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第125話「三年生の卒業模擬戦」

すみません。今回4800文字超えてます。

二回に分ければ良かった。

体調崩して頭ヘロヘロの時に無理して書いたから、想定してた内容と違っちゃったし。

別のサイトにupする際は、書き直す予定です。


 三月上旬。来週は卒業式でプロムだと学生達が浮足立つ。

 “泥の傀儡”を得意とする地属性者と“水錬成”を得意とする水属性者の一年が呼び出された。

 学園の外の地面から土を大量に魔法練習場に運び込む必要があるからだ。

 水属性者が“水錬成”で地面に水を撒く。土が柔らかくなる。柔らかくなった土に“泥の傀儡”をかけて大量の土人形を作る。子の時、土人形内に極力直径三センチ以上の石を含ませないという条件が付く。

 だから“泥の傀儡”の上位魔法“石の傀儡”で石だけを取り除いた。

 我ら姉弟、夏休み冬休みの成果よ!

 大穴を開けられないので、広く浅く土を集める。集めた土山から石を除く。土山を人型にして学園内に運ぶ。

 土人形作るより、土人形と一緒に魔法練習場まで行くのが大変だ。

「どうせ、練習場の補修に使うのだから」と、人型ではなく、直径二メートル、幅二メートル強の巨大ロールケーキみたいな土の塊を四個作った。かなりカチカチで重い。ゴロゴロ転がるだけまし。

 変則的“泥の傀儡”で、ジェル姉と一緒に四個いっぺんに転がして魔法練習場へ。

 他学年の学生からは「なんじゃありゃ?」みたいに見られてた。

「それでも足らないのよ」

「「えっ!?」」

 先生からダメ出し食らう。

「練習場の補修と、三年生の最終演習で巨大な“泥の傀儡”に必要だから。みんなでいっぱい人型持ってきて。土が足らないなら、北側の門も開けるから」

 三階建ての民家くらいの砂山が必要と聞いて、姉御と顔を見合わせた。

 戻って皆に説明。皆さん、絶望。

 “泥の傀儡”で土人形を作るのは大変ではない。作った土人形と一緒に移動するのが一番大変だから。

 ここ一年近く、走ったり跳んだりして体力はついてきてる。自主練含めてもなかなかのもんだと自負する。

 しかし、魔法使って体力使ってはしんどいんや!

 泥の傀儡のバケツリレーみたいなことして土の人形を学園内に運びこんだ。

 俺らが土の集めてる間に、先生は土のロールケーキをコロコロ広げて、練習場の補修をしていた。

 俺が運んできた二体目の土人形を跳んだり跳ねたりドスドス走り回らせて、練習場の地面を踏みしめさせる。

 小さい土人形ならいざ知らず、二メートル越えるずんぐりした土人形を高くジャンプさせる様に、「年の功ですね」と呟いたら、先生から軽くごっちんされた。

 土人形に稲妻キックさせたら楽しいだろうなと思ったのはナイショ。

 練習場に運び込まれた土人形は、補修され踏み固められた北東の隅に重なるようにして集められる。

 "泥の傀儡"を解除したら土人形はただの土の塊だ。

 姉御が二メートル半ある土人形を作り、それ十人くらいでリレー形式で渡していく。同学年の地属性者で魔力値蛾高い奴ほど移動距離も長くなる。いっぱい移動したのが、俺と似非三姫のキャロリンだった。

