第115話「ここでの事は内密に……」
朝。雪はそれなりに積もってた。でも、今日は日差しが温かいから、昼くらいには溶けてしまいそうだ。
昨夜と同じ、合コン式で飯を食う。
茶色いパンとポトフと言うには具が少ない 野菜スープにソーセージが一本ぶっこまれた物。そして安いワイン。
「ところで、どう言い訳しましょうか?」
ピンクちゃんが、パンを千切りながら言った。
「買い物に来ましたとかどないよ……」
皆、沈黙。シンキングタイム。
「買い物……。ここ酪農の村ですよね。バターとかヨーグルトを買いに来たということで」
「『マリオン商会を通さないんだ』って突っ込まれへんか?」
「私とサっブルジェナ嬢が」
「別に俺の前でもサラちゃん言うてええと思うぞ」
「あっ、サラちゃんとでお菓子を作りたくて、早く材料を揃えたかったとか」
「なら幻のバターがあるらしいて事にしとく? 女子二人だと危ないから、その辺にいたデリックを巻き込んで、おひぃさんと先に行ってもらって、俺とピンクちゃんが馬で追いかけた。で、こっそり帰ってくるはずが、雪が降って帰れなくなって宿に泊まった。お金はバター代にするのがあったからと」
女子二人が感心して小さく手を叩く。
「主犯は俺って事でええね」
「待って下さい。あたしが悪いんです」
「君らは庶民。一人は除いて、成績にキズが付くと就職とかに響くやろ。俺は、実家継げばいい。卒業出来なかったら、社交界の笑いの種になるだけ」
「本当に良いんですか?」
「いいよいいよ。これくらい。一人の貴重な女子が無事だっただけで、俺的にも国家的にも損害が無いんだから」
「オレの場合はどうすれば。殿下の護衛をほり投げてここに来てしまったわけです……」
「そこは、俺とお前の付き合いの長さよ。とある事で俺に脅されたと言え。内容は言わなくていい」
「はい……」
「それから、ここで見聞きした事は、俺らの胸の内と言う事で。誰にも口外しないように」
「「はい」」「かしこまりました」
その後は、黙々と朝飯を食べた。
パンにアルプスの少女が食べてそうなとろけたチーズが欲しい。
身支度済ませ、馬車を出してもらう。ピンクちゃんと俺らが乗ってきた馬はデリックに任せた。
あの馬言う事聞かないから、ポチは困ればいい。
ブルジェナ嬢とデリックが二人で他愛もない話をしていた時、俺の外套を肩に引っ掛けたパトリシア嬢に服の袖を引っ張られた。
「何?」
俺の耳元に彼女は手を添えて「昨夜の件なんですけど……」コソコソ語りだす。
「壁越しに聞こえてたんですが、内容が内容だけに、サラちゃん顔を真っ赤にして気を失ってしまって」
「まっマジで!? どの辺で?」
「上級生が言ってた『正攻法でなくて』の後くらいからです。デリック様が剣を抜かれるちょっと前には気を失ってました。サラちゃん、あの方と昔に会った事があるって知らないです。教えてあげた方が……」
「黙っといて。本人が当事者に直接伝えるべき事だから」
「わかりました。内緒って事で」
ピンクちゃんが人差し指を彼女の唇に添えた。ウインク一つ。なんか可愛い。
「勿論、カルヴィン様のトンデモ発言も秘密にしておきますね」
打って変わって物凄い軽蔑の視線。可愛い女子からのご褒……じゃない、ピンクちゃんに嫌われたらヤバい!
フラグ一本へし折れたか……。
幌馬車の中。トンネルみたいなアーチ型で前後に幕がある為に、外気に晒されてないから少し温かい。
学生三人は男女に分かれて黙って荷台で揺られていた。外套を二人で羽織り身を寄せ合って座る女学生らを対面に見つめ、俺は体操座り崩した形で荷台の壁に寄る。
馬は二十分から三十分くらいで休憩させるのだが、西村の馬は良く走る。
俺らが乗ってきた学園のお馬さんよりちゃんと走るなと思ってた。が、ポチが乗ってる馬は、普通に走ってやんの。
帰りの道程、半分くらい。一旦休憩を入れる。
荷台から降りて身体を伸ばした。
パトリシア嬢が馬達に“癒しの光”をかけてやる。
馬車にはサスペンションは一応あるが、ガタガタ揺れてしんどい。
「カルヴィン様、オレは先に学園に戻ります」
「わかった。先陣きって怒られて!」
俺は、颯爽と馬で駆けていくデリックを見送った。
あの馬鹿馬! 俺の言う事は聞かなかったくせに、ポチの言う事は聞いてやんの!
お馬さんも、お顔とかで人を選ぶんか!?
キ――――!
許せん!
「あのー、一緒に戻られないんですか?」
ブルジェナ嬢が不安そうにする。
「西門を開けてもらわんとね。俺ら入れない。着く頃には、外園に誰かいるやろ。掃除してる職員さんや、体幹訓練で走ってる学生とか。でなかったら、ぐるっと回って東門の守衛小屋に言えばいい」
俺は女子らに懐中時計を開いて見せた。
「……」
「女子達は気にせんで。尻拭いは俺がする」
再び馬車で帰路につく。
三十分弱揺られただろうか。
「学園が見えてきましたよ」
御者のおっちゃんが話しかけてきた。
あぁ、ついに審判が下るか。
デカい事言ってみたものの恐い。
馬車が止まった。
荷台の後ろから俺が先に降りる。
馬車は外園内の西門の直ぐ近くに停まっていた。
順番に女子二人の手を取って、荷台から降ろす。
この段階でプレッシャーがビシバシと。
荷台の後ろから前に向かう。
「お前達、わかっているんだろうなっ!」
武闘派副学長の低い声。低重音で心の臓まで響き渡る。
後ろで女子二人が抱き合って震えていた。
仁王立ちの副学長。そしてメガネ先生も恐い顔で立っていた。
俺も抱き合って震えたいっ!