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第117話「俺の仮説」

 学園戻ってからしばらく、俺らは好奇の目に晒されまくりだった。

 飯時なんか特に。

 件の女子らと謹慎期間中は、飯は一緒に取らなかった。授業等も話かけなかった。

 顔見知りの同輩や先輩に色々聞かれたが、適当に誤魔化しまくった。

 主に聞いてくる連中は、「瘴気の森への肝試し」派と、「四人で駆け落ち」派と、「四人で駆け落ちはおかしいからお買い物」派に分かれていた。俺らいない間どんな事になってたんだか。

 そして、謹慎期間は終わる。

 土曜日の午後。俺は古い友人を自室に呼び出した。

 向かいに座るヴォルフは、俯き加減に俺を睨めつけている。

「また拗ねとるんかいな?」

「拗ねるって、子供じゃあるまいし……」と、顔を背けて不貞腐れる。

「俺はな、友人の為に輝かしく終わるはずの成績にキズを付けてまで、あいつらのお出掛けを阻止したんだよ」

「……。あの二人って、やっぱり」

 ヴォルフの目が泳ぐ。

「好奇の目に晒されて色々な噂を聞いたがな。『紋章持ちの一年と王子様の家来は実はデキてたんじゃないか』って」

「そんな……」

「ねーよ! おひぃさんはポチがなんで自分についてきたのか判らないって、不思議がってたくらいや」

「ポチってなんですか? 時々、サ……ブルジェナ嬢をオヒィサンと呼ばれてますけど」

「ブルジェナ嬢のミドルネームがサラって知ってるから別にええぞ。俺は色々あってデリックをポチって呼んでる。忠犬はポチや。あいつは王子様の犬」

「あぁなるほど。じゃ、オヒィサンというのは?」

「それより、お前、ブルジェナ嬢の事どない思ってんの?」

「……」

「属性相性気にするなら恐らく大丈夫だと思うぞ。お前の妹、紋章持ちだから」

「はっ?」

「実家帰った時、聞かされてなかったんやな」

「はい。何も……。水属性魔法を見せてもらったくらいで……」

「かなり高位魔法見せられたか? 氷放ってた?」

「どうしてそれを?」

「なんとなく」と、俺はニヤッと右目を細める。

「俺の仮説だけど……聞いてくれる?」

 この世の全ての人間は、実は元素属性全てを宿している。(但し王族の属性は別。話がややこしくなるので、王族の話は置いておく)勿論、魔力持ちでないノーマルな人も含めて。

 その元素属性は、女神に選ばれた“元素精霊の淑女”になると、スイッチがオンになり、属性回路が開く。開かれた属性スイッチは子孫にも受け継がれていく。が、属性相性が反する者同士の子供は、属性スイッチがオフになる。けれど魔力は消えないので無属性になる。

「お前の妹が水の紋章持ちなら、あの子の水属性スイッチがオンになっただけ。だから、兄貴のお前には関係ない。よってブルジェナ嬢との属性相性は気にしなくていい。多分……」

