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97・風と大地の精霊を撃破したお前(シドウ視点)

「……つまり、俺達四人はパンドラの罠にかかった挙げ句、ヘンリエッタ殿に踊らされてたってこと……ですか!?」





大地の精霊をぶっ殺した数時間後、俺はクローバー宮殿の客間のベッドの上で目を覚ました。



すると、俺と隣のベッドで寝ているプロメを看病していたロマン先輩から『ヘンリエッタ局長が報告しに来いってさ』と告げられ、寝起きからとんでもねえ悪夢が始まったもんだとうんざりした。



隣のベッドで眠るプロメの寝顔を見て、強酸の糸による火傷の後が無いことを確認する。


ロマン先輩の治癒魔法は完璧だ。だからプロメに火傷の跡は残らないと頭ではわかるが、それでも心配なもんは心配だった。




『プロメちゃんの火傷は完璧に治したよ。だから跡なんか一つも残しとらん。……勿論、シドウちゃんもね』




そう言って優しく笑ったロマン先輩に『ありがとうございます』と頭を下げると、嫌々ながらヘンリエッタ殿の元へ報告に向かった。


ヘンリエッタ殿が待つクローバーランドの最高級ホテルの頂上階の部屋に入った俺は、例のごとく『シドウ、おすわり』と言われ『俺は犬ではありません』と言い返しても『それでは犬は人以下だとお前は馬鹿にしているのかい?』とかなんとかグチグチ言われ、何を言っても無駄かと諦め地面に片膝をついた。



そして、先程パンドラの取り調べを終えたヘンリエッタ殿は


『全部パンドラの罠だったみたいだね。……毒殺未遂事件もあの子の自作自演。もしキャサリンかヒンドリーを逮捕していたら、私は権威失墜で破滅していたらしい。……いやあ、権力もチート能力も無い後ろ盾皆無な身の上でよくやってるよ。すごいね』


と呑気な様子で語ったのだ。





「……パンドラの目的は、クローバー家襲撃事件の真相を暴かせること。……でも、もしヘンリエッタ殿に逮捕されたキャサリンが何も語らなかったら……? それだとクローバー家襲撃事件の真相を暴くことは不可能なんじゃ」





パンドラは『自作自演の毒殺未遂事件』と『この世界の作者を名乗るキャサリン』などの罠を、まるで蜘蛛の巣のようにクローバーランド中に張り巡らせ、パンドラを追って来た俺達やヘンリエッタ殿もまとめて一網打尽にしようとしてきた。


その目的がクローバー家襲撃事件の真相を暴かせることなら、蜘蛛の巣らしく穴だらけじゃないかと思う。





「それなんだけどね、シドウ。……パンドラ嬢からしたら、どの道筋を辿っても最終的にヒンドリーは破滅するように仕組まれてたんじゃないかなあ。まるで巣の真ん中で待ち構えてる蜘蛛みたいにさ。……どの糸を辿っても、最終的に蜘蛛にバリバリ食べられちゃう。そんな感じだと思うんだ」


「それは、一体どういう……」





どの道筋……つまり『キャサリンが逮捕される道筋』でも『ヒンドリーが逮捕される道筋』でも『ヘンリエッタ様がどちらも逮捕出来ない道筋』でも『俺達がキャサリンに負ける道筋』でも、全ての道筋が罠の真ん中で待ち構えてる蜘蛛に繋がっている。



正直、何じゃそりゃと思う。





「……お前は風の精霊と大地の精霊をぶっ殺したんだ。……この話を聞く権利があるだろうね。……ま、どちらにせよ、もう精霊は『私の身に宿る水の精霊しか残ってない』んだ。……話したところで何の問題もないか」


「は?」


「ここで問題だよ、シドウ。……風の精霊シルフと大地の精霊ノーム。……そして、水の精霊ウンディーネ。……この三つに共通している点を述べよ」





ヘンリエッタ殿は人差し指を立てて教師のように俺へ質問した。



……まどろっこしいことしねえでさっさと答えを教えて解放してくれよと言いたいが、この人がタダで俺に情報を与えるわけないので、諦めて考える。



風の精霊シルフ、大地の精霊ノームは、共に半透明の本体をしてクラゲのような体をしていた。


でも、大地の精霊ノームはクラゲのような体を変形させ水饅頭蜘蛛野郎になったのだ。



つまり、精霊達の姿はクラゲでありつつもバラバラであるから、『精霊達の共通点は半透明のクラゲのような姿をしています』という答えは成立しない。



しかも、俺はヘンリエッタ殿に宿っているとかいう『水の精霊ウンディーネ』の姿を知らない。



ならば、共通点は『精霊』ではない。


……もしかして。





「風の精霊シルフを宿していたのはルイスという男……ではなくルイーズという女性だった。……それに、大地の精霊ノームを宿していた先代の当主はシロツメという女性。……その次の世代の当主はキャサリンという女性になった。…………そして」





