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90・大地の精霊ノームを撃破せよ

「まずは足からだ!!水饅頭蜘蛛野郎!!!」





シドウさんは炎を纏った街灯を槍のように振るい、水饅頭蜘蛛野の前足を一本薙ぎ払いました。



街灯は腐食の防止のため金属で出来ています。

だから、クラゲ野郎と同様に、熱した金属で触手の足をぶった切られたら再生不可能なのでしょう。





「mgjgadpxpdg!!! hnontmhnontmhnontmhnontmhnontm!!!」





水饅頭蜘蛛野郎は金切り声をあげてバランスを崩しましたが、あとの七本の足で身を支えながら再び空へ飛び跳ねました。





「あの水饅頭蜘蛛野郎……飛び跳ねる力が落ちてやがる。……つーことは、足を切り離していけば……勝機があるってことか」


「落下攻撃にさえ気を付ければ、風の精霊のクラゲ野郎よりも楽勝かもですね!!」





風の精霊シルフの時は、宙に浮いて奇声を発する巨大なクラゲ野郎の弱点がわからず苦労しましたが、今回は違います。



熱した金属に触れると溶ける、という精励の弱点を知っている私達にとって、大地の精霊ノームなどただ図体がでかいだけの水饅頭に過ぎません!!



そんな水饅頭はヒュゥゥウウウと音を立てながら落ちてきて、ドスンッッッ!!!! と地面に着地しましたが、シドウさんは見事最小限の動きで避けられました!!



シドウさんの神回避能力の前では、水饅頭蜘蛛野郎の単純落下攻撃など何の意味も成さ





「!? いつの間に!? 足元に植物だと!?」


「え!? ぇええ!?」





シドウさんの驚いた声に、私も目線を下に向けました。



すると、クローバーランドのメルヘンな地面を割って土から生えてきた植物の蔓が、シドウさんの足を捉えようと巻き付いているではありませんか!?



地面を割って生えてきた植物に足を取られたシドウさんを目掛けて、水饅頭蜘蛛野郎はドスンドスンドスンドスンと地響きを立てて距離を詰めたあと、ヒュンッと飛び跳ねます。



シドウさんはすぐに炎を纏った街灯で植物を切り払い、すぐにその場から離れて水饅頭蜘蛛野郎の落下攻撃を回避なさいました。



……ですが、水饅頭蜘蛛野郎の落下地点からは、地面を突き破って植物がニョキニョキ生えています。






「水饅頭蜘蛛野郎が飛び跳ねて地面に激突するたび……地面が刺激されて植物が生えてくるってこと……なのか?」


「え、じゃ、じゃあ、飛び跳ねてドスンと落ちてきたり、トゲだらけの足でドスンドスン地面を踏み歩くのも……地面を耕してるって……ことですか!?」


「環境に優しいんだか厳しいんだか分からねえな……ッ!! クソッ!! また植物がまとわり付いて来やがった!!!」





足元にまとわり付く植物を炎を纏った街灯でぶった切ったシドウさんは、水饅頭蜘蛛野郎の懐に飛び込んで素早く触手の足を切り飛ばします。



これで水饅頭蜘蛛野郎の足は六本です。しかも、ぶった切った足は両方右側なので、自重を支えられず水饅頭蜘蛛野郎は右側に倒れ込んでしまいました。



……ですが、残った右側の二本足と左側の四本の足でドスンドスンドスンドスンとシドウさんを追いかけ、強酸の糸を飛ばしながら、足元にはジワジワと植物の蔓を纏わりつかせて行きます。


しかも、この植物……どんどん蔓が太くなって強く育っていました。



さすが大地の精霊が耕した土から生えた植物だなあ……とかそんなことを思っている場合ではありません!!





