第98話「祭の後の冬休み」
太陽祭の翌日。
俺は朝食受付終了時間間際に食堂へ行った。
殆どの学生が食事をし終え、疎らに残った者はグループで談笑を楽しんでいた。
朝食トレーを受け取って、俺は適当な席に座る。
丸いパンに横から切り目を入れ、ハムとスクランブルエッグを適当に詰めてかじる。
「おはようございます」
聞き慣れた女子学生の声。
エイミー嬢だ。制服の上に食堂職員のエプロンを着けている。
「おはようさん。バイト? せいが出ますな」
彼女は片手に白い台拭きを持っていた。
俺の前の席に座る。
「昨夜はお疲れ様でした。大変でしたね」
「……。最後の回出れなかった。気分悪くなって、部屋で寝てた……。おまけに今日は十時から事情聴取や……」
「ブルジェナ嬢助かって良かったですよ。今朝、あの人、カウンター前で『昨日はお騒がせして申し訳ありませんでした』って頭下げて叫んでましたよ」
謝罪出来る程度に元気になったみたいやな。良かった良かった……。
「リリちゃんが教えてくれなかったら、俺ら宿舎に不在確認しに行ってしまって、間に合わなかったかもしれんかった。あの子に感謝や」
「ならリリに会ったら言っといて下さいね。結局、最後までいらっしゃらなかったんですよね。で、ボクシング、誰対誰で誰が勝ったかご存知ですか?」
「レオ先輩とブルーノ先輩」
「おや、ご存知で?」
「部屋戻る前に食堂でお茶飲んでたら、上級生らが騒いでた。どっち勝ったん? レオ先輩?」
「正解! 凄かったですよ。遠目で見てた剣術大会以上の迫力で。人間、こんなに顔が腫れるんですねってくらいえらい事になってました」
目を輝かせるエイミー嬢。
「救護班大変やったやろ。大の男が二人、風船みたいに顔膨らましてんだから」
「それがですね、ブルーノ先輩のお顔は、それはもう大変で。レオ先輩のお顔も腫れてはいたんです。血も流れてたし。でも原型留める程度でした」
何それ。やっぱり攻略対象者だから、補正?
「頑丈なんですね、あの方……」
「ポっ……王子様の家来が棄権したらしいけど、何でか知ってる?」
「黒髪の人でしょ? 皆、不思議がってましたね。絶体ブルーノ先輩に勝てそうなのにって。怖じ気づいたとかではなさそうでした。ブルジェナ嬢が担架で運ばれていった後くらいに棄権されたみたいです」
今日から冬休みだ。来年の三学期開始直前まで、エリオット殿下は家来達を連れて王都に戻られる。今日が出発日のはず。
忙しいだろうからデリックには棄権理由は聞けそうにないやろな……。その前に王子様が追求してそうやけど……。
俺はお茶を啜った。
「冬休みは帰省されないんですか?」
「王宮で新年会の挨拶くらいやろ。上級貴族のお偉方が集まって、面倒も禄に見んのんに無理矢理連れてきたガキの自慢と世間話や。面倒くさいから帰省すんのやめとこってなった。王都の別邸行ってもこの時期なんもする事ないしね。エイミー嬢は?」
「貧乏暇無しです!」
勤労学生はにかっと笑ってガッツポーズをしてみせた。