俺はヘンリエッタ殿を見上げた。



高級ホテルのスウィートルームのバカでかいソファーに寝そべるよう座り、ふんぞり返るめっちゃ怖い女は、蛇のような目で笑っている。





「精霊は、女性に宿る……ってことですか?」


「詰めが甘い。やり直せ」


「……」





内心で舌打ちしながら、現在わかっている内容を思い出し、頭を酷使しまくった。



ルイーズは男のルイスの振りをして生きてきた。


彼女の記憶を垣間見たというプロメから聞いた話だと、『当主の座を巡る争いがあまりにも危険過ぎて、父親から男の振りをして身を守れ』と押し付けられたからだったそうだ。



次に先代の大地の精霊ノームの宿主であるシロツメだ。


彼女はクローバー家の当主でありクローバー教の教皇として、クローバー領の北の最奥にあるフォティオン大聖堂で一生を過ごして俗世と離れていた。


これは、キャサリンが引継ぎの儀を行う前に話していたことである。



次に、キャサリンだ。


彼女は病人としてクローバー宮殿に閉じ込められ、出歩けるのはクローバーランドしかなかった。


当然、周りはシスター……つまり女性だらけで、男性はヒンドリーのジジイか世話役のヒーラーであるエンジュリオス王子のみ。



……だが、キャサリンは大地の精霊ノームを身に宿そうとしたら、『まるで大地の精霊が拒絶したみたいに』口から糸を吐いて大騒動になった。



その時……その直前、ヒンドリーは酷くブチギレて



『貴様エンジュリオスゥゥゥウウウウ!!!!! 貴様!!!!! 貴様まさか!!!!』



とエンジュリオス王子に掴みかか





「!!! ……まさか、いや……それは……さすがに」





ルイス――つまり男として生きてきたルイーズの恋人は、恐らくパンドラのみだろう。



そして、大地の精霊ノームを宿していた先代のシロツメは、恐らくキャサリンと同じぐらいの年の頃、大地の精霊ノームを宿し、そのままクローバー大聖堂で生涯を過ごした。



……でも、キャサリンは……もしかして……エンジュリオス王子と。





「……あの、申し訳ございません、ヘンリエッタ殿。……今から最悪のセクハラ発言をいたしますが、平にご容赦願えますか」


「なんだ、言ってみろ」 


「……精霊達の共通点は、宿主が……その、『異性と……関わりのない女性』……なのでは?」


「何を恥じらってるんだお前は。素直に処女と言え」


「で、でも……それは……さすがに……! その……っ!」





ソファーに足を投げ出し肘掛けに頬杖をついてふんぞり返る偉そうなヘンリエッタ殿は、情けないもので見るかのような顔で俺を蔑んでいる。



だが、やはり女性に向かってそういうことを言うのは申し訳無いしなんか恥ずかしいしで、どうにも落ち着かなかった。





「まあ、正解だよ。……精霊と言うのは、処女の体でしか宿せないんだ。……これは、当主になったあと初めて聞かされることでね。……そりゃそうだろう。限られた人しか知らない極秘情報だからね。……だから、当主候補の少女達は特に厳重に管理されるんだよ。……ルイスがその良い例だ」


「……でも、それじゃあキャサリンの世話役にエンジュリオス王子を置いたヒンドリー卿は……あのジジイこそガバってるんじゃ」


「…………それに関しては、恐らく、エンジュリオス王子は『女慣れしてそうな超絶美男子だから、キャサリンのようなヤク漬けで頭がガンギマッた気色悪いガキなんか相手にしない』って判断したんだろう。……それに、エンジュリオス王子とキャサリンにヒーラーと患者という交流を持たせて、白い結婚でもさせたかったのかな? そうすりゃエンジュリオス王子はあのジジイの義理の息子だ」