「チッ……焼き払っても焼き払っても次から次へと湧いてきやがる……。これ、もしかして触手の足を全部切り落としても、その間にどんどん生えてきやがる植物にこっちの足を取られて終わりになるんじゃねえのか!? ……うわッ!! あっぶねえなクソが!!」





どんどん量と太さが増していく植物を焼き払うことに気を取られた瞬間、水饅頭蜘蛛野郎の放った強酸の糸がシドウさんの足元を狙い撃ちしてきました。



シドウさんはすぐに回避され無事ですが、制服のズボンに糸が掠ってしまったのでしょう。

糸が当たった部分が擦り切れるように溶けていました。





「野郎……足を狙ってきやがった」


「水饅頭蜘蛛野郎……もしかして足を二本持っていかれた仕返しをしているのでは……? それか、『足をやられると不利になる』と学習したのでしょうか?」


「戦いの中で学習……。確か風の精霊のクラゲ野郎もそうだったな……。つーことは、精霊は『学習する』性質があるってことか。……『ぶっ殺すのが可能で』『学習する能力がある』……こいつは……ますます生き物くさくなって来やがったな……!!」


「それじゃあ、精霊はやっぱり……生き物ってことですか!? ……ってシドウさん!! 水饅頭蜘蛛野郎が最初に落下攻撃をした地面から、めっちゃヤバそうな植物がニョキニョキしてます!!!!」





水饅頭蜘蛛野郎が最初に落下攻撃をしかけた地面かニョキニョキ生えた植物の蔓は、シドウさん目掛けて凄まじい速さで伸びて来ました。


そんな蔓を焼き切ることに集中していると、足元からは地面を割って生えた植物が足を取ろうとしてきます。


それに気付いた頃には強酸の糸が頬を掠めており、その痛みに顔をしかめた瞬間には、水饅頭蜘蛛野郎は空へ飛び上がり、落下攻撃を仕掛け襲いかかって来るのです。


その攻撃を避けても、落下攻撃の衝撃が地面を耕し刺激して、再び植物がニョキニョキしてくる悪夢のループでした。



なんなんですかこいつは……!?



こんな悪夢のような化け物が、大地の精霊ノームだって言うんですか!?





「草共を焼き払っても焼き払ってもキリがねェッ!!  それどころか焼き払う度に活発になりやがる!! …………もしかして、草共を焼き払うたび、焼畑農法になっちまってるんじゃ」





シドウさんの声に緊迫感が混じります。



焼畑農法。

それは簡単に言うと、生えている植物を焼くと残った灰が肥料となり、土地が元気になるという方法です。


私達は無自覚に、焼畑農法に近いことをしてしまったのでしょうか!?





「これは……水饅頭蜘蛛野郎の足を丁寧に一本一本ぶった切ってる暇はねェな。……あいつの足を全部ぶった切る頃には元気な植物による誰得の触手プレイが始まってるってわけか」





さすがに『その触手プレイは私がめっちゃ得します!! 助かります!!!』とセクハラ発言をするわけにはいかず、私は



「それじゃあ短期決戦であの水饅頭蜘蛛野郎を仕留めるしかありませんね!! 地道に足をもいで草共を焼き払ってたら、アイツの農業を焼畑農法で活性化させちゃいますし!!!」



とお答えしました。





「短期決戦で仕留める……か。それなら何か、街灯以外にも強え武器はねえのか……? というか、水饅頭蜘蛛野郎の弱点は何なんだ。風の精霊の時みてえなバカでけェ黄金像なんかねえし……」





シドウさんは短期決戦を決められ周囲を見渡されますが、武器になりそうな巨大な金属は見当たりません。



何か、何か無いか!?



そう思い私も辺りを見回しました。



その間、シドウさんは迫りくる植物や糸を焼き払いつつ、水饅頭蜘蛛野郎の落下攻撃を避けまくっています。



ですが、一発でも攻撃を食らったら即死という状況で避けまくるのも、体力と精神力がいつまで持つかわかりません。



何か武器になりそうな巨大な金属……巨大な金属……と私はクローバーランド内を見回します。



残念ながらクローバーランドは巨大な遊園地ですから、武器になりそうな物騒なもんなどあるはずはありません。



そもそも、なんで私達はこんな悪夢みたいな戦いに巻き込まれてしまったのでしょうか。



確か、パンドラを追ってクローバー家に攻め込んだら、この世界の作者を名乗るわけわからんキャサリンさんと手強過ぎるヒンドリーのオッサンに返り討ちにされ悪夢のような事態に陥ったわけです。



