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98・夢から醒めた私達は

「大地の精霊ノームも……風の精霊シルフと同じように……なんやかんやで私の左手の甲に宿ったわけですね。…………いや、なんでやねん」





私は大地の精霊ノームをシドウさんと共にぶっ殺したあと、なんやかんやで眠ってしまい、そして夢の中でキャサリンさんの記憶を垣間見ました。



クローバー家襲撃事件の真相と、不仲な両親に対するキャサリンさんの寂しさ、パンドラへの嫉妬心、そしてエンジュリオス王子に恋をしたものの『他に好きな人がいる』と言われた瞬間、私は右手に暖かい感触を感じて飛び起きたのです。



そして、左手の甲を見て自分に自分でツッコミを入れたあと、右手を見て「ミギョッッッ」と声を出しました。





「ししししシドウさん…………眠っておられるんですか?」





シドウさんは私が眠るベッドに突っ伏して眠りながら、私の右手を握ってくれていたのでした。





「……ん? あ、ああ……ごめん。……さっき目を覚まして、ヘンリエッタ殿に色々報告したら疲れちまってさ。……気が付いたら寝てた」


「いえいえ……。シドウさん、お体は大丈夫ですか? 眠かったら私の隣で横になりますか? 一緒に寝ますか? そうしますか?」


「いや……大丈夫。もう起きたから」


「そうですか……」





シドウさんは私の右手をそっと離すと、サイドテーブルに置かれていたコップに口をつけられました。


私ももう一つあったコップを手に取り、水を飲みます。

冷たい水が喉と体に染み込み、思わず「ックァ〜〜〜〜〜」と風呂上がりにビールを飲んだおっちゃんみたいな声がでました。



そして、私はシドウさんから事の顛末――ロマンさんとリヒトさんとヘンリエッタ様が取り調べた内容などを聞きました。


クローバー家襲撃事件の犯人とされたカナリヤの炎の構成員は、クローバー家襲撃事件を抜きにしてもそれ以外の罪が余りにも多く、結果は何も変わらなかったそうです。


そして、ヒンドリーも二人を殺めた上に娘の人生を破壊した罪で、とんでもなく重い罪が科せられそうだとシドウさんはお話されました。



シドウさんは色々とお聞かせくださったあと、心配そうなお顔をされて私を気遣うように仰いました。





「…………なあ、プロメ。本当に大丈夫か? どっか痛いとことか無いか? 火傷の跡とか、ロマン先輩は全部治したって言ってたけど……本当に大丈夫か?」


「はい……痛いとか特に無いですし見る限り火傷も…………はっ!!! シ、シドウさぁん♡ もしよかったらぁ……♡ 私の体を隅々まで家宅捜索して傷がないかお調べしてくたさぁい♡」





私は『よっしゃよっしゃよっしゃよっしゃアピールタイムやで。さっきまでヘンリエッタ様ンとこに報告行かはったさかい、私も負けんように塩っぱい色仕掛をせんと』と思い、シドウさんにバリッバリ色目を使いました。





「本当に調べるぞ。……良いのか?」


「え」





てっきりツンデレ美少女みたいに恥じらうだろうと思ってたのに。



シドウさんは真剣ガチの顔で私を見ながら、両肩を掴んできました。





「あ、あの……え、あの、シドウさん? あの」


「……困るなら最初からンな冗談言うなよ。……まあ、元気そうで良かった」


「え、あ、あ〜。……へ、へえ。……プロメは元気でござんす……へへっ……」





最近のシドウさんは、なんか違う。


この前まで私にグイグイ迫られたらツンデレ美少女みたいになってたのに、今は逆に乗って来て私を驚かせてくるのです。



……自分からグイグイ行くのは特に何も思いませんが、シドウさんからグイグイ来られるのは、正直心の準備なんて出来ませんし、あまりの緊張と恥ずかしさに何も言えなくなってしまいます。