「ま、まあ……自国を追放された流浪の王子エンジュリオスには、公爵家の令嬢との白い結婚はありがたい話だと思いますけど」





ヒンドリー卿はエンジュリオス王子に必要最低限しかキャサリンと接触させてなかった。


それに、キャサリンとエンジュリオス王子が接触する時は、シスターかヒンドリーが常に傍にいる状態だったなと思い出す。


そう思うと、女を選び放題の美男子ヒーラーのエンジュリオス王子が、自分はこの世界の作者だと自称するガンギマッたキャサリンと秘密裏に交流を持つなんて予想しないだろう。



エンジュリオス王子がキャサリンを『病人として助けたい人』だと思うことがあっても、『女性として見る事は無い』と判断するのは、自然だと思う。

  


そもそも、相手はガンギマッてるとはいえ公爵家の令嬢だ。そんな相手に手を出すなんて、自国を追放されてる流浪の身分で馬鹿な真似はしないとヒンドリー卿は考えただろう。



それなら、ヒーラーとして病人を助けたいと思うエンジュリオス王子の庇護欲をくすぐり、キャサリンと白い結婚をさせようとしたのだろうか。



俺には何もわからない。





「多分、キャサリンがエンジュリオス王子に恋をして一夜限りの夢を求めたんじゃないかな? 仮に、エンジュリオス王子が騒ぎを起こせばすぐにシスターが駆け付けて来る。……ならば、キャサリンの方がエンジュリオス王子に恋をしたと見ておかしくはないだろう」


「……そうですか。……でも、エンジュリオス王子も、無責任じゃありませんか? だって一夜限りなんて、そんなの」


「一夜限りの関係は嫌か? ……お前は夢の世界にいた姫君キャサリンよりも乙女だな。……この世界にどれだけ一夜限りの関係があると思うんだ。……例えば、死地に出向く警察騎士や冒険者や傭兵が、死ぬ前に想い人と触れ合うなんてこともあるだろう。勿論、男女問わずな。……キャサリンも、クローバー大聖堂で一生を過ごす前、恋した男と夢が見たかったんだろう。…………お前、女を拐う賊みたいな悪人面をぶら下げてるくせに、今時珍しいくらいに純情だな」


「……すいませんでしたね」





そう吐き捨ててそっぽ向いた俺を、ヘンリエッタ殿は「まあ良い」とつまらなそうに流した。



そして、「話がそれたな。お前のせいで」といらんことを言ってから話を続けたのだ。





「精霊を宿せるのは処女のみ。……これは別に、『鑑識部隊の連中のような、好きな女の傍に男の気配がしただけで死ぬというユニコーンの如き繊細な生態である……という意味では無い』………………ここからは私の推論だが、精霊は恐らく生き物なのだろう。……だから、異性と関わりを持った体に宿るのが生き物として不可能なのだろうね」


「生き物として、不可能……?」





ヘンリエッタ殿は確かに『精霊は生き物』と言った。


精霊について最強の極秘情報を知っているヘンリエッタ殿が、だ。


やはり、大地の精霊とドンパチやったときに考えた俺の見立ては間違ってなかったのだろう。





「私は精霊についてこう考える。精霊を宿せるのは異性と関わったことが無い女性に限る。……それは何故か? そもそも、何故女性でないと精霊を宿せないんだ? 男性では駄目なのか? 女性に出来て男性に出来ないこと……それは、妊娠だ」


「あ、ああ……まあ……」


「恐らく、妊娠と言う女性特有の機能を頼りに精霊は体に宿るんだろう。……だが、妊娠と言うのは異性と関わりを持った女性に起こり得る状態である。……では何故、異性と関わりを持った女性では精霊を宿すことが出来ないのか。…………シドウ、お前。……ロマンくんの母君が『何の病で亡くなった』のか知っているか」


「確か、先輩が小さい時に子宮の岩で亡くなったって」


「子宮の岩……最新の言い方をすると、癌だね。……子宮の癌とは、この国では子宮の入口に癌が出来る病状を主に指す。……その癌の原因は、性交渉の際に感染する菌が原因だと言われているんだ。……詳しい事はこの国の医学ではまだわからないけれど」


「菌……ああ、あれですか、パンとか膨らませる目に見えない生き物……でしたっけ」


「そうだよ。……その目に見えない生き物。それが体内に入った女性の体に精霊は宿れないんだろう。……精霊からすれば、新しい部屋に引っ越したと思ったら、その部屋に知らない奴がいた……という感じだろうね」





