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第109話「女子二人。それぞれの秘密」

「俺、ちょっと気になってね。ブルジェナ嬢とヴォルフの素行調査してたの」

「何故ですか?」

 ブルジェナ嬢が恨めしげに俺を睨む。

「友達にお気に入りの女子がいてて、俺がいずれ仲人でもする場合。庶民の子の身元保証とかいるでしょ。先回りしといたら楽じゃんって。で、そこで厄介なのが、おひぃさんの母親と、ヴォルフの親父さんの関係よ」

「何故、あたしの母とヴォルフ様のお父上が関係あるんですか?」

「まぁ、落ちついて聞いてや。その昔、ヴォルフのお父ちゃんが学園で学生をしていた頃。仲良くなった留学生の女子と婚約内定してたらしい。お相手は我が国の北西にある沿岸諸国連合の一国、コゼティス王国第三王女。で、卒業後、正式に婚約するはずだったのに、その婚約予定の人、帰国して半年後に病死された。これは公式に発表されてる」

「それとあたしが何か関係あります?」

「あんたのお母さん、風使いだったっけ? 親父さんは魔力持ちではない。コゼティスの王族の使う魔法って、呪文使わなくても発動する魔法を使えるはずなんだよ。なんせ、国家建国はイクシリア王国より新しいけど、王室はイシュリール王朝より古い。湾岸諸国連合のうち四国は、太古の元素精霊の淑女が起源だから。本来魔法展開するには、想像力と呪文が必要。でも、太陽祭で俺の頭乾かしてくれた時、おひぃさんは呪文使わなかったよね。似た様な人を以前見た事がある。王宮の新年会で、ボーカッカの王族のおっちゃんが煙草の火を指パッチンで着けてた。それに似てたなって。どうやってんのか知らんけど、四王国の王族は、簡単な元素なら各属性を呪文無しで扱える」

「あたしの母が、亡くなったはずの人だと仰るんですか?」

「あくまで、俺の推測。なんせ、親父さんはまだしも、あんたのお母さんの素性がいまいちわからん事と、亡くなった王女様と見た目の情報が似てるらしい事。年齢、髪色、目の色、背格好。ついでに親父さん、コゼティスのお城で働いてた時期がある。調べて合致させなければ結び付けられない情報だけどな」

 ブルジェナ嬢の目が泳ぎ出す。

 そりゃそうだろう。

 あんた実はお姫様ですって言われてんだから。

 おひぃさん。お姉共がブルジェナ嬢に付けたあだ名は、お姫様=おひぃさん。そのまんまだった。

「俺が家の者にちょと探らせただけで、これだけの情報が出てきた。チェインバー家が本気で調べたら、どうなるだろうね」

「何が仰りたいんですか?」

 パトリシア嬢がブルジェナ嬢の背中を擦って、俺を睨む。いや、あんたに嫌われるわけにはいかないんだが……。

「好きを止める必要あんの?」

「……。どういう意味ですか?」

「一緒になれそうにないからって、ヴォルフの事好きじゃなくなってそれでいい? それとも、あんたの好きは、結局これしたいって事?」

 俺は左指で輪っかを作り、右親指を差し込んだ。

「?」

 おひぃさんが首を傾げて怪訝な顔をする。ピンクちゃんが、耳打ちする。俺の方を見てゴニョゴニョ。

 おひぃさんはぎょっとした顔をしたかと思うと、首から額まで真っ赤してふらっと倒れかける。

「起きて、サラちゃん!」

「おひぃさん、大丈夫か!?」

 ピンクちゃんがおひぃさんを揺さぶる。

「大丈夫だよ……」

 ふらふらしながらベッドに座り直す。

「そんなその……恥ずかしい事じゃなくて……」

「気になる人が元気じゃなかったら、心配になる。当然じゃないっすか? 俺だって、うちの姉御とかピンクちゃんとか、おひぃさんとか、事務のお姉さんとかお気に入りの女子が元気じゃなかったら、心配になりますから。それが特別お気に入りの子なら、なおさらでしょ」

「ヴォルフ様とお話したらいいのに……」

「でも……」

「お互い似た様な事言ってんな、あんたら……。付き合わなくても、好きでええやん。好きだって伝えてみようや」

「そんな……」

「付き合わなくても、卒業までの間、友達でよいから好きでいさせて欲しいって。卒業したら会えない可能性が高いやろ? なら残りの二年ちょっと同輩として好きでいさせてもらおうよ」

「……」

「紋章持ちって判ってから何ヵ月経ったっけ?」

 俺は指折り数える。十一月末から三ヶ月だと……。

「ちょっと早いけど二月半ばに告ろう!」

「えっ、なっ何を!?」

「ヴォルフに『卒業まで、好きなまま友達でいさせて下さい』って」

「そんな……。でも……」

「もし『付き合えない女なんぞ、友人としてもいらない』って、ほざきやがったら、俺はあいつをぶん殴るつもり」

 拳をくっと握って、にっと笑う俺。

「日取りは二月十四日の放課後な」

「……。十五日じゃないんですか?」

「うん。二月十四日。そっちのが俺的には意味がある。それまでヴォルフに関わらなくていい。無視しといてかまない。俺からも話つけとく」

「何故、日にちを置く必要が?」と、ピンクちゃん。

「失恋というか精神的ショックがあるうちは物事を正しく判断出来ない。だから数ヶ月置く必要がある。一ヶ月経っても立ち直れないなら三ヶ月様子見した方がいい。それに、今回、無断外出通り越して無断外泊してるのよ。そんな直後に告ってもあかんやろ。一ヶ月も経てば、それなりにほとぼりは冷める……はず」

「わかりました。あたし、もう落ち込んだりしません! あたしの為に皆さんに迷惑かけられないから」

 おひぃさんが笑った。小動物的で且つ明るい笑顔で癒される。

「ところでさ、パトリシア・アンジール嬢。あんたも、紋章持ちなんやろ?」

 俺は対面の女子にピストルみたいに指差してニッと顔を歪ませる。

 ピンクちゃんの顔が凍りついた。

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