シドウさんは、一体どうしたんでしょう。





◇◇◇





カウンターを仕掛けてくるようになったシドウさんと私は、クローバーランドの入口で待つロマンさんとリヒトさんと合流しました。



ところどころぶっ壊れたクローバーランドは修繕工事を行っており、澄んだ青空の元でトンカントンカンドガシャンドガシャンと工事の音が響いています。





「ロマンさん、先程は看病の方……本当にありがとうございました! …………で、あの……ところで……クローバーランドは今後……一体どうなるんですか?」





私はこういうことにお詳しいだろうロマンさんに話を聞きました。





「あ〜それね。……それは……」





ロマンさんが説明なさろうとした、その時です。





「クローバーランドはブラッニーランドって名前を変えて、引き続きクローバー領土の貴重な観光財源として運営していくから、気が向いたらまた来なよ」


「! キャサリンさん!! ……その髪……」





シンプルな水色のワンピースを来て革の鞄を持ったキャサリンさんが、風に吹かれる白い帽子を押さえながら笑っています。



あの伸びっぱなしだった肩までの黒髪は、襟足の長く丸っこい今風のショートヘアに整えられており、それが本当によく似合っていました。


……しかも、黒髪に青色のメッシュまで入っています。


素っ頓狂なガンギマッたヤバそうな夢の国のお姫様が、今風の美少女になっていました。





「鬱陶しかったから切ったんだよ。似合うだろ?」


「ええ。とても。……お綺麗ですよ」


「知ってるさ」





キャサリンさんは「みゃははっ」と笑ったあと、クローバーランド――いや、ブラッニーランドを振り返りながらお話を続けられました。





「正直な話、クローバーランドが無きゃ領民はご飯が食べられないから。……うちは元々不毛地帯の嵐が丘だからね。……あんな事件の隠れ蓑だった遊園地なんて取り壊した方がって意見もあったけど、働き口が無くなるのは何よりも困るから」


「……結局は飯が食えるかどうかですよねえ」


「いやあ……現実は夢と違って厳しいな」





キャサリンさんは柔らかい笑顔でそう仰いました。



そんなキャサリンさんに、ロマンさんは




「……工事が終わったらすぐ来るけん。……案内人さんやブラッニー達に会いに行くよ。……そして給料全部ぶち込むけん。……夢ば支えるのはやっぱり金やね。金」




とヒヒッと笑います。





「ところで、キャサリンさん。……貴女はこれから、どうされるんですか?」





髪をさっぱり整えて革の鞄を持ったキャサリンさんは、見るからに旅立ちという格好をしています。


……恐らく、もうクローバー家にいる気は無いし、そもそも一秒でもいたくはないと言うことでしょう。





「クローバー家はパンドラのものになった。だから、そこに私の居場所は無いし、正直戻る気も無い。…………あ、安心して。ブラッニーランドは元々クローバー家の税金対策として別の会社に運営を任せてたから、クローバー家からは独立するってさ。……まあ、今のクローバー家に税金対策しなきゃいけないほどのお金は残ってないけどね。……ヒンドリーの事件が明るみになったせいで、財産はほとんど王家に没収されたし、宗教を管轄って言っても、その権利はほとんど王家に吸収されちゃったから」


「……つまり、王家の介入で弱体化したってことですか」


「うん。……うちは国教を管轄してたのに、それを犯罪の隠れ蓑にしたんだ。……こんなの放置してたらいつ寝首かかれるか分かったもんじゃないって感じだと思う」





キャサリンさんは「こんな状態のクローバー家を手に入れて、パンドラは何がしたいんだか」と呟かれました。



そんなキャサリンさんに、リヒトさんが




「キャサリン!! お前はこれからどうするんだ? ドーナツ屋でバイトをするなら元バイトリーダーの俺が確定申告について教えてやろう!」




といつものロックスターな笑顔で指を差しました。





「……私は、フォティオン学園に行こうかと思うんだ」


「え」





フォティオン学園。私の母校であり、ジル先生がいるところです。





「私は学校に行ったことがなくてね。……いつも家庭教室に勉強を教えられてたんだ。……それに、五年間ガンギマッてたから、色々と学びながら、人としての生活を取り戻さないと」


「……そうですか。でも、学費はどうやって?」


「犯罪被害者として国から貰ったお金……。まあ、ぶっちゃけクローバー家の財産が横流しされただけなんだけどさ。……要はクローバー家からの口封じの金だよ。『これからの人生には何も関与しないから、クローバー家の醜聞は話すなよ』っていう」


「そうですか……。タツナミ家の時と同じですね。……でも、キャサリンさんの安全は大丈夫なんですか? パンドラは暫く大人しくしてるかもですけど、他の奴らが口封じに来たりなんか」


「それについては大丈夫だよ。……ヒンドリーが消えたあとの私の後見人は……一体誰だと思う? ………………ヘンリエッタ・ラネモネ様さ」


「え!?」


「はあ!?」





まさかの展開に、私とシドウさんは仰天して声を上げました。





「身寄りがいなくなった私をヘンリエッタ様が『後見人になろう』って名乗り出たんだよ。……ヘンリエッタ様は私という『クローバー家の急所』を確保して、私は『もし私に危害を加えるならラネモネ家が相手になるぞ』っていう後ろ盾を手に入れた。……持ちつ持たれつさ。……抜け目無いね、あの人」


