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第121話「庭園には似つかわしくない輩達」

 二月十三日。

 二十日の紅白戦の為に、熊ゴリラ先輩らの指導は一週間程中止になった。

 で、ヴォルフと外園の庭園を下見していた。

 ベンチに、黒い外套を着た青いスカーフ留めの女学生二人。楽しそうにおしゃべりをしている。

「すみません。こちらに毎日いらっしゃいます?」

「毎日ではないけど」

「明日、三時から三十分程使いたいので、ご協力よろしくお願いします。用事が済めばすぐ撤退しますので」

 女学生二人顔を見合わせてニコっと笑うと「わかったわ! カルヴィン様、頑張ってね」と、去っていった。

 俺じゃないんすが……。

 まぁいい。

「すみません。カルヴィン様」

「気にすんな!」と、俺は親指を立てる。「でも、お高くつくから覚えておいてや、フフフフフっ」

「えー。怖いなー」

「どっち先に待ってた方がいい?」

「男の僕が先に待っている方が」

「伝説の木の下に女が待っているのがセオリーなんだが……」

「木……。低木しかありませんから、木の下では待てませんよ」

「広場の真ん中辺に立っとけ」

「わかりました」

 取り敢えず目処が立ったので、自主練に行ったヴォルフを見送る。

 五分くらいして、西側からパトリシア嬢がブルジェナ嬢の手を引いてやって来た。

「お待たせしました」

「おつ! ヴォルフに会わなかった?」

「会わないように北門からぐるっと回ってきたんです。丁度開いていたので」

 ならあいつに会う可能性は低いか。ピンクちゃん偉い!

「明日の事なんだけど、ヴォルフが三時前に来るから、ブルジェナ嬢は三時五分くらいにここに来ればいい」

「わかりした」

「一応、邪魔が入らないように、影からこっそり見守ってるから」

「ありがとうございます」

「良かったね。これでヴォルフ様と仲直り出来るよ」

「うん」

「それじゃ、撤退するか」

 北側の入口が騒がしい。庭園に誰かがやってくる。一人じゃない複数人だ。

「お熱いカップルかと思ったら違ったか」

 低い声。男子学生、この声聞き覚えがある。

 俺はバレないように小さく舌打ちした。

 男達の雰囲気に女子二人は寄り添う。

「何、何?」

「紋章持ちのお姫さまがいるゼ」

「うわー、こんな近くでお目にかかるの初めてだ!」

 黄色のスカーフ留め。三年の柄の悪い男子学生達だ。五人いる……。皆、俺より背が高い。一番低いのでも百七十五前後あるし、高い奴は百八十は超えている。

 エリオット殿下と婚約者のジェル姉がいる為、品行方正な学生が多めの二年と一年と違い、三年の学生は千差万別。

 真面目、普通、武闘派、ごろつき寄りと、学生のグループはバラエティに富んでいる。

 そしてこいつら、ごろつき寄りだ。おまけに、接近禁止令が出される前、おひぃさんには教えられないえげつない事を言って笑ってたクズ共だ。

「利用されますか? なら俺らは終わりましたので失敬」

 二人を促して庭園南側から撤退しようとした。

「待てよ!」

 敵にまわりこまれてしまった。

「こいつら、あれだ。四人で駆け落ちした」

「ああ、こいつらか」と、手を叩く。

「で、あの日はどんな感じだった?」下卑た 顔をこちらにむけてニタニタ笑ってやがる。

 怯えてる二人を早く逃さないと。

「何も。二部屋借りて男女分かれてました。処分の通りです。疾しい事なんて全くありません」

「男女一緒に外に出るって事は、そういう事なんだよ。この学園の女は滅多に孕まないからな。男にとっては好都合なんだ」

「兎に角、俺らは姉上のお使いに出て、帰還を失敗しただけです。それ以上話す事などありません」

「嘘付くな!」

「あの日、夕方から一年と二年は上を下へのちょっとした騒ぎだったぞ。王子さまは家来が一人いないと言うし、お妃さまは弟がいないと言う。買い物じゃねーよな」

 そんな事になってたんか……。

 困った。俺一人だったら、外園の退出時間までじっくり迎え撃ってやるとこなんだが……。

 あいつらがドン引きするような下ネタなんぞ、こちとら前世で仕込んでだぞ、ダボがっ!

