第100話「冬休みの自主学習」
事情聴取の後。図書室で書籍を物色していた。
いや、エンタメ系でなく魔法関係のやつを。
貸出受付で司書さんと静かに揉めている黒髪の奴がいた。
同級生の鼻眼鏡だった。
貸出禁止本と、閲覧制限のある書籍に関する話だった。
研究熱心やなぁと関心しつつ、俺は俺で光属性魔法の書籍と地属性魔法の書籍を貸出受付に持って行った。
「先生の許可があれば閲覧可能です」
「そうですか、わかりました」
奴はすごすごと諦め、一冊だけ貸出手続きして図書室を出ていった。
カウンターに書籍を置く。
「さっきの奴、何の本借りようとしてたんすか?」
「個人情報はお教え出来ません」
こっちの世界にも図書館法があんのか?
「『光魔法概論』は、学年制限かかってますので図書室から出せません。『地属性の系譜』は貸出可能です」
「わかりました」
サインして図書室を出る。
一階エンラトンスに鼻眼鏡がいた。
追いかけて「よっ!」と、肩を叩いた。
俺とあまり変わらない背丈のそいつは、俺に目礼するだけで何にも言わない。すたすたと外に出る。向かう学生寮。
「白っ……ドゥエイン達は?」
「彼らなら王都でござるよ。拙者の実家は王都に別邸はない故、実家に帰省はしないでござる。それに、ここは結界のおかげで過ごし易いでござるから……」
ボソボソと喋る鼻眼鏡。
「そうか」
「クライン卿は? 貴方は王都に戻られないのでござるか?」
「親うるさいから、羽伸ばしてんのさ。で、さっき借りようとしてた本は何?」
「……。魔具研究の為の本でござるよ。この学園に存在しない属性に関わる書籍……。それで察して欲しいでござる……」
「はぁ……」
しばらく俺が一方的にあたりさわりない話しかけていた。結局、二階自室前で鼻眼鏡と別れた。ゲームじゃ、背景に扱いのモブキャラだ。姉1も姉2も「オタク三銃士またいるねー」くらいしか言ってなかった。何度思い返しても、オタク三銃士の情報が無い。モブはしょせんモブか……。
部屋からペンとノート、それと借りてきた書籍を教材運搬用の白い布鞄に入れて、食堂へ。
昼食前で、調理室から料理の匂いが漂ってくる。カウンターの奥からはガシャガシャと調理用の器具と器具がぶつかる音。
体幹強化や剣術訓練等自主練していたであろう体操服姿の学生が何人かお茶を飲んだり、制服姿の学生グループが談笑したり。
俺は真ん中の島の真ん中、誰もいないテーブルに陣取って、自習していた。
二年の終わり頃。ジェルトリュードが闇落ちして黒いドラゴンになるなら、俺は死に物狂いで戦わねばならないから。
絶対に死にたくない!
最悪、あの女ぶっ殺してでも俺は生き残る。そのつもり……なんだが……。