表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/151

第99話「事情聴取」

 実験棟二階にある学生指導室に着いたのは、十時より少し前だった。

 取っ手に手をかけようとした時、ドアが開いた。

「失礼します」と、出てきたのは白いエプロンを着けた黒髪眼鏡ちゃん。

 俺に気が付くと、ぎょっとした顔で一礼すると逃げるように去っていく。

「リリちゃん!」

 彼女はギクりと肩を竦める。「はっ、はい?」と、振り返った。

「ブルジェナ嬢の件、ありがとう。あんたが教えてくれなかったら、間に合わなかったかもしれんから」

「はっははははは。どうも……」

 顔を強張らせて小さく会釈すると、そさくさと去っていった。

 仕事あるから慌ててたんだろう。勤労学生は大変だ。

「失礼します」と、部屋に入る。既に姉がそこにいた。

 パトリシア嬢がいると思ったが、彼女の事情聴取は既に終わったらしい。

 事情聴取担当は、おばあちゃん先生と眼鏡のティーダ先生だ。

 昨夜何が起こったか。何故、魔法を使ったか。

 まあ、俺ら姉弟が知り得る限りの事を色々話たり、説明してもらったり。

 魔法の使用は人命救助なのでお咎めなし。

 昨夜。星見会が天文観察をしていた。で、一次会を終えて、塔の入り口に鍵を掛けた。はずだった。恐らく、鍵が開いていたので、ブルジェナ嬢は発作的に塔の上に上がってしまい……。

 と、先生方は判断したそうな。

 おひぃさんは、二十五年に一度現れる火の紋章持ち、"元素精霊の淑女(エレメンタルレディ)"だ。

 自身と周りが特別な状況に変わり、精神的に耐えられなかったのではないか。

 俺は直接聞いたわけではないが、医務室に運ばれたブルジェナ嬢は「何で、あたしなんですか! 何であたしが選ばれなきゃならなかったんですか!」と、喚き散らし取り乱していたそうだ。

 そりゃ、普通そういう判断になるよなと……。

「君達、よく咄嗟にあの判断が出来たね」

「子供の頃、高い所から降りられなくなった子供やお年寄りに遭遇する事がたまにあって」

「そのまま飛び降りてもらうか、足を滑らせた時に、"泥の傀儡"で受け止めるみたいな事をしてましたから。色々失敗して、大怪我てはないけど、打ち身とかの怪我はさせちゃったとか……」

「下が石畳だったら、私達では絶対無理です。塔の下が土で良かったとしか……」

 姉と顔を見合せ、思い出し苦笑い。

 "泥の傀儡"で受け止めるも、固すぎで打撲。柔らか過ぎてそのまま落下。大怪我はしないまでも、打ち身捻挫は当たり前。

 悩んだ結果。前世で叔父さんの家で見た昔の香港映画かなんかの落下シーンを真似た。数階以上あるビルの上。各階の窓の上に付けられた布製の日除け屋根を次々とぶち破り落ちて行くアクションスター。最後は段ボール箱の山の上に落下して無事着地。

 クッションになる柔らかな土の山を高くすればするほど、無駄に土が必要になる。最小限にすると土の山は硬度が必要になり、落下の衝撃を吸収しきれず、落下物に衝撃が加わる。

 なら、基盤となる土の山の硬度は上げて、布の日除け屋根に該当する物を用意すればいい。

 充分時間があれば、一人で展開可能だ。だが、今回みたいに秒を争う時は……。

 直接地面に魔力を注入し、姉のジェルトリュードが支柱担当、俺が受け止める土の手を担当する。

 この学園に来るずっと前から、俺ら姉弟の間ではそういう算段になっていた。

「貴殿方が優秀な魔法使いで良かったわ」

「ありがとうございます」

 姉御ちょっと嬉しそう。

「ところで先生。ブルジェナ嬢以外にも、"元素精霊の淑女"って見つかってるんですか?」

「……」

 二人の先生の様子が変わる。

「さぁ。アカデミーや魔法省からの正式に報告がありませんから、我々はとやかく言うお話ではありません」

「へー。ブルジェナ嬢の件は、どうなってるんですか? 学園内で留めておいても、学生が親に手紙で知らせたり、冬休みで実家に帰省した学生の口から漏れ伝わりますよね?」

「ちょっと、カルヴィン……」

「それは致し方ないと判断しました。見られてしまいましたから。ブルジェナ嬢の件はアカデミーにも魔法省にも報告済みです。国王陛下から"聖女(Stレディ)"の称号が与えられる場合は、新聞発表もあるかと思います」

「場合によっては、上流階級のみにしか伝えられない場合もあるよ。その時は市井は、その存在は知っていても、特定の個人の事はわからない」

 先生方、含みある物言いをしなさる。

「本当は、あと一人、いや二人くらい紋章持ちの存在を確認してるんじゃないかなーって」

 眼鏡の奥の目が険しくなった。

「紋章持ちに興味がおありのようね」

「うちは古い家系ですから。それに直系の跡取りが俺だけです。姉上は、殿下の婚約者である以上、俺に何かあったら遠縁の子供を養子にするのかもしれませんが。家の存続を考えたら、優秀な伴侶は不可欠です。地か光の紋章持ちなら属性相性に影響しませんので、申し分ないんちゃうかなーって」

「君も、彼女に集っていた学生と変わらないんだね……」

「学生時分に、人生の伴侶を見つけておきたいって考えたらだめですか?」

「……。仮に在学中に将来の約束をしていたとしても、履行されるかはわからないんじゃないかな」

 メガネ先生の口調が微妙だ。

「過去には、卒業後、婚約者に逃げられた方もいらっしゃらったみたいですね……」

 先生方の微妙な沈黙。

 ぺしっ

 後頭部を軽く叩かれた。

「いい加減にしなさいよ! 先生方困ってるじゃない。馬鹿な弟で申し訳ありません」

「あははははっ、興味本位の学生の戯れ言でーす。さーせん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