ヘンリエッタ殿は



「これは性交渉が汚いということではないよ。愛し合う者同士が同意の上で互いの体を大事にするのは素晴らしいことさ。それに勿論、きちんと避妊具をつければある程度は回避できると思われるけど、絶対じゃない。……だから、気を付けるに越したことはないね。…………いっそ、微量の菌を体内に摂取して、それに体を慣らし抗体を身に着ける仕組みでもあればいいのに」



と前半はよく分かるが後半はわけのわからんことを言った。



そしてその時、公安時代の先輩が『シドウ……俺みたいにチ◯◯の先から緑色の汁を出したくなけりゃ、避妊具はちゃんとつけろよ……。それだけじゃない、避妊具は大事な相手を守る男の礼儀だぞ……』と苦しそうに股間を押さえていたのを思い出した。





「まあ、性交渉をして目に見えない菌が体内に入ったからといって、全員が全員子宮の岩になるわけじゃないし、それに対抗する薬もこの国には出始めた。……でも、用心には越したことは無いから、キャサリンにはそれをきちんと教えておくことだね。……彼女は頭の良い子だけど【知識はクローバー家襲撃事件が起こった十二歳で止まっている】から」


「……ロマン先輩に言っときます。……でも、えっと、つまり……キャサリンさんは……エンジュリオス王子と関わりを持ってしまったんですよね……? それじゃあ、大地の精霊を身に宿すなんて」


「最初から不可能だったんだよ。……それに、この極秘情報は当主候補の少女達の身の安全の為に、『当主とその親以外に絶対に漏らすな。当主の親が死んだ場合は御三家の極秘会議で当主代行に伝える』と御三家で取り決めていたから。……こんな情報が漏れたら、大変なことになるだろ?」


「それじゃあ……シロツメの親はもう死んでるだろうし、その情報を得られなかっただろうクローバー家の当主代行のヒンドリーは他の御三家からそれを聞いた。

だから、キャサリンを厳重に管理して次の当主にしようとした……。

でも、隣国から追放されたエンジュリオス王子という御三家カードバトルにおいてチート級の切り札を手に入れてしまったヒンドリーは、その切り札を完全に自分のものにしたかった。

……だから、病人のキャサリンを利用してヒーラーであるエンジュリオス王子の庇護欲をくすぐり、白い結婚に持ち込もうとした……。でも、そんな強欲過ぎる思惑は」


「キャサリンの純粋な恋心に打ち砕かれた。……というわけだろうね」





あの強欲なヒンドリーならやりかねないと思った。


それに、若い女ばかりを追い回してろくに求められたことも無さそうな貴族のオッサンが、女から男に一夜の夢を求めるなんて発想すらなかっただろうから。



そんなクソ親父の思い上がりと傲慢が、娘の純粋な恋心に負けた結果がこれなのか。





「最初の話に戻るけど、パンドラはこのことを知っていたんだね。……エンジュリオス王子とキャサリンが関係を持ったことを。……だから、キャサリンが大地の精霊を宿すなんて絶対に不可能だとわかってた。……だから、どっちにしろ大地の精霊の引継ぎの儀は失敗して、大地の精霊が暴れ出してクローバー家が終わることは決まってたんだ」


「それじゃあ……パンドラは、最初からクローバー家が破滅することがわかったうえで、さらなる利益を得ようとした……。だから、自作自演の毒殺未遂事件なんて馬鹿な真似をして、俺達を巻き込んだ」


「どうせ爆破するなら、いっちょド派手にぶっ壊すかって感じだろうね」


「なんて奴だよ……」





大人しそうな顔して、とんでもなく凶暴な女だとわかった。


パンドラは、蜘蛛の巣にかかった俺達をまとめて大地の精霊の水饅頭蜘蛛野郎に食わせようとしてたってことだ。


蜘蛛におれたちを食わせたあとは、クローバー家襲撃事件の真相を垂れ込みクローバー家諸共爆破する……。こんなの、策士とか策略とかそんな綺麗なものじゃない。





全部死ね。





パンドラはそう言ってる気がした。





「ま、結果として大地の精霊はお前がプロメさんと一緒にぶち殺したんだ。……おまけに、風の精霊もね。……この極秘情報も、こんな状況じゃただの種明かしにしかならない。……だから、共有しておいた方が得だろう」





ヘンリエッタ殿はそう言って笑った。

いつも通り、不遜で人を見下したような冷たい笑顔だ。





「……なあ、精霊二体をぶっ殺した、プロメさんの加護人の騎士のシドウ。……お前は、『女王精霊の騎士』という存在をしっているか?」


「え、何ですか突然。女王精霊の……騎士、ですか? 女王精霊……? ってあの、プロメテウスのことでしょうか?」


「そうだよ。……学者の間でも、そんなんいたかどうか論争が起こる、この国の伝説の存在『女王精霊プロメテウス』……これを守る存在が、大昔にいたという説が、学者の間で噂されていてね」


