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第108話「残される家族について一度でも考えた事があるのか」

 宿の二階。隣あった二人部屋を二つ。

 一つに女子二人。もう一つに野郎二人。

 俺は女子の部屋にいた。部屋は狭い。ランプ置いてるチェスト。ベッドとベッドの間は、ベッド半分以下の幅しかない。

 俺は自分の部屋側のベッドに座り、女子二人を対面のベッドに座らせた。

 ブルジェナ嬢の右側にパトリシア嬢が座っている。

「しょ……、純血を失っても紋章は消えませんよ」

 俺は自分の左肩を指で突いてみせた。

「? 何の事ですか?」

 キョトンとするブルジェナ嬢。

「……。何でポっ……デリックと駆け落ちしようと?」

「えっ!?」と、ピンクちゃんが両手で口許を覆った。

「かけ? 駆け落ちって……何の話ですか?って違う違うから」

 おひぃさんは顔を赤くし、あたふたと両手をバラバラに振った。

「だって、こんな村に二人で来るなんて一時的な駆け落ちとしか思われへんやろ?」

「リレー大会の後。あの人と二人でお茶してたよね」

「だから、怪我した時に助けてもらったお礼で。三十分も話してないし、それも他愛もない無い事だったの」

 なんか噛み合わない。

「なら何で二人で一緒にいたん?」

「あたし、知らない間に村の近くに来ていて。後ろから王子様の家来の人に呼び止められて……。だから、あの方が何であたしの後ろにいらしたのかもわからなくて……。雪も降って来たから取り敢えず雨宿りというか。 そしたら、パティとカルヴィン様が馬で来て……」

 要領得ない。

「無断外出は禁止されてんのに? 紋章持ちになった事で、ヴォルフの事とか気持ちがおかしくなってるのかもしれんけど。属性相性合わないとかそんな事で自暴自棄になって、気性の荒い鉱夫と農家さんしかおらん危ない村に来たり、塔から飛び降りるとかありえないやろ。死んじゃったら、残された家族の事一度でも考えた事あ……」

 急に喋れなくなった。

 意識が曖昧になる……。

 ここは……何処?

 そう言えば、俺は死んでんやった。

 気が付いたらここいたけど……。

 そんなもんやと思って、今まで生活してたけど。

 自転車で走ってたら後ろから車に跳ねられて⋯⋯。

 凄く痛くて⋯⋯。

 俺死んじゃって……。

 みんな、どないしてんやろ……。

 お母さん……。

 お姉ちゃん……。

 お祖母ちゃん……。

 お父さん……。

 同じ日本に生まれ変わってたら、どこかで会えたかもしれない。

 でも、ここはゲームの……異世界……。

 前世の家族がどうしてるのか、俺にはもう知る由もないんだ……。

 左目から下が生暖かく冷たい。

「……様! カルヴィン様!」

「だっ、大丈夫ですか?」

 はたと我に返る。

 女子二人が不安そうに俺を見ていた。

「あっ、いや、ちょっと何か思い出してたら感傷的になった。ごめん。大丈夫、大丈夫」

 左ポケットからハンカチを取り出す。俯き加減で傷を隠す簾髪を上げ、左目にハンカチを充てた。

「カルヴィン様が涙を流して心配してくれるなんて……。ごめんなさい」

 両手で顔を覆うブルジェナ嬢。

「ちゃうちゃう! 俺個人の事、おひぃさんの事じゃない。ごめんごめん」

 慌ててハンカチを仕舞う。

「あのー、ヴォルフ様との事では……ないんです。あたしは庶民ですから……。紋章持ちになって、自分が解らなくなってしまって……。あたしはパン屋になりたかったんです。でも、両親が亡くなった当時。まだ子供だったあたしはお店を継ぐ事は出来ません。兄はパン職人の素質はありません。兄は魔法研究の為に王立魔法研究所にいます」

「アカデミーにいるって、前言ってたから知ってる」

「両親のお店は譲りました。もうあたしの実家はありません。もし、両親が生きていたら、今頃パン屋の仕事を手伝っているのかなって、西の、エストポートの方を思っていました」

「実家に帰りたかったから、ここに?」

「無自覚ですけど、多分……。塔に登ったのも、エストポートが見れるかなって……」

 いや、見れないって。ここ、標高高いけど山に囲まれた盆地。塔に登ったくらいで、西の港町エストポートなんぞ見れるわけがない。

「あたし、自分の事しか考えてなかった。皆さんにいっぱいいっぱい心配かけて。今日だって、みんなに迷惑かけて。ごめんなさい……」

 両手を覆ってシクシク泣くブルジェナ嬢。

 パトリシア嬢は、友人の肩を抱き背中を擦った。

「ヴォルフの妹の件だけど……。あの子多分……、紋章持ちやで。しかも水の」

「えっ!?」

 ズキっ

 左目の奥が強烈に痛む。

「あっ、あくまで可能性の話だけど、水属性出ただけで、わざわざ飛び級で学園に来ないと思うんよ」

「ヴォルフ様はその事を」

「恐らく知らない。親と関係者は知ってると思う。紋章持ちなら遺伝子上の属性相性ではないから、悩む必要はない」

 ブルジェナ嬢の顔が少し綻んだ。

 目の痛みが引いていく。

「でも、ヴォルフとあんた、一緒になれない可能性が高いんだ」

「「えっ!?」」

 女子二人が驚いていた。

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