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第104話「うちのポチ知りませんか」

 一月の二週目の土曜日。

 午前中から、出入り業者が来ていた。

 学園にくる業者は、色々。剣術大会や太陽祭みたいな一日限定イベント用業者だけではない。

 週末にやって来るマリオン商会。

 食料や燃料等を納入する業者。

 厩舎の馬の飼葉の納入や馬糞回収する業者。浄化槽の汚泥回収業者等。

 来賓は東門から来るが、業者さんは西門から入ってくる。授業で園外に出る場合も西門からが多い。

 外園の塀には東西南北に出入口はある。一番開閉が多いのが西門だ。南北の門ってあんまり開いてる記憶がない。

 午後二時。内園西門から外園に出る。気温差十度。温度調整機能のある制服とは言えちょっと寒い。

 おまけに、空は薄どんよりしている。

「今日は昼過ぎ、若しくは夕方から雪が降る」と、小耳に挟んでいた。

 そんな感じのする雲だなと得心してから、西南の塔方面に向かっていた。

 西門がいつもと形状が違って見えた。業者さんがくる関係で開けているようだ。

 馬場と厩舎の見える園路にて。

「カルヴィン!」

「あっ、殿下」

 戦闘服を着た王子様に呼び止められた。後ろには同じ格好したお付き学生が一人。何かの自主訓練をされるようだ。

「外園に出てきたのはさっきかい?」

「そうですけど、どないかされました?」

「内園でデリックを見なかったか?」

「いいえ。会わなかったですね」

「そうか……」

「ポ……まだデリック来ないんですか?」

「いや。先に厩舎で待っていてくれているはずなんだが、いないんだ……。我々が来て十五分以上経っているのにまだ戻ってこないし」

「はあ、そうですか……」

「もし見かけたら乗馬の練習で我々が待っていると伝えてくれ」

「かしこまりました」

 王子様とお付き学生は魔法訓練場の方に行ってしまった。

 何があったのか……。

 んっ?

 妙な既視感。

 ぴゅーっと風が吹く。

 寒い。

 樹木に胴体が隠れた塔の頭が近く見えた辺りで、俺はポケットに両手を入れる。

 ポケットの片っぽが空だ。左にハンカチしか入ってない。

 忘れ物を取りに慌てて宿舎に向かった。

 外園の園路を歩きながら唐突に頭に湧いた一文。

「ポチとおひぃさん西村へ」

 西村?

 西村さん?

 んっ?

 西に村なんてあったか?

「おひぃさんとポチが家出して、結局探し出せないまま翌日になるとヴォルフルートなんだよ」

「友達に聞いたけど、あれ寝取りでしょ」

「君は今おひぃさん転落ルートでしたな。実は、ポチの方がBSSだったのだよ。ピンクちゃんと王子様が西村に追いかけていって二人を見つけられたら、その旨の話が出てんねん。見当違いで東や南に行く選択すると……」

 誰かが俺を呼ぶ声がする。

「カルヴィン様!」

「ピンクちゃん!」

 いつの間にか、宿舎北側に戻っていた。目の前にはパトリシア嬢。

「あのー。ブルジェナ嬢見ませんでしたか?」

「いや。見てないよ。外園に出てたんだけど忘れ物して戻ってきたとこや」

「そうですか……」

「どないした?」

「二時に彼女とお買い物する約束してたんですけど、実験棟一階のホールにまだ来なくて……」

「そうなんや。今宿舎に戻るから見かけたら……」

 さっきは、王子様からデリックを見なかったかと聞かれ、今度はピンクちゃんからブルジェナ嬢を見なかったかと聞かれ……。 

 これって、もしかして⋯⋯。

「コミカライズあーるじゅうごー!」

 唐突に叫ぶ俺!

「コッ、コミカライズって何ですか?」

 不安そうなピンクちゃん。

「西村って知ってる? 西の村?」

「西の村?」ちょっと悩んで「ウェスタ村ですか?」

「村あんの?」

「ええ。私達は行きませんでしたけど、二年生以上の方は夜行訓練に行って花火大会を見る村です。風船ランタンが楽しみだなぁってジェル様達と」

「そこだ!」

「はぁっ?」

「一生のお願いがあんねんけど」

「?」

「俺と一緒に叱られてくれる? ブルジェナ嬢探したいから」

「……。はい」

 なんかよくわかってない風な顔のパトリシア嬢。

 でも、言質は取れた。

「内園西門で待っててくれるか? 俺、先立つ物を取ってくる!」

「わかりました。お待ちしています!」

 一旦、ピンクちゃんと別れた。

 急がないと間に合わなくなる!

 俺の古い友人の精神がやられたら、俺の命がやばくなる!

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