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第123話「緑の告白。青の答え。そして……黒」後篇

「僕も、君と一緒にいられた時すごく楽しかったし、すごく幸せだった。でも、僕は君と一緒にいても良いのかなってずっと思ってた」

 ちょっい待て! 何を今更そんな事を!

「僕の家は『風の名家』と言われてるけど、僕自身はちっとも名家に相応しい実力なんてないんだよ。辛うじてこの学園に在籍出来る程度の能力はあるみたいだけど。この学園の人達は属性問わず、僕なんかより凄い人達ばかりで。実際、墓場の時も試験の時も、君に助けてもらわなかったらどうなっていたか……」

 ゲームのあいつはまだしも、俺の友人のヴォルフはちゃんと実力はあるはず。卑下するような能力ではない。

「だから君が“元素精霊の淑女”に成った時、僕なんかがかかわっちゃいけない気がした。妹の水属性の事もあったから。僕なんかと一緒にいるよりも、僕より能力が上だったり、爵位が上の人や家柄の良い人なら、君は幸せになれるのかなって……」

「そんな事ないですよ……。色んな人にデートやお付き合い申し込まれて。全然好きじゃないから、しんどかったですよ……」

「でも、やっぱり辛かったな。誰かに君をとられてしまうって考えたら……」

 泣き出しそうな声でそういうとヴォルフは、ブルジェナ嬢に歩み寄る。

 彼女の両手を取った。

「僕の事、好きでいてくれてありがとう、サラ。将来の約束は出来ない……。卒業するまでの間、僕も君の友達のまま好きでいさせてくれないか?」

「……はい」

 涙目だったブルジェナ嬢。苦悶の表情から一変明るくなった様に見えた。が、「うわーん」と泣き出す。そして、ヴォルフの胸にすがりついた。

 ヴォルフは黙っておひぃさんを抱きしめて、彼女の頭をよしよし撫でていた。

 よっしゃと俺はガッツポーズ。

 これで“ヴォルフルート”は封殺や!

 見守り隊の女子二人が「やった! やった!」と、小さくはしゃぐ。

 左手隣の姐さんもだ。相方の黒髪眼鏡ちゃんは冷静そうだっけど。

「殿下、先に準備しておきますから」

「うん、よろしく」

 王子様のポチが動いた。身を屈め、植え込みからはみ出さない様に、庭園の南側から厩舎の方に行ってしまった。

「俺、先行くわ。後の事よろしく」

「わかりました。で、私達はどうすれば?」

「見守るもよし。拍手でおめでとうしながら冷やかすもよし」

 ピンクちゃんがサムズアップ。俺も親指をぐっと上げる。

 俺は植え込みに隠れるようにして、屈んで庭園の南口から出た。

 庭園の西北寄りに厩舎がある。

 デリックの姿が既に小さい。走ってるわけでもないのに、奴の足は速い。足の長さの差か? 違う! フィジカル化け物め。

 俺は極力気配を消しながら、デリックとの距離を詰める。

 ポチが振り向いた。

 バレたか!? でも、そんなの関係ねーっ!

「カルヴィン様、何か?」

 俺は無言でデリックに詰め寄る。

 俺の気迫にたじろいで、そのまま後退るポチ。

 ずんずん進んで、厩舎南側の壁際に追い詰める。

 バーン

 俺は壁に右手をついた。

 女子にもした事ない壁ドン!

 可愛い娘ならいざ知らず、なんで初壁ドンが俺より図体のデカいイケメンなんだよ! チクショー。

「お前、逃げたよな?」

「……逃げた? 何の話ですか?」

 いつものように表情無く答える。

「あそこの皆、あの二人を微笑ましく見てた。でもお前は違う!」

 俺は上目遣いにデリックを見つめる。

「ブルジェナ嬢の事どう思ってる? お前あの子の事、『恩人』って言ってたよな。で、恩人だったら恩人の幸せを何故喜べない?」

「……」

 無言で俺に視線を落とすデリック。

「答えないなら俺が言ってやるよ! お前にとってブルジェナ嬢は、お前が仕える王子様よりも守りたい存在だから。それって、お前の初恋の子やったんやろ、あの娘が!」

 微動だにしない。

 俺は無自覚に左手で左前髪を上げていた。

 十秒もしないうちに、奴が俺から視線を外した。

「認めたか……。残念やったな……」

「そんな事を確認する為に、わざわざここまでこられたんですか?」

「んにゃ、ちゃうで。寧ろお前にええ事教えてやる」

「ブルジェナ嬢の秘密は壁越しで聞いてたから知ってるやろ? あの二人は一緒になれない。あいつらもそれを承知の上でのさっきのあれよ」

 いい加減、壁ドンの腕を下ろした。腕痛い。

「だから、この学園にいる間だけ、友達だけど両想いでいる事を選んだ。卒業したら、ヴォルフは実家に戻るだろう。おひぃさんはもしかしたら研究の為にアカデミーに行くかもしれないが……」

「つまり」俺はポチの鼻先をぴしっと伸ばした人差し指で指す。「卒業したら、あいつらフリーよ、フリー!」

 俺はにたり。

「お前さえ身綺麗でいれば……、ワンチャンあるんちゃうの?」

 それでもポチは無表情で黙りこくっている。

「ヴォルフは俺の古い友人よ。友人の幸せを願うのは当然やろ。で、ブルジェナ嬢は、俺の愛する姉上の親友や。そして俺の友人でもある。残念ながら古い友人の幸せな願いは叶わない。ならあの娘の幸せを考えたら……。俺が信頼出来る奴に託すのが一番だよね?」

 俺はふふんと笑うと、「じゃーな」と手を振って踵を返した。

 おや? 知らん間に箒持った黒髪眼鏡ちゃんが後ろの方にいてた。

「よっ!」と、挨拶したら、彼女は気まずそうに会釈した。

 俺はそのまま内園の西門に向かう。

 “デリックルート”も封印出来た……だろう。

 これで、攻略対象者は、俺を含めて三人になる。

 接触率考えたら、滅多に来ない行商や、接点が少ないレオ先輩より断然俺が有利なはず!

 後は、ジェルトリュードが闇落ちせんようにするだけ!

 俺の生存確率上がった! 多分……。

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