 物理的にしかけられたら、何人かを“泥の檻”からの“泥の傀儡”仕掛けて厩舎そばの馬糞置き場に突っ込ませる準備は出来てる。女子二人いれば正当防衛はいけるやろ。

「あの日寒かったからねー。どんな熱い夜を過ごしたのか知りたくて知りたくて」

 卑猥なジェスチャーでゲタゲタ笑う上級生達。

 おひぃさんは顔を赤くし唇噛み締めてぶるぶる震えてる。

 パトリシア嬢は眉間にしわ寄せて、クズ共を睨んでいた。

「皆さん、何を騒がれているのですかな?」

 庭園東側から男の声がする。

「職員かよ」

「不埒な後輩達に教育的指導をしてるだけ……」

 先輩らの様子がおかしい。なんで黙ってる?

 声の主が現れた東側に目をやる。

 薄いカーキー色の作業服のボタンを少し開けた大男。

 右手に鍬を肩にかけ立っていた。

「レオ先輩……」ピンクちゃんが呟いた。

 二年のアレクシス・レオポルド。ピンクちゃんの攻略対象者だ。

 のしのしと俺達のいる広場までやってくる。

「私には後輩達をからかっているようにしか見えませんが?」

 一番背の高い三年の男子生徒より背の高い二年の男子生徒が真顔で訊ねる。あの人、百九十を少し超えている。

「いや、だってこいつら」

「我が同輩と恩人の後輩達は、巷の噂話にあるような不謹慎な事はしないと私は信じております。それともなんですか? 先輩方は、学長殿のご判断を疑っておられるのですかな?」

 口調はともかく、低い声は身体の芯まで響いてくる。物凄い威圧感。

 ガシッ

 レオ先輩が、肩にかけていた鍬を地面に軽く叩きつける。

 仁王様じゃ! 仁王様がおられる!

「じょ、ジョークだよ、ジョーク。ほら行こうぜ」

 リーダー格の三年の言葉で、子分共は庭園北側から去っていった。

 肩の荷が下りたというかなんと言うか。

「行ってしまいましたな」

「ありが」「とうごさいましまー!」

 ピンクちゃんの前に出て、彼女の言葉を打ち消すように大きな声で俺は礼を言った。

「レオ先輩がいらして助かりました。でなかったら、あいつら門限まで俺らに嫌事言い続ける気でしたよ。で、何故作業服着てはるんですか?」

「今日は先輩と同輩の女学生に頼まれて畑を耕していたのです」

「何かを植えられるのですか?」と、パトリシア嬢。

「深く土を耕した後、たっぷり水を染み込ませ、畑をカチカチに凍らすそうです」

「うーん? 害虫退治か!」

「その通り」

 ネキリムシ等の作物に害を与える虫が地中深く潜んでいる可能性がある。だから畑を水浸しにして冬の寒い時に土を凍らせ、害虫もろとも氷漬けにして処分する方法がある。前世でおとんとお姉らが家の花壇でやってたな。

「こちら来られたのは、庭園の害虫退治の為ですか?」と、ピンクちゃん。

「いえ。『同級生が三年生に絡まれているから助けてほしい』と、あっ、しまった! 内緒にしてくれと言われたんだ」

 レオ先輩はバツが悪そうに頭をかく。

「そうですか。その同級生にもお礼を言わなきゃですね」と、ちょっと微笑んでブルジェナ嬢が涙を拭った。

「今夜は寒くなるそうです。陽はまだ暖かいが空気は冷たい。女子は身体を冷やしてはいけない。身体に障ります。では、これにて失礼」

 レオ先輩は鍬を担いで畑の方へ戻っていった。

「助けて下さってありがとうございました」

 ブルジェナ嬢は頼れる先輩の背中に頭を下げた。

前回で20万文字超えました。

もうすぐ前半戦終わっちゃうと考えると……。

後半戦、ちっとも進まない。

2025年度中に掲載出来るのだろうか……。

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