 練習場の真ん中に積まれていく土人形。

 気がついたら十メートルを越えた山になっていた。

「終わったらまた俺らでお片付け?」

「二年がやるよ」

 ですよねー。でなかったら絶望するがな……。

 そして、三年生最後の実践演習の日。

 紅白戦と違い見学が許可された。

 魔法練習場は風の結界が張られる。

 土や魔法攻撃が外に漏れない為だ。

 結界の中の三年生。戦闘服に身を包み、剣を携えている。

 剣士系の人達以外使う事はないらしいが。

 見学者は園路まで下がって見ることに。

 先生が、二種類の大きさの魔具を三年生に見せる。

 一つは握り拳より大きさ白と黒のラグビーボールのような形。もう一つはピンポ玉のような白いやつ。

「これを制限時間内に見つけ出して壊せば終了です」

 大きいのを壊せばよいらしい。

 袋から小さいのを四つ取り出し、見本のそれと合わせ土山に埋める。そらから大きいラグビーボールも埋めた。

 埋め終わると先生は練習場から退去。

「十九八七六五四三ニ一……スタート!」

 土山が動き出す。

 形状が変わる。

「去年は人型だったよな」「今年は象か?」

 俺の近くにいた二年生が話していた。

 砂山は人型ではなく、ずんぐりとした腹の巨大な生物に変貌する。

 長い尾。二足。短い腕。ワニの様な長い口先。

「ドラゴンだ!」「今年はドラゴンか!」

 巨大な竜。残念ながら羽はない。

 ブーン

 土の竜は早速長い尻尾で学生達を薙ぎ払う。

 一部の学生はうまいこと避けたが、何人かは吹っ飛ばされた。

「踏まれると怪我するぞ!」

「負傷者を退避させろ!」

「とりあえず、尻尾を切り離せなせ!」

 囮になった学生が土の竜を引き付けている間に、騎士組数名が竜の後ろに回り込む。

 ざしゅ

 尻尾が切り落とされた。地面に落下すると同時に土塊に戻る。

 竜の動きが止まる。そして顎を上げた。喉が変に膨らむ。首を前に曲げると同時に何かを吐き出した。

 がっ がっ がっ がっ

 土玉が四つ。一つ五十センチだろうか。土玉は、地面の土を吸い上げて大きくなる。

 むくむく膨れ上がり、ずんぐりむっくりした人型となる。

「オークだ!」

 土の棍棒を振り上げて、囮学生に襲い掛かる。

「魔具をほじくり出せ!」

 剣士に切り落とされた土のオークの首は、後方から“風の刃”で破壊されるが、魔具はなし。

 “炎の矢”で土手っ腹に空いた穴。畳みかける様に“風破弾”がぶち込まれ爆散した。

 飛び散る土の中に白地に黒い模様の玉が光った。

「出た!」「おりゃー!」

 一人の剣士が剣を振るう。

 真っ二つの玉。

 ポロンと地面に落ちた。

「よっしゃ!」

 学生達が歓喜する。

 土のオークに気を取られてる間に、土の竜は地面から土を補給し再生していた。

「まず、小さいのから潰せ!」

 ふと斜め右手を見ると、少し離れた人混みの中、うちの姉御と王子様が楽しげに話している。おまけに、腕絡ませてて手も繋いでいるようだった。

 仲が良いのはええことや。

 しかしなんだ。

 この竜みたいのどこかで……って、ラストバトルは黒い竜になったジェルトリュードとの対決だ。

 それに似ている。

 が、なんであの女、黒い竜になんの?

