第127話「卒業式は短めに」
卒業式当日。
講堂にて十時から一時間ちょっと行われる。
卒業生の三年生一人一人に卒業証書を授与する事はない。
前会長と成績優秀者数名が代表で、学長からメダイユが授与される。よって時間がかからないのだ。
授与されるメダイユは表が各学年色をしている。魔石を練り込んだ七宝焼だ。裏の金属部分に卒業年と名前が彫られる。その関係で一部を除いて全員の手元に届くのは半年後になる。
国王陛下からの祝辞の読み上げや、学長からの挨拶と祝辞。在校生代表としてエリオット殿下が送辞を読み上げ、前会長が答辞を読み上げる。で、メダイユの授与。日本の卒業式とあまり変わらないなと思いつつ、挨拶文が短いのはありがたい。
式典終了後。
早めの昼食。
いつも煮込み料理ばかりなのに、お祝いだからローストビーフだった。
三年生は三枚。他は二枚。
お貴族様の子女達は、「久しぶりにまともな料理だ」と喜んでいた。普段の飯も普通にまともだとは思うが……。
「フォークとナイフを使う料理って意味ですかね?」と、ヴォルフは苦笑する。
平民出身のパトリシア嬢は、「お祝い事でもこんな料理滅多に食べられません」と、眼を丸くしてた。
昼食後は、学生寮は恐ろしいくらいバタバタし始めるのだ。特に三階が……。
女子の着替え用に、学外からヘアメイクさんが十人程来ていた。
女子だけで百五十人弱在籍している。一人あたり十五人。プロム開始が六時からで、五時間弱で一人三十分……。
そもそもうちみたいに何でも出来るメイドを連れてきている学生もいるし、自分で全部済ませる学生もいる。
なんとかなるんやろう。
男の俺は、飯食ってる間にメイドのエマが一通り用意してくれていたのを着替えるだけだ。
ちょっと悩んだのは、前髪をあげるかいなか……。
俺は左の火傷の跡を隠す為に、左前髪を簾にしている。別に火傷の跡を見られてもなんとも思わないのだが、皆さんこれを見るとぎょっとするのであえて隠しているのだ。
「やっぱ隠したままのがええかなー」
鏡見ながら髪の毛を上げたり下げたりする。
ゲームでもカルヴィンは髪の毛ずっと下ろしてたし、キャラ付けだからいつものままにしておいた。
五時半。プロム会場である室内訓練場の入口が開く。
本来入口は二ヵ所以上あるが、北側の大きな入口のみ解放された。
西側の男子更衣室近くの入口は、スタッフの出入口にするので、プロム参加者は出入出来ない。
五時四十分。
会場が土で汚れるから、宿舎から出たら渡り廊下を通って講堂校舎を通り、また講堂校舎に接続する渡り廊下から室内訓練場に来るよう通達があって、渡り廊下から無茶苦茶混んでいた。
会場内は、楽隊さんらが練習がてらの軽い音楽を弾いている。
やっと中に入れたのは五時五十分を過ぎていた。
東西に長い体育館みたいな会場だが、鮮やかなテープや花飾りで飾られて煌びやかだ。
入って左隅に楽器構えた楽隊がいる。その対面側の壁際には指令台が置かれている。
「こっちよ!」姉御に呼ばれる。
入って右側、更衣室寄りの壁にパトリシア嬢とブルジェナ嬢と一緒にいた。
こっちに来てお目にかかれていないジェル姉のドレス姿。髪をアップにして薄紫の薔薇の髪飾りをつけている。胸元のネックレスがキラキラ輝いている。
ピンクちゃんは、髪の毛に合わせた薄ピンクのドレス。おひぃさんは、グリーンのドレスを来ていた。髪も綺麗に整えられて二人ともいつもより大人びた感じに見える。
「ごめん、ごめん。入るのに手間取った」
「早めに来て正解でしたね」
「真ん中で待つの嫌だから、開場直後から待ってたのよ」
絵に描いたような美しいドレス姿の女子学生達。
ゲームだとメインキャラ以外、それっぽい衣装で顔もよくわからなかった。だからか、なんか新鮮だ。
一年女子は、おとぎ話みたいないかにも舞踏会ですみたいなドレス。二年女子は、いかにもな中にシンプルなドレスの人もちらほら。三年女子は慣れてるのか、シンプルドレスや、俺が前世のテレビで観た社交ダンスのドレスみたいのをお召しになってる人もいる。
薄化粧にヒラヒラふわふわのドレスに身を包む女子達の髪や胸元を艶やかに輝かせるアクセサリー。
残念ながらネックレスや髪飾りの宝石は、全てイミテーションである。学園指定。盗まれても責任は取れませんので、イミテーションをご用意下さいとのこと……。イミテーションでも平民からしたら目玉飛び出るお値段なんだが……。
「女子はみんなかわいい! かわいないのは性格が悪い子だけ。皆がかわいいとか美人と評価してるのは、規格外」という、前世でおじいが言っていた格言で今でも活きてる俺からしたら、この学校は規格外が多すぎる。眼福である。
音楽が止んだ。
指令台に銀色に光るドレスのセレスタ会長が現れた。拡声の魔具を持っている。
「皆様、お待たせいたしました。プロム会場へようこそ……。と、開始したいのはやまやまですが、これより、我が学園の伝統である断罪式を執り行います!」
どよめく会場。
とうとうきたか……。
「皆様、静粛に。この式は、上級貴族や有力者の子女が、下級貴族や平民出身の学生に対して行った不正行為や狼藉を暴露し、学長から相応の処分を受ける場です。
この学園に在籍する我々は、全ての学生が平等に学び、成長する権利を持つことを信じています。しかし、残念ながら、その信念に反する行為が行われた事が明らかになりました。本日、この場でその行為を暴露し、正義を貫くことを誓います」
俺は息が荒くなっていた。
隣のジェル姉は何食わぬ顔をしている。
俺の知っているジェルトリュード・クラインは、何にも悪い事してない。してないはず……。
断罪式で名前なんて呼ばれる筈がない……。
会長が四つ折りの白い紙を取り出す。
「それでは、発表します」
俺は静かに目を閉じた。