「……ほんとっすね」





私はヘンリエッタ様の蛇のような目を思い出しました。


あの人はキャサリンさんの力になりたいとかそんなんで後見人に名乗り出たのではなく、



『その手札、いらないなら私にくれよ。……あ、カードの役目が揃った。じゃあ死ね』



とクローバー家が捨てたカードを手札に揃え、役目を揃えた手札で相手の喉を切り裂くつもりなのでしょう。



……ねえシドウさん。……あんな怖い女やめて私にしましょうよ。



私はそんな想いを込めてシドウさんを見上げました。



シドウさんは悪夢で飛び起きたような疲れた顔をして、



「……まあ、犯罪被害者で身寄りがないとなっちゃ、ラネモネ家の管轄でもあるから……まさか……こうなるとは」



とぶつぶつ呟かれていました。





「ところでさ、プロメさん達はどうするの?」





キャサリンさんに聞かれた私は、悩みながら答えました。





「う〜ん。……そもそも私達がクローバー家に乗り込んだのはパンドラを取っ捕まえる為だったんです。……でも、逆にパンドラが張ってた蜘蛛の巣に引っ掛かって一網打尽にされかけて……正直、パンドラに関して得られた事は何も無いんです。……だから、引き続き用心しつつパンドラを取っ捕まえることに備えなきゃいけませんねえ」





私達の目的は、パンドラを取っ捕まえて色々と真実を聞き出すことでした。



どうして私の身柄を捕らえようとしたのか? とか、ルイス――ルイーズが毒を飲んだことについての真相とか。


あの不気味に笑う女には、色々と吐かせたいことが山程ありますから。





「……正直、ここ数日間は……パンドラが張った罠にかかった挙げ句、ヘンリエッタ様の糸に操られてただけで……。情けない話ですけど、ほとんど利用されて操られて踊らされて終わったみたいな感じなんです」


「……そんなこと無いよ」


「え」





キャサリンさんは私の手をぎゅっと握って、笑って仰いました。





「プロメさん達は、私を悪夢から救い出してくれたじゃないか」


「……キャサリンさん」


「……君達四人は、私のヒーローだ。……ありがとう、本当に」





キャサリンさんのショートヘアの黒髪が、風に揺られてふわりとなびきました。


青いメッシュがキラキラと光っていて、とても綺麗です。





「頼んでもないのに無理矢理救われた命さ。…………嫌々ながら生きてやるよ」


「……ええ。そうしてください。私のために」


「みゃははは、なんて強欲な悪役令嬢なんだ。……まるで、『私の夢の王子様〜自分で書いた物語に異世界転生して自分のキャラに溺愛された件について〜』の悪役令嬢みたい」





キャサリンさんがそう言って笑った瞬間。





「ロマン隊長ぉぉおおおお!!!!!! 小生、キャサリンを倒してぷきゅのすけを崩す最強の証人を連れて来ましたぞ!!!」





と、痩せ型の警察騎士の男性がぜえぜえ言いながら走り寄ってきました。



その傍には「お仕事の為に全良疾走して死にかけるユーくんカッコイイ♡」と言いながら一緒に走っている可愛らしい女性がいます。



……そして、その後ろには。





「ロマン隊長!! キャサリンが愛読していた『私の夢の王子様〜自分で書いた物語に異世界転生して自分のキャラに溺愛された件について〜』の作者を連れて来ましたぞ!!! この作者なんと小説家を辞めたあとは漫画家になってましてな!! だから探しても見つからなかったんです!!!」





可愛らしい女性からユーくん♡ と呼ばれたユーくんさんは、長身で爽やかな雰囲気の男性を連れてこられました。



この方が、『私の夢の王子様〜自分で書いた物語に異世界転生して自分のキャラに溺愛された件について〜』を書いた作者様なのでしょうか。



というか、小説家から漫画家って凄い転身ですね!





「イッカク副隊長……スマソ。……裁判、もう、オワタ……」


「え」





ロマンさんは「スマソ……」と申し訳無さそうに言っており、ユーくん♡ でありイッカク副隊長は膝から崩れ落ちました。





「そんな……この作者様の手元には、キャサリンから送られたファンレターが何通もありまして。……それがぷきゅのすけを崩す決定的な証拠になるかと」


「おまいは……仕事熱心だからなあ……」





膝から崩れ落ちたイッカク副隊長を労うロマンさんの背後から、物語の作者である男性が歩み出て来ました。



人の良さそうな爽やかな見目の男性は、優しそうな顔でキャサリンさんに微笑みます。





「貴女が、キャサリンさんですか?」


「え、ええ。うん。そうだよ」





自分の愛読していた物語の作者様が現れて、キャサリンさんは戸惑っておられるようです。





「貴女はずっと、僕にファンレターを送ってくれてましたね。……『私の夢の王子様〜自分で書いた物語に異世界転生して自分のキャラに溺愛された件について〜』は、尖り過ぎた内容で残念ながら三巻で打ち切りになってしまいましたけど、それでも。……小説家が駄目なら漫画家になってやろうと諦めずにいられたのは……。貴女が送ってくれたファンレターのお蔭でだったんですよ」


