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第106話「おんまはみんなぱっぱか走る……?」

 門柱にもたれ、地面を蹴っているパトリシア嬢。

「お待たせー!」

「カルヴィン様ーっ!」

 息切らして、俺の外套を彼女に渡した。

「寒いからこれ着といて」

「なら、自室に取りに行きま」

「時間がないねん!」

「どういう意味ですか……」

「あいつら二人きりにしたら大変な事になる。徒歩でならまだ西村には着いてない」

「ウェスタ村に……。何故判ったんですか?」

「西門が開いてた。厩舎近くで王子様にデリックについて聞かれた。あんたからブルジェナ嬢。おそらくウェスタ村や……」

「間に合わないと言われても、徒歩なら私達も間に合わないのでは」

「だからや、来て」

 俺はピンクちゃんの腕首掴んで厩舎に走った。

 厩舎に人はいなかった。

 乗馬予定の王子様も戻ってないのか。

 二人乗り出来そうな鞍のついた馬一頭発見。

「これ借りるか」

 厩舎から馬を連れ出そうと出入り口の前で、「ちょっと待ってて下さい」とピンクちゃん。

 俺が渡した外套を羽織る。そして、俺の背中と馬の後ろ脚側の背中を撫でた。

「さぁ、行きましょう!」

 見られないかコソコソしながらも、堂々と馬を引っ張って、外園西門へ。

 西門はまだ開いている。

 馬を外へ出すと、俺は門を閉めた。

 鐙に足をかけて馬に乗る。

「左足からな」

 パトリシア嬢を引っ張りあげて、後ろに乗せた。

 彼女の両腕が俺の胴体にまわされる。

「しっかり掴まってや!」

「はい!」

 俺は手綱を軽く打った。

 ヒヒンと鳴いて馬が前足を上げた。

 西門からほぼ真っすぐ続く道を西へと走り出した。

 学園の馬はあんまり乗った事がない。でも、本邸にいた頃は、十歳くらいから乗馬していたので馬には乗れる。ジェル姉後ろに二人乗りもしてたし。

「寒くないですか?」

「寒いよ」

 馬が駆けると風圧で寒い。制服の温調機能は動いていても、雪が降るかもしれない今日は寒い。おまけに学園外。結界の外は、普通に冬場の気温だ。

「なら外套を」

「でも、パトリシア嬢がくっついてくれてるから背中は温かいかな」

 実際、ピンクちゃんがしがみついてくれてるお陰で背中は温かい。おまけに、彼女のメロンがむにゅっとむにゅっと……。

 いや、そんな事どうでもいい。

 あいつらを二人きりにしてはいけない! 早く、ウェスタ村に向かわなければ!

 なのにお馬さんは走り続けてくれないのである。

 二十分もしないうちに、馬が止まってしまった。

 馬は生き物だ。走れば疲れる。しかも二人も乗せれば重いのだろう。

 馬車用の馬ではなく、乗馬用の馬なのだ。

 地面にしゃがみ込む馬。疲れたんじゃと言わんばかりのお顔をしてなさる。

 俺は馬の首後ろに両手をかざす。

「“地の癒し”」

 馬の顔つきが変わった。元気になりましたーと立ち上がった。

「さぁ行くか!」

 鞍に跨り、ピンクちゃんの手を取る。彼女を後ろに乗せて、再度出発!

 十五分後……。

 お馬は走りません。しゃがみ込みます、何何故ですか……。

「何故走らん!?」

「また疲れたのかもしれません」

 ピンクちゃんが、“癒しの光”を馬にかける。

「喉が渇いてるようですよ」

「こんな所に水場があるか?“水錬成”出来たら……」

「あそこ!小川があります!」

 街道の南側。俺らから少し離れた所に小川が流れていた。

 馬を引っ張り土手に連れて行く。

 浅めの土手を下り、河原で馬に水を飲ませる。

 パトリシア嬢は優しく馬の頭を撫でていた。

 水を飲み、その辺の草を食む。

 なんか憎たらしい。

 首をもたげ、ぶるぶるっと震えるとぶりぶりっとそそうをしやがった。

 ……。

 河川に直接排泄物を流してはいけない。社会通念上、又、法律にもある。

 “泥の傀儡”の応用で地面に穴を空けて、そそうを深くに埋めた。そして、「“大地の小さな解体者”」をかける。

 “地の癒し”の応用で、地中の微生物の働きを活性化させる術だ。一応、俺が子供の時に考えた魔法である。

 風、水、土の魔法で動いている浄水槽の魔法システムの応用だ。

 田舎の農家は基本的に汲み取り式トイレだ。都会や、農村部のお金持ちの豪農家は浄水槽のシステムがある。

 こっちの世界の人は浄水槽の仕組みをちゃんと理解していない。三種の元素魔法で水を浄化していると思っている。が、俺が確認した限りでは、水を浄化しているのは最後方だけで、初っ端は汚物を水中と底の土にいる微生物が有機物を分解している。システム内の微生物を活性化させる為に、三種の元素魔法が使われていた。女神様が人に教えた古の複合魔法の為、皆さんあんまり考えてないようだ。

 近世ヨーロッパ風世界のこの国が、比較的衛生的なのは、浄水システムがあちらこちらにあるからだ。

 女神様ありがとう。でなかったら、現代日本人の記憶を持つ俺は生き辛い生活を送っていただろう。

「馬、もうええか?」

「そろそろ行きましょうか」

 馬乗左に俺、右にピンクちゃん。二人で手綱を引っ張って街道へ。

 寒いし早く進みたい。なのに馬鹿馬が!

 街道の脇。

「パトリシア嬢、光のリボンで馬を拘束してくれるか?」

「構いませんが、村まで私達で引っ張るんですか?」

「違う。連れて行くけど、馬を動かなくして」

「はい……」

 ピンクちゃんが「“光の絹紐”」で馬を拘束する。しゃがみ込む馬。

「これ持ってて」と、俺は彼女に懐中時計を渡した。

「今から十五分たったら教えて。俺の活動限界だから」

「わかりました。でも活動限界って」

 俺はしゃがんで地面に手を付いた。

「“泥の傀儡”“動く歩道”!」

 俺等の周囲が光り、地面に長方形の切れ目が入る。二十センチ程の厚さの土の絨毯が街道に向かって横滑る。

「動いてる!」

「このまま街道滑って村の近くまで行く!」

 しゅーるるるるるる

 多分時速二十キロくらい。自転車程度の速さだ。十五分あれば距離はかなり稼げる。

「お馬より速いですね」

「動かすのに魔力消費が激しい。俺の魔力使い切ったらやばい。野盗に襲われるリスク考えたら十五分が限界や」

「……。私よりジェル様と一緒の方が良かったかもしれませんね」

「いやそりゃ違う。あんたは『エレラバ』の主人公だから。ピンクちゃんじゃないとあかんのよ!」

「エレラ? えっ、主人公?」

 何のこっちゃな反応だが、こっちは自分の命にかかわる事件だ。

 土の絨毯は街道を西へ西へと動いていった。

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