「は、はあ……」





ヘンリエッタ殿は学術的根拠のある話しかしない。


先程のように、精霊を身に宿すと言うことを学術的に考察することはあっても、こんな『女王精霊プロメテウス』だとか『女王精霊の騎士』だとか、おとぎ話はしないはずだ。





「女王精霊プロメテウスの根拠を示す壁画や民話にはね、必ずプロメテウスを守っていた存在がいたことが示唆されているんだ。……私はそんな『女王精霊の騎士』を、『実は加護人の騎士として女王精霊の加護を共有された加護無しだったのでは?』と考えているんだ」


「……何を根拠に」


「『女王精霊の騎士』は、『女王精霊プロメテウス』と同等の力を持っていたと言われているからね。……精霊を宿した加護人を除く加護人は、あくまで精霊の加護を得た存在でしか無いから、同等の力は無いんだよ。……でも、加護人の騎士なら、媒介を得さえすれば『同等の力を手に入れられる』」


「……まあ、そうですけど」





ヘンリエッタ殿は何を言っているのだろう。



加護無しは精霊から見放された棄民とされている。


それなのに、女王精霊プロメテウスを護ってた女王精霊の騎士は、実は加護無しだったのでは? とヘンリエッタ殿は考察されている。


正直、この人の考えはリヒト先輩以上にわからない。





「女王精霊の騎士は、とても強靭な肉体と頑強な精神力を持っているらしくてね。…………『今のところ』……この条件に当てはまる加護無しは一人しかいない」


「…………まさか、あんた、俺が……その」


「うん。お前は女王精霊の騎士の末裔か生まれ変わりのどっちかじゃないかって、思ってるんだよ。私は」


「んなアホな」





ガキの頃、よく夜になると『実はチート的な存在の俺が、無双して女にモテまくるチートハーレム物語』を夢に見ながら眠っていた。


そういう漫画や小説は死ぬほど読んだし、ハーレムものにありがちな可愛い女のエロいシーンには色々とお世話になった。



そんなどこにでもいる普通のガキだった俺にそんなことを言われても、正直困ってしまう。



寧ろ小っ恥ずかしくて仕方ない。





「……それか、ただの超強え一般人か」


「多分そうだと思います。……うちは先祖代々武器屋ですし、『ここで装備していくかい?』って英雄達に聞く側でしたから」


「それじゃ、突然変異した超強え一般人かな」


「……正直、その方がしっくり来ますね……」





良い年こいて何言ってんだこの人はと思う。



……でも、もし俺がその女王精霊のなんちゃらと言うチート的存在なら、ヘンリエッタ殿が俺を警察騎士から解雇せず資料室にぶち込んだのも頷ける。



この人は、本気で俺がそのチート的な存在だと思っているのだろうか。



それとも、ただの超強え一般人だから便利だし置いとくか、くらいに思っているのだろうか。




ヘンリエッタ殿の蛇のような目を見ても、答えは何もわからなかった。





「……何にせよ、引継ぎプロメさんの監視はお前の仕事だからね。……彼女の価値を、お前もしっかり【考えて】おけよ」





考えておけよ、とヘンリエッタ殿は言った。



以前、ヘンリエッタ殿はプロメを『この国の鉄工業を支える大企業の姫君』と話していたのを覚えている。



……それなら、考えるまでもなくプロメの価値はわかる。



それなら、考えなきゃならないプロメの『価値』と言うのは一体なんだろう?

 


ヘンリエッタ殿は、一体何が言いたいのか。



リヒト先輩以上にわけのわからん彼女は俺を『女王精霊の騎士』の末裔とか生まれ変わりとかそんなんだと睨んでいるらしい。



……もし、その線で行くなら、じゃあ、『風の精霊や大地の精霊と同等に戦える炎の加護を俺に共有してくれる【プロメは一体何なんだ?】』




まさか……あいつは……。


あの『くぅ〜ん♡ へっへっへっへっ♡ きゃう〜ん♡ ペロペロッペロペロッ♡』とポメラニアンのように舌を出して、俺の胸に顔を埋めて深呼吸をしながら可愛く笑いかける清純で純情で気高いプロメは……。





「女王精霊プロメテウス?」





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