「……そ、そっか……。届いてたんだ。……ファンレター」


「ええ。……貴女のファンレターのお蔭で、僕は夢が見れたんです。……売れない作家はすぐに使い捨てられる荒んでイカれたクリエイター業界じごくで、それでも諦めずにクリエイターとして生きてやるって夢を見れたのは、キャサリンさんの熱心なファンレターのお蔭だったんですよ」


「…………なるほど。この人は、私を崩す最強の証人だね。……この人を出されたら、私は負けてたよ。……でも、すごいね、小説家から漫画家なんて。逆は聞いたことあるけど、絵は得意だったのかい?」


「ええ。父が漫画家なので。……フォティオン戦隊サツレンジャーの作家と言えばわかりますか?」





フォティオン戦隊サツレンジャー、これは、シドウさんが子供の頃大好きだった漫画です。


この漫画のお蔭で、シドウさんは警察騎士って良いなと思われたのですから。


……それに、シドウさんがご自分の赤い髪と目を好きになった大事な作品でもあります。





「マジかよ……俺、その漫画めっちゃ好きです!!」


「!!??? え、ええ……!! どうも!! あははは!!!」





おやおや? シドウさんにグイグイこられて、作家様は何故か顔を赤くして戸惑うようなご様子をされました。


でも、シドウさんと握手をしながら嬉しそうにされているので、きっと照れてしまわれたのですね。多分。





「あ、キャサリンさん。……実は、『私の夢の王子様〜自分で書いた物語に異世界転生して自分のキャラに溺愛された件について〜』が、今度漫画化……コミカライズするんですよ」


「え!? 嘘お!! ほんとに!? ほんとに!?」


「ええ! 最近女性向けのファンタジー恋愛漫画が流行ってますから、『私の夢の王子様〜自分で書いた物語に異世界転生して自分のキャラに溺愛された件について〜』は売上こそアレでも『熱意のこもったファンレターを何通も送ってくれるファンがいるから一発やってみるか』ってコミカライズ化が決定したんです。……貴女のファンレターが、僕の夢を叶えてくれたんですよ」


「そっか……そっかあ……うん。…………そっか」





キャサリンさんは目に涙を浮かべながら、



「『私の夢の王子様〜自分で書いた物語に異世界転生して自分のキャラに溺愛された件について〜』のコミカライズを読むまでは何が何でも死ねないね。……絶対、生きて読まなきゃね」



と笑っておられます。



そんなキャサリンさんに釣られて泣いてしまったロマンさんは、



「イッカクおまい……おまい、良い仕事したなあ」



と肘で突付いており、そんなイッカク副隊長は



「え? 小生なんかしちゃいましたか?」



と何が何だかわかっておられないようです。





「あ、そうだキャサリンさん。……せっかくなんで、僕の名刺を受け取ってください。……小説は趣味で続けてますけど、漫画はいっぱい描いてますから」


「うん!! ありがとう!!!」





物語の作家様はズボンのポケットから名刺入れを取り出され、そこから一枚名刺を取り出しキャサリンさんへ渡されました。



でも、その拍子に一枚ぺろりと名刺が落ちてしまい、私はそれを拾いあげ





「…………ぇ」





言葉を無くしました。



私が拾い上げた拾い上げた名刺には、



『男性向け的な良い感じのムチムチ感がありつつも、そこまで厳つくも無い絶妙なバランスの絵柄で描かれたキリッとして鋭いお顔立ちの男前が、ドスケベな感じになってる絵』



が印刷されており……。





「まさか」





裏面をめくると、そこには



『満開潮吹き竿のすけ』



と書いてありました。





「ぇ……え? ……これ、確か、ロマンさんが……クローバーランドに着く前馬車の中で読んでた……男前がドスケベなことになるドスケベ漫画の……」




私は馬車の中で漫画を読んでいたロマンさんを思い出しました。




『でしょでしょ……? ヒヒッ……ヒヒッ! ロマンの趣味はもっとこう男性向け的なムチムチ感のあるスケベか感じの、でもガチムチほどではない良い感じの肉付きをした屈強で気高い男が無茶苦茶にされて快楽堕ちするハードな感じが好きっちゃけど』



『というわけで今はロマンの真向かいにいる悪人面の後輩んこつば忘れて漫画に集中するけん。『満開潮吹き竿のすけ』先生の新作に一読者のロマンは全てを捧げて応えるけん』




そう言ったロマンさんは、真剣にドスケベ漫画を読んでおられました。




え……。


キャサリンさんと感動的な対面をした、この爽やかな見目の優しそうな男性が、シドウさんみたいな男前がドスケベなことになるドスケベ漫画を描かれてる『満開潮吹き竿のすけ』先生なんですか……?