まるで、そこに蜘蛛の巣がある事に気付かず、呑気にヒラリヒラリと飛んでいた蝶みたい。


知らずして巨大な蜘蛛の巣にかかった私達は、そこで別の操り糸に舞い踊らされたわけです。



そして今、罠と操り糸だらけの悪夢の化身のような大地の精霊ノームを前に、私達は完全に詰んでいました。



一体何なんだこの展開は。


私はただ、シドウさんとイチャラブしてノクターンでムーンライトなドスケベタイムを堪能したかっただけなのに。


ただ純粋に、シドウさんをペロペロしたかっただけなのに。



何でこんなことになったんでしょう。



ああ、ホワイニーの鈴カステラをシドウさんに食べられたあのラブコメ展開が懐かしい。


どうしてあのまま甘々で私が溺愛されまくるような展開にならなかったのでしょう。


なんでこんなわけわからんミステリーモドキのクソつまらん展開に見舞われ、悪夢のようなクソデケェ水饅頭蜘蛛野郎と戦わなきゃいけないんでしょうか。



こんなん、戦いが終わったあとシドウさんにいっぱいチューしてもらわないと割に合いませんよ畜生ッ!!



あ〜あ!! ホワイニーの鈴カステラでラブコメしてた頃に戻りたい!!!


ホワイニーの鈴カステラでラブコメしてた……展開。





「……ホワイニーの鈴カステラ……あの時、あれを食べながら、私達何してたんでしたっけ……? 確か、列に並んでましたよね」





あの時。私達は列に並んで順番待ちをしていたんです。


途中、リヒトさんにサインを求める人達が集まったり、ロマンさんがアッセンブラッニーというイベントにすっ飛んでいたり色々とありました。



その時は……確か。





「歯車と機械の絶叫コースター『デウス・エクス・マキナ号』の列に並んでましたよね」





二百分待ちという地獄のような待ち時間の中、『つまり二百分もシドウさんと一緒にいられるんですね♡』とウキウキしながら並んでいた歯車と機械の絶叫コースター『デウス・エクス・マキナ号』の列で、私はシドウさんとホワイニーの鈴カステラをめぐってラブコメ展開をしていたわけです。




……歯車と、機械の絶叫コースター……。



……歯車。





「デウス・エクス・マキナ号……あの絶叫コースターって、『歯車で動いて』ますよね!? アレだけのクソデケェ絶叫コースターを動かす歯車は当然バカデケェはず……! それなら、そのデケェ歯車と歯車の間に、大地の精霊を挟んで擦り潰してぶっ殺せませんか!?」


「! 確かに……。歯車は金属で、しかもコースターが動くとなると当然歯車も稼働して熱を持つから熱する必要もねえ。…………動かし方は……デウス・エクス・マキナ号の調整部屋の放送機を使ってロマン先輩や避難してるスタッフに聞きゃ良いわけか……」





シドウさんは襲い来る蔓や糸を街灯で焼き払いつつ、足を取ろうとする植物を振り払い、水饅頭蜘蛛野郎の落下攻撃を避け続けておられます。


こんな初見殺しの連続技をノーダメージで回避し続けるシドウさんは一体何者なのでしょうか。


もしかして、シドウさんこそ伝説の存在の生まれ変わり的な何かなのでしょうか?


それともただの超強え一般人なのでしょうか?



なんて、そんなことを気にしている場合ではありませんね!





「デウス・エクス・マキナ号……クローバーランドに来て最初に乗ったアトラクションでトドメってか。……人生、何が起こるか分からねえなッ!!」





シドウさんはデウス・エクス・マキナ号に向かって全速力で走り出します!


背後から迫る糸や蔓を街灯で薙ぎ払いつつ、水饅頭蜘蛛野郎のドスンドスンドスンドスンドスンドスンという無慈悲な足音を聞きながらとにかく走ります!!




デウス・エクス・マキナ号……歯車仕掛けの絶叫コースター。


糸だらけの悪夢を断ち切るのが歯車になるとは、まさに歯車で動くアトラクションや舞台だらけのクローバーランドに相応しい悪夢の終わり方ですね。



そして、絶叫コースターが悪夢のトドメを刺すとは。


絶叫コースター……といえば、私達の人型絶叫コースターであるリヒトさんは、キャサリンさんから出された『ママ――フランシスを探して』という最後の挑戦に、どう応えるのでしょう。



デウス・エクス・マキナ号へ走るシドウさんの肩に掴まり半透明で宙に浮きながら、そんなことを考えていました。




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