第128話「プロム開始。その前の断罪式は」
名前が呼ばれたのは、三年生の男子数名と女子二人。
俺は胸を撫で下ろした。
「あんた、なにしてのよ?」
いつの間にか姉の手を握ってた。
「うわっ! ごめん……」
すぐに手を離す。
「なんで、あんたがびびってんのよ。ははーん。なんか悪い事したなー」
ニヤニヤする姉御。
「してねーよ!」
「仲がよろしいですね」と、ピンクちゃんが笑った。
さて、断罪された学生の話。
勤労奨学生制度の三年と二年の姉弟に嫌がらせをしていたそうだ。
男子学生らがしていた悪事は悪質で、顔を青くするおひぃさんの耳をピンクちゃんが塞ぐレベルだ。
万引きの強要もあり、マリオン商会まで巻き込んでいた。
ひでーとしか言えない。
被害にあった三年の女学生は会場にはいなかった。二年生の弟が、加害者学生らを涙声で罵倒していた。逆ギレする加害学生。自身の悪行を自慢げに被害者学生に煽る。被害者の味方である学生達が、奴らを一斉に批難する。
「静かに!」
怒気に満ちた学長の声に、会場は静まり返った。
学長から言い渡される処分。
一部の学生は卒業が取り消しになった。残りは色無しメダイユを渡される。卒業してるけど、うちの学生としては不適切ですという証だ。就職活動でメダイユは利用されるのだ。もし就活するなら不利になる。婚活も同様。
で、加害学生らはプロムの参加出来ず、カフェテリアで軟禁。警備職員に付き添われ、会場から出て行った。
「酷い事する人もいるものねー」
能天気に姉御は呟いた。
ゲームだとお前が断罪式に引きずり出されるんやぞ。それも、おひぃさんに対する自殺教唆で……。
「皆さん、断罪式はこれにて終了です。正義が貫かれたことを誇りに思います。そして、今夜は皆さんが楽しみにしていたプロムの夜です。
これからは、全ての学生が一緒に楽しむ時間です。友情を深め、新たな思い出を作りましょう。音楽とダンス、そして笑顔が溢れる素晴らしい夜にしましょう。
それでは、プロムを開始します!短い時間ですが、お楽しみください!」
楽隊の鳴らす音楽に合わせて、中央にいた学生らが壁際に集まりだす。
一部の学生は十組くらいだろうか。二人一組の男女が中央に残った。二年と三年だ。
初っ端から、誰か誘ってダンスはしにくい。そこで、二曲までは予め踊る担当が決まっているのだ。
「二曲目は、私と殿下なのー」
ジェル姉が自慢げに言った。
「俺、喉乾いたから飲み物取って来る。いる?」
「大丈夫よ」「あたしも平気です」「私もいりません」
さよかい……。
しゃーないから、西側の更衣室裏手にあたる隅にある軽食エリアに一人で行った。
音楽が本格的なダンス用の曲に変った。
優雅に踊る学生達。
男子学生の服装は、俺とあんまり変わらない。女子ほどバリエーションはない。せいぜい色が青、紺、緑、赤、黒。ゲームだと王子様でもないのに白い上下の奴がいた気がしたが、ここにはいないようだ。
がたいの良い士官学校組は、そもそも実家が騎士の家系なので、騎士正装をしてる。士官学校の赤い制服着てるのは、どうなんだろうかと。騎士っぽいけれど……。
軽食エリア。L字に置かれた二つのテーブル。カナッペや小さなサンドイッチ等の軽食と小さなグラスに入った飲み物が置いてある。
「何をご所望ですか?」
話しかけてきたのはエイミー嬢。
「えっ、なんで?」
彼女は頭に白いヘッドドレスを着け、黒色のワンピースの上に白いエプロンをしている。メイドルックだ。
「参加せんの?」
「ドレスの用意出来なくて。あたし達、勤労学生だから」
「あたし達って、リリちゃんも?」
彼女は静かに頷いた。
なんか可哀相になった。
「今年は裏方って事で。でも、誘われたらダンスに参加しても良いそうです」
彼女は左手首を見せて、ミサンガを指した。
「そうか……」
「来年は参加予定です。お金を払えばドレスとか借りられますから」
「外注?」
「卒業生がもう着ないドレスを置いていくんですよ。それが三階の衣装部屋にいっぱいあります」
太っ腹やな……。やっぱり上級貴族と金持ち平民ばっかの学校は違うわ。音大かよ……。
「甘めの薄いシャンパンくれる?」
「はいどうぞ」
小さなグラスの中で、薄い琥珀色の液体が小さな泡をプチプチ吐き出している。
腹も減ってるから、カナッペとサンドイッチを皿に乗せてもらった。
小腹満たしてる間に、一曲目が終わった。
会場に響く拍手。
音楽が止んでる間に次のダンス担当が広場にやってきた。
白い衣装のエリオット殿下と我が姉ジェルトリュード。
会場のど真ん中に進む。
王子様と将来のお妃様。
絵に描いた様なハンサムとうら若き美女に、女子学生の大半が見惚れてため息をついていた。
二曲目の前奏が始まった。
動き出す美男美女。
素晴らしい。さすが姉御。子供の頃からダンス頑張ってただけある。
キレがある動きに、息を飲む学生達。
他の組の人らが霞んでしまうようだ。
「キラキラしてる……」
エイミー嬢が呟いた。
小さい頃。寝る前や移動の馬車の中でいっぱいお姫様が出てくるおとぎ話を聞かせてやった。
「いつか王子さまと踊りたい!」
目を輝かせるジェル姉に、
「ならお前は、強く優しく、そして気高い薔薇みたいな女になれ!」
そう言い聞かせたというか、乗せてやったというか。
自分でも、よう歯の浮くような恥ずかしい事言えたなと思う。でも、自分の命がかかっていたから必死だった。
ジェルトリュードという悪役令嬢が、悪役になる事なく麗しい貴族令嬢になっただけで、みんな幸せになった。
それだけや。
あと10話で前半終了です。
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