え……、いや。


ここは旅立ちのキャサリンさんと、彼女のファンレターのお蔭で漫画家として夢を叶えられた爽やかな見目の優しそうな美男子のロマンスを匂わせる爽やかな展開じゃないんですか……?



え……、というか、あの。



この爽やかな見目の優しそうな美男子が、『満開潮吹き竿のすけ』…………。え、ええ……。



私が絶句していると、満開潮吹き竿のすけ先生はお仕事用の名刺をシドウさんにも笑顔で渡しつつ




「今度のコミケに出す漫画は警察騎士モノにしようかなぁ〜」




とボソリと呟かれました。



ああ、だからシドウさんを見て取り乱されていたんですね、この人。



というか、おい、満開潮吹き竿のすけこの野郎。


なにシドウさんを見て漫画のネタ決めてんねんオイコラ。



私はそうツッコミを入れようかと思いましたが、唖然としている私以外、キャサリンさんとシドウさんとリヒトさんとロマンさんとイッカクさんとその恋人だか嫁さんだかの可愛らしい女性はみんな感動しているのか泣いておられます。


もちろん、満開潮吹き竿のすけ先生も澄んだ青空をバックに爽やかに嬉し泣きされてました。



そんな私達を気持ちの良い風が通り抜け、ブラッニーランドの入口に咲く花から白い花びらが舞い上がっています。



でも、私の心だけは晴れません。



満開潮吹き竿のすけのせいで、私だけただ呆然としていました。





「それじゃあみんな、私は汽車の時間だ。……また会おう。約束だよ」





キャサリンさんは革の鞄を持ち直し、私達とは逆方向の道へと歩んで行こうとされています。



私は満開潮吹き竿のすけの名刺を激闘の末破れかぶれになったドレスの隠しポケットにしまい込み、満開潮吹き竿のすけのことは無理矢理忘れることにしました。





「キャサリンさん。……フォティオン学園には、ジル先生っていう優しい先生がいるんです。……だから、きっと大丈夫ですよ!」


「ありがとうプロメさん。……君達も、きっと大丈夫だよ。…………君達なら、きっとどんな物語げんじつにも立ち向かえるはずさ。……どんな悲しい物語も、君達ならハッピーエンドに『書き換え』られるはずだから」


「はい! ……望むところですよ!!」





心の中では、『キャサリンさんすんません、今すぐ私の頭から【満開潮吹き竿のすけ】を書き換えてください』と思ってましたが、黙っておきました。





「それじゃあ、またね! ありがとう!!」





キャサリンさんはそう笑って、駅へと旅立って行かれました。



彼女が向かう新天地には、ジル先生がいます。


あの人ならきっと、キャサリンさんをより良い未来へ導いてくれるでしょう。



何も心配はありませんでした。

キャサリンさんならきっと大丈夫。



心の底からそう思えたのです。





「それじゃあ、私達も帰りましょうか。……次来る時は、ブラッニーランドに遊びに来るときですよ。……その時は、金の力で思う存分豪遊しましょうか!」





私がそう言うと、シドウさんもロマンさんもリヒトさんも頷かれました。



こうして、私達は悪夢クローバーランドを後にしたのです。


嵐が丘と呼ばれていた不毛地帯を、優しい風が撫でるように吹き抜けていきました。
















本日で『第二部』クローバー家の悪夢編は完結です!


凄まじく頭を使い非常に死ぬほど悩みました本編でした…!


ここからは7/31までプロメとシドウのイチャラブ溺愛ラブコメとか、

そこら辺のゆったりしたお話を書く予定です。そして私の頭を休める予定でもあります。


と、いうわけで、べた褒めレビューと星5評価とブクマ追加を何卒よろしくお願いいたします~!!


꒰ ՞•ﻌ•՞ ꒱夏コミの原稿も頑張ります!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 第二部お疲れ様でした!!今回は一番のめり込んで何度も絶句し感動は圧巻でした! まずは裁判パートですね。現代のような指紋やらDNAが無いので見つければ勝ち確定な要素がない中で、(눈‸눈)達が…
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