第122話「緑の告白。青の答え。そして……」前編
二月十四日。午後三時五分……。
広場には、懐中時計を気にするヴォルフ一人。
そんな友人を見守る為、俺らは外園の庭園南側の植え込みに隠れていた。
俺とパトリシア嬢。そして、ジェル姉にエリオット殿下とデリック。東側に家来がもう一人が隠れる様に控えている。三人は戦闘服着用。
それからそれから、俺の左手の少し距離の離れた植え込みには、薄いカーキー色の作業服着たエイミー嬢と黒髪眼鏡ちゃんがいつの間にか隠れていた。
彼女らは俺と目が合うと、「どーも、お邪魔します」な感じで苦笑い。
左手の女子二人についてはよくわからんが、姉御と王子さま達がここにいるのちょっとした理由がある。
昨夜の事。夕食後のカフェテリア。
「洒落にならんよ、全く!」
「大変だったのね」
俺と姉御で夜のミーティング。
二人で我領地産のローズヒップティーを飲んでいた。本当は酸っぱいから好きじゃないけど、ニキビが気になるお年頃なので……。
「見守り隊はパトリシア嬢と二人のつもりだったけど、心許ない。レオ先輩は士官学校組と鍛錬で無理らしいし」
「私が行っても、恐い人がねー」
「姉弟仲良しだね」
声をかけてきたのはエリオット殿下。お供二人連れている。
いつものように控えの家来と、付き人扱いのデリック。
ポチは主の為に席を用意し、カウンターにお茶のオーダーをする。
反時計回りに姉の隣に殿下、そしてデリックが座る。
「何か困った事でもあるの?」
「実は、友達が仲直りしたいんですけど……」
斯々然々、姉と俺はもっさり説明した。
「それなら、僕とジェルがデートで使うからって事にして、その時間だけ人払いすればいい」
「ほんまにええんですか?」
「いいよ。いつもの事だから、ねっ」「ねっ」
恥ずかしげもなく、二人でラブラブオーラ出してなさる。
リア充爆発しろ。そうじゃない! この二人が仲良しの方がクライン家は安泰だから、むしろこのままラブラブ昇天波しといてくれ。
というか、特権使ってお前らイチャイチャしてたんかい!
「明日の三時は乗馬訓練の予約が入っておりますが」
「ちょっと遅らせてもらおう。馬は逃げないし」
「かしこまりました」
「で、デリック。明日も僕のお守りだよね?」
「はい」
「お前も見守り隊参加ね」
「仰せの通りに」
俺は心の中で指パッチンした。
俺らは友人同士の仲直りと言ったが、紋章持ちの事はおろか具体的な名前は挙げてなかったのである。
庭園の北側から、ブルジェナ嬢がやって来た。
「こんにちは、ヴォルフ様」
「こんにちは、ブルジェナ嬢。久しぶりだね……」
おひぃさんがヴォルフに近付いた。でも、距離は一メートルくらいは離れてる。
俯き加減で二人沈黙してる。
じれったいなあと、みんな思ってたはずだ。うん、たぶん一人を除いて……。
「「あ、あのー」」
二人が同時に口を開いた。
お互いが「どうぞ」「どうぞ」と譲りあう。
三回くらいそんなやり取りをした後。「なら、あたしから」と、ブルジェナ嬢が言った。
「……。ずっとヴォルフ様とお話したかったんです……。でも、どう話しかけて良いのかわからなくて……」
庭園の空気が張り詰める。
「このままだったら卒業まで、ううん、もう一生ヴォルフ様とお話出来ないかもって……。あたしは平民です。だからヴォルフ様とお友達でいること事態、おこがましいってわかってます。でも……」
ブルジェナ嬢は俯いて拳を握りしめる。
「あたしは貴方の事が好きです! お付き合いしたいとか、貴方にあたしの事好きになって欲しいとか、そういう厚かましい事じゃありません。貴方の笑顔が見れた日は一番うれしかった。貴方と楽しくお話出来た時、とても幸せだった。いつかお別れする時が来るのもわかっています。だから……、せめて……、この学園にいる間は、貴方の事好きなまま貴方のお友達でいさせて下さい! もしそれが叶わないというなら、あたしはもう二度と貴方に近づきませんから……」
隣のパトリシア嬢が息を飲む。
ブルジェナ嬢は涙目になっていた。
静まり返る庭園。
皆、固唾を呑んでヴォルフの回答を待っていた。