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第118話「馬鹿とゴリラは使いよう」

 ヴォルフとの話し合いの後。

 うちのメイドのエマが、とあるブツを俺の部屋に届けてくれた。

 俺用とそれ以外でちゃんと別れていた。それ以外は紺の風呂敷包みの中。

 夕食時の食堂にて。

 件の人にアポを取る。

 遊戯室のナインピンの予約が取れず暇してたから構わないと言われた。

 ヴォルフとも話をつけて、食後しばらくしてから件の熊先輩らに会いに行く。

 大した事でもないが、エマに荷物持ちさせて、俺らは三年のブルーノ先輩の部屋を尋ねた。

 部屋は一人部屋。俺の部屋より少し狭いかもしれない。

 図体に似つかわしくない椅子にどっかり腰を降ろす熊ゴリラ、もといブルーノ先輩。

 先輩の後ろ、壁際にもたれてる先輩と、ベッドの上に足を組んで座ってる先輩。どっちも腕組みしている。

 俺とヴォルフ、お供のエマは立っていた。

「クライン卿、詳しい事を話してもらおうか」

「折入ってお話というのは、単刀直入に言います。俺らに修行つけて下さい」

「ほう、吾輩らに頼まれますか?」

「ええ。先輩らとてもお強いので!」

 俺はにっこり笑って言った。

「オレらより強いのが二年にいるっしょ?」と、壁にもたれてる先輩。

「ゴラっ!」と威嚇し、ゴホンと咳払いするブルーノ先輩。

「確かに、吾輩らより今年の二年生には兵共がいますが、彼らを頼らないのは?」

「あの人らはまだ二年です。なので学業としての鍛錬が終わってません。それに、ツワモノ共をエリオット殿下の家来の方と設定するなら、あの方々は護衛と個人の鍛錬でそんな余裕はないです。すると、強い上に余裕がある三年の先輩らにお願いするのがベストと考えました」

「うーん。我らも忙しい身故……」

 勿体振ってやがる……。ナインピンする程度にゃ暇やろ。

「そうですか……。勿論ただとは言いません」

「学生間の金銭のやり取りは禁止されて」と、終わらぬ内に、鉄面皮のエマがすっと前に出ると、先輩の前の小さな丸いテーブルに例の風呂敷包みを置く。手早く解くと、青いクッキー缶が三つ。

「菓子かな?  吾輩共は、婦女子のような甘味は」

 エマが一番上の箱をテーブルに置いて開けた。

「これは!」

 ふわりと漂う塩気と動物性タンパク質の香り。

「牛の干し肉です。脂身少ない赤身肉の部位だけで作らせた上等の物になります」

 パラフィン紙に二重に包まれた赤茶色の細長い棒がぎっちり詰まっている。

「この学園の食事は悪くありませんが、植物性タンパク質が主で動物性タンパク質が少なめです。先輩らの立派な筋肉を維持するのに、少なからず役立つかと……」

 三人のゴリラ共が目を輝かせる。

 隣のヴォルフは呆れていたが。

 二年以上になると、たまに外出出来るのだ。外出すると、女子は服や雑貨買ったり、スイーツ食ったり、お芝居を観に行くらしい。野郎学生は、肉を喰いに出る奴が多いそうだ。どんだけ動物性タンパク質に飢えてるんだか。

「三箱用意しましたので、後ろの先輩方もどうぞ」

「「よし! 承りましょう」」

「勝手に決めるな!」

 ちっと舌打ちして、箱の中の干肉一本噛る。

「それで、どの様にして差し上げればよろしいかな?」と、にっと睨み付ける様に笑った。

 エマは後の男子学生に一つずつ箱を渡して、俺らの後ろに戻った。

「俺らは士官学校組ではないので、それほど身体は強くないです。無理のない体力と体幹強化」

「それだけですかな?」

「あと、体術、剣術、それに……魔法剣の使い方について!」

「魔法剣って!」と、ヴォルフが驚く。

「魔法剣は、三年で習うとは言え魔法持ちの騎士達にとって専売特許の様なもの。それを貴族階級の貴殿らが会得したいと?」

「はい! 魔法だけなら、俺は全学年でも一割近い位置にいると自負してます。こいつもそれなりに優秀ですよ」

 俺はヴォルフを親指で指す。

「なら、それ以上の技など不要では?」

「地属性魔法は、屋外それも野外ならそれなりに強いかもしれない。でも、石畳の市街地では使えない。厳密に言えば、石畳やら石造りの建造物を材料に"石の傀儡"やらかしたら犯罪なんで」

「地魔法の封印が施してあるとは言え、有事以外で無理をすれば損害賠償請求やら色々ありますな」

「でも、ブルーノ先輩は地属性で、建物の中でも魔法剣使えるんすよね?」

 これはランカ先輩情報だ。

 干肉引きちぎって、ゴリラ先輩が「うーむ」と唸る。

「俺は、エリオット殿下の婚約者の弟です。どんなに地属性魔法が使えても、屋内で役立たずなら姉上を守れません。そういう事です」

「僕もお願いします。少しでも強くなりたいんです」

 ヴォルフが頭を下げた。

「学園の学習プログラムだけで十分と何もされない子息ばかりの中、なかなか殊勝な心掛けではないですか! 是非、協力させて頂きたい」

 そういうわけで、ゴリラ達が師匠になった。

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