 闇の紋章持ちが操る精霊獣は黒い蝶なのに……。

 謎や……。

 俺が目を離した間にも、二つ目の小さい魔具が潰された。

 ガブッ ガブッ

 二体のオークが竜に飲み込まれた。

「今、竜の右胸に魔具があるでござる」

 俺の左手前の方から聞こえた声。

 鼻眼鏡の声だ。

 奴はトレードマークの眼鏡を頭に置いていた。

 一緒にいるのは、いつものチビ眼鏡と白デブ。

「あれ作るの、いくらかかるの?」

「小さいのならいざしらず、うちの工房ではお断りするレベルでござるよ」

「魔石の結晶でも結構するのに、アカデミーはクズ石から純粋結晶に近いの作っちゃうから。仮に兵器として一体とか、目玉飛び出る価格になるぜ」

「さすが宝石商。で、そんなの平気で壊していいって、学園もアカデミーもイかれてるよね」

「一番イカれてるのはジルバーナ家で、あっ、今、魔具は左斜に移動したでござる」

「三年生で眩しい人いる?」

「おらんでござるな。魔力値の高い婦女子はおられるが、想定内でござる」

「やっぱり、あの三人は、あっ、ドラゴンがまたなんか吐いた」

 ぐえ、ぐえと土の玉を吐く巨竜。

 今度はオークではなく小型のゴブリンに変形した。

 小さい分、素早い。

 剣士の太刀筋を避け、飛びかかる。

 小鬼の土手っ腹に“氷の矢”がぶち込まれ氷漬けになる。

 動けなくなり凍った土塊目掛けて、剣が振り下ろされた。

 パシっ

 魔具もろとも真っ二つ。

「凍らせろ!」

 “泥の傀儡”を効率よく動かすには土や砂にある程度の水分が必要になる。カラカラの状態だと“石の傀儡”の次くらいに難しい。

 昨日、園外から土を持ってくる時に沢山水を撒いて“泥の傀儡”を使った。なので土人形は凍らせれる程度に水分を含んでいるはずだ。

 土のゴブリン討伐してる間に、遠距離から魔法攻撃で土の竜の頭部を吹き飛ばす。

 しかし、再生が速い。

 この時点で二十分は過ぎていた。

 三十分以内に魔具を潰せれば優秀。三十分以上一時間以内なら合格。一時間越えれば残念でした。

 大体、一時間以内には撃破しているそうだ。ただ三十分以内は未だにないらしい。

 魔具屋の鼻眼鏡は、魔具の位置が判るようだから、俺らの時には三十分以内撃破も出来るかもしれない。

「昨日大変だったんだぜ、土運ぶの。何往復させられたか」

「いつもより早く終わったって先生達感心してたよ」

「最初に土の塊を牧場の干し草みたいに転がしていったからだよ。その後、人型で運んでくれって。ジェルトリュード様達が土人形作って、リレー方式で引き渡していくんだけどさ、俺変に魔力値高いから、三番目に長い距離担当させられて」

「大変でござったな」

「墓場の時よりデカいし重い人形を何体も連れて行くの滅茶苦茶疲れるし」

「鍛練の一環じゃない?」

「あのデカ物余裕で運べたキャロリン様とカルヴィン様異常だよ」

 いや余裕で運んでたわけではないぞ。キャロリンも俺も大変だったんだが……。

「爽やかな汗流して、にこやかに何体も土人形作ってたジェルトリュード様もおかしいよ! おまけに、石をより分けるのに"石の傀儡"使ってたし!」

 語弊があるとしたら、ジェル姉は一人で土人形を生成していたわけではない。

 小さい土人形しか作れない同級生数人に土人形を作ってもらい、それらを自身の土人形と合体させ、石をより分け、大きく固い土人形を作っていたのである。

 あいつはあいつでしんどかったと思うし、爽やかな汗と笑顔は一仕事終えた解放感からだ。

 園外で各自"泥の傀儡"でサイズの異なる土人形を造り、園内の魔法練習場を複数回往復するよりもずっと楽だし時短になったし、なにより魔法の鍛練にもなってた……はず。

「クライン姉弟が異常なんだよ! 何をやったらあんなに」

 鼻眼鏡が白デブの腕をつつく。親指で斜め後ろを指した。

「えっ?」と、俺の方を見た白デブ。

 しまった!と目を丸くして、慌てて軽く会釈した。

 こっちも気不味くて、苦笑しながら会釈した。

 さて先輩達のドラゴン戦は佳境を迎えていた。

 土の竜の尻尾を切り落とす。直ぐ様凍結させる。竜の足元も凍らせる。土の竜は尻尾を再生させる度、身体が小さくなっていく。

 頑張っている先輩らがいる中、非戦闘用魔法属性で応援してる人らと、「頑張っちゃってるねー」と、すかして戦闘に加わらない人で分かれていた。すかしてる中に、俺らに絡んできた厄介な人らが居たのは言うまでもなく。

「そろそろ、胴体いって!」

 ランカ先輩の"炎の矢"が土の竜のどてっ腹に大穴を空けた。

「見えた!」

 右の隅に魔具の姿が僅かに現れた。

 穴は収縮し始める。

「「"炎の矢"」」「「"風破弾"」」

 複数の攻撃魔法が打ち込まれた!

 魔法の破裂した勢いで、竜の魔具が外に飛び出した。

「うおりゃーっ!」

 青いゴリラが剣を持って、空を舞う魔具に向かって突進していく。

「どりゃー!」

 奴は飛び上がる。そして土属性の魔法剣で攻撃力を強化した一撃が陶器の魔具を真っ二つにした。

 とどめとばかりにもう一太刀。斜めにかち割られる。

 ぼとぼと落ちる陶器の破片。

「ブルーノ先輩すげーや」

 独り言ちる俺。

 未だに俺は魔法剣が上手くいかない。

 核である魔具を失った土の竜は、自重に耐えきれず瓦解した。

「終了!」

「やったー!」

 歓声があがった。

 拍手の大波。

 これで授業としての大きなイベントは終了だ。

 後は卒業式の後のプロム……。

 王子様と楽しげにしている姉の姿を俺は見つめた。

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