 ヴォルフが少し安心したのか、顔を綻ばしせた。

「問題は、子孫が二重属性になる可能性とか。お前の家は代々風属性。そこのところはわからん。親が嫌がったらアウトやぞ」

「その程度なら……」

「でも、お前とブルジェナ嬢は違う理由で一緒になれない可能性がある。これ、俺の親だったら大反対するね」

「どういう意味ですか?」

「俺、お前とブルジェナ嬢の親の事、家の者に言って調べさせた。そしたらお前の親父さん、ブルジェナ嬢の母親とかつて婚約してたみたい……」

「はっ?」

 後は、おひぃさんと同じ説明してやった。ヴォルフの親父さんの学生時代の話。ブルジェナ嬢の母親は、湾岸諸国連合国コゼティスの第三王女の可能性があると。

「……」

「オヒィサンって、とある国の言葉でお嬢様という意味の他に、お姫様って意味があんだよ。偶然って怖いな。お前らの仲人するつもりで調べさせたら……」

 沈黙するヴォルフ。

「それで、好きを辞めてしまう? それに友達関係も?」

 俯いたまま目が泳いでる。

「俺さぁ、あの子と約束したんだ。『付き合えない女なんぞ、友人としてもいらない』とかほざいたら、古い友人ぶちのめすつもりって」

 俺は口の近くで拳を作って、はーっと息を吹き掛けた。

「ちょっとやめて下さい!」

「それは俺に殴られない為の方便か? やっぱりお前の好きはこれやったんやな」

 左の親指と人差し指で輪っか作って、右の親指通す。

「?」と、首をを傾げるヴォルフ。

 お前ら似た者同士かよ。このおぼっちゃんはっ!

「お前の好きは結局あの子とおせっせしたかっただけか?」

「……」顔真っ赤にして「違います!」

「俺はね、あの子の事お気に入りなの。笑顔が可愛いし、それに平民だけど姉御のお友達。おひぃさんや、ピンクちゃんや、姉御や事務のお姉さんが元気に笑っての見ると安心して元気なれるんよ。なのにここ数ヶ月、おひぃさんはずーっと落ち込んで落ち込んで。それで、ホームシックにかかって、塔に登って落ちちゃたり、学園外に出てしまった。ずっとやきもきしっぱなしだぜ。でも俺、あの娘とただの友達なのに」

「……。本当は、彼女に手紙渡したかったんです。自分の口からきちんと語る自信がなかったから。でも、文字にも出来なくて……」

「お前に疾しい下心がないならさ、この学園にいてる間は、友達のままあの子の事好きでいればええねん。どうせ卒業したらお別れやろ。アカデミーとか行くなら知らんが。それに卒業後に紋章持ちとして“聖女”の称号を国から貰ったら、あの子の縁談引く手数多やぞ」

「そこに名乗りを挙げられる程、僕は自分に自信がありません……。だから、友達としても……」

 ちょっと友人に呆れたが、これ幸いとも思った。

「王子様の家来、皆さん格好良いよね。背も高いしお顔も良い。剣の腕も魔法の腕も。あいつらの選りすぐりのエリートばっかよ。でも、出自が良い奴だけじゃない。政略結婚の為か、この学園で恋愛せんようにか、あいつらのには一応婚約者はいる。色恋沙汰と縁遠くいてる奴らって輝いて見えるよな。おひぃさんに集ってた奴らや、女子にセクハラしてたアホの上級生共と違って、あいつら女学生からモテモテや。交代で王子様の警護してるけど、非番の日なのに剣の鍛錬とかしてるの見かけるもん。王子様を護る任務の為に。放課後、魔法剣の訓練してるとこ出くわしたけど、女子の黄色い悲鳴がねー」

 苦笑する俺。

「意中にない女子の黄色い悲鳴より、気になるあの子の『おはよう』や『がんばって!』だけで十分なんだよなぁ。お前、それどれくらい言ってもらってない?」

「あの試験の日からです。一ヶ月以上、彼女と話してません」

「ブルジェナ嬢に『二月の十四日に、自分の気持ちをヴォルフに伝えろ』って、言っておいた。どうする? 止めとく?」

「何故、一ヶ月後に?」

「駆け落ちの噂あるからや。イヤやろ。だから、クールダウン狙って。それと、お前、その一ヶ月の間、俺と修行せえへん? 強くなる為に」

「修行ですか……」

「筋肉は全てを凌駕するんや! 弱いって自覚あんやろ」俺はさっきと違う拳を握る。「勿論、講師の伝はある!」

「王子様の家来の方ですか?」

「恋敵みたいなのに教えを請うってありえないでしょ。それにあいつら殿下の護衛に忙しいから」

「恋敵って……。なら先生ですか? 副学長とか」

「別料金払わないとあかんやろ、それ。大丈夫。ちょっと前からある事を計画してたんや」

「はぁ……」

「馬鹿とゴリラは使いようってね!」

「ゴリラって……何ですか?」

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