を輝かせる。
軽食台にはカナッペが消え、代わりに小さな四角いショートケーキと、小さな器に入ったゼリー、数種類のクッキー盛り合わせ。
ウキウキと白い皿にデザート類全乗せするピンクちゃん。
早々、ケーキを一口。
「美味しい。今日はプロの人来てるって聞いてたから狙ってたんです」
「パティシエか……。パトリシア嬢の成りたい職業って……」
「ええ」
ゲームの話は、二年生までだ。卒業したエリオット殿下達をお見送りするシーンで終わってたから。
ピンクちゃんは、光属性、おまけに“元素精霊の淑女”だ。次期クライン家当主のカルヴィン・クラインからしたら、伴侶として申し分ないどころかお釣りが来る。
でも、それってパティシエの夢持ってるこの人の可能性潰す事になるんとちゃうのかな……。
ちょっと複雑や。
今の目標は、ジェルトリュードが闇落ちしないで二年生終えて、無事姉弟二人仲良く卒業する。それだけ考えよう。
「ただ今戻りました」
黒髪眼鏡ちゃんが帰ってきた。
「うぉー! リリアナ嬢がいるぞ!」
「よっし! 踊ろう!」
お盆を持ってきょとんとしてるリリちゃんを、じゃんけんに負けた士官学校組の一人が素早く捕まえ、舞踏エリアに連れていってしまった。
「あっ、お盆、お盆! すみません、これ持ってて下さい!」
俺にケーキの皿押し付けて、ピンクちゃんが彼女のお盆を回収しに行った。
「いや――っ!」
リリちゃん、